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膨らみ続けた初恋

私の初恋はやや遅め。中学3年生、高校受験の合格発表の日だった。
相手は3年次に同じクラスだった、背の高い男の子。志望校が同じで、テストの点数を毎回競い合っていた。放課後は教室の後ろの黒板を使って、一緒に問題を解いていた。

それまではただのお友達かつ戦友。充実した受験生活を送っていた。

試験が終わり、合格発表当日。高校の前には大勢の受験生が集まった。

程なくして、合格者の番号が並んだ大きなホワイトボードが運ばれてきた。

自分の番号を見つけ、それまで張り詰めていた緊張が一気にほどける。

そうだ、彼の番号はあるだろうか。

彼の姿を見つけた。彼も私に気づいたようで、駆け寄ってきた。

「番号、あった?」
彼が私に問いかける。

「あったよ。君は?」
「俺もあった。やったね!」

彼は両手のひらを私に向けた。
条件反射でハイタッチをした。互いの手が合わさる音と共に、

私の初恋は途端に姿を現した。


高校生になった彼と私は、同じ校舎の中で別々の道を歩んでいた。
私は新しくできた友人とはしゃぎまくり、緩やかに成績が落ちていった。彼は勉学に励み、常に学年トップクラスの成績を叩き出していた。

初恋の病を患った私は、どんなにはしゃいでいても、彼を見かけると心臓が飛び出る程緊張して動けなくなった(その数秒後に、モジモジしていた自分を恥じて急に発狂する)。傍から見れば、そして彼から見ても、とんだ情緒不安定なヤツである。

私は高校生活の3年間、彼とろくに会話ができなくなっても、彼に彼女ができても、片思いをし続けた。


そして私は地元の大学に、彼は県外の有名大学に進学した。

そんな私でも、大学に入学後は彼氏ができた。彼氏の事は好きだったし、きちんと恋愛ができている事に安心した。

少しの時が経ち、大学2年生の冬。
成人式の2次会の連絡が来た。
私の育った地域は、成人式の2次会は中学3年生のクラス毎に行うのが通例だった。

ほんの少しだけ、初恋の彼を思い出した。あぁそういえば同じクラスだったな。2次会来るのかな。きっともっと素敵な男性になっているんだろうなあ。

想像を膨らませていたら、携帯が鳴った。まさかの彼からのメッセージ。
高校時代に嫌ほど味わった、あの心臓が飛び出しそうな緊張が私を駆け巡る。

『2次会、○○(本名)が行くなら行こうと思うんだけど、来る?』

飛び出しそうな心臓は、途端に喜びで満ち溢れ、踊り出しそうになる。ていうかもう、踊っていた。

そりゃあもう、浮かれまくった。すぐに出席する旨を、平静を装った文章で返信した。


迎えた成人式当日。式よりも、2次会で彼と再会できることに心躍らせていた。

振袖からお気に入りの洋服に着替え、2次会の居酒屋へと向かう。扉を開け、いざ入店。久々に再会したクラスメイトに軽く挨拶をしながら、彼の姿を探す。

見つけた…!


あれ、ちょっと…雰囲気……変わった…?

所謂、成人式マジックとは真逆の現象と言えばいいのだろうか。思っていたより、キラキラしていない………。

そもそも私はほぼ5年間彼と話していなかったわけだし、想像の中で彼を美化し過ぎていたのかもしれない。彼は雰囲気が変わったというより、実際のところはあまり変わっていなかっただけなのかもしれない。

私の膨らみ続けた初恋は、音も無くしぼんでいった。

それでも彼は、私との再会を嬉しそうにしてくれた。2次会では結局ほぼ彼としか話をしていない。まあ私は横でヤケになって日本酒を飲みまくっていただけなのだが。

3次会も彼に誘われたので参加し、皆でカラオケに行った。朝方、途中で私が帰ろうとすると、彼は家まで送るよと言ってくれた。

一緒にカラオケボックスを出て、朝焼けを見ながら歩いて帰った。会話の端々で、彼は私への好意を口にしてくれた気がする。
嬉しかった。けれどなんだか、高校時代の自分が感じたトキメキを蔑ろにしてしまう気がして、うまく返事ができなかった。

私の家の前まで着き、送ってくれたお礼を告げた。

彼とはそれ以降会っていない。


美化され続けた記憶は、徐々にいい意味で薄れつつある。

特に私から連絡をしようとは思わないが、今の私だったら中学生の頃と同様、彼とまた楽しく話せるような気がする。

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