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♯3 〝ひきこもり〟の私が通った××年前の高卒認定試験予備校

「ミーンミンミンミーンミーーーン」

蝉が鳴く。

夏が来た。

18歳。

高校をすぐに中退して、ずっとひきこもりを続けてきた私にとっての久しぶりの本当の夏となる。

高卒認定試験予備校に通うことになった私はハイになっていた。

体験に通うと、一般的な予備校と同じだろうか(少し駅から遠いか)……?

4階建ての建物に高卒認定資格(以降、高認)を取るための通学コース・高認を取って大学に行くための受験コース・個別指導コースがあり、同じ年ごろの人も多く見かける。(少し年齢が離れる人もいる)

思っていたよりもいいところじゃないか!と、気分が高揚したまま、丁寧に予備校の中を案内してくれる職員さんに言われるがままに入校を決める。

親に「高校中退して学費払ってないんだから行かせろよ!」などと暴言をはいて困らせたことはここだけの秘密である。

こうして、灰色からバラ色の予備校生ライフが始まる……わけがなかった……。


私が選んだのは個別指導コース。(一番費用がかかる)

そう。

私はそれなりに自称進学校くらいのところに通っていたし、すぐにレベル的に追いつけるだろうと熟考を重ね選んだわけだ。

……ウソだ。

いや、半分は本当だよ?

……3割くらいかな。(目を逸らす)

正直にいうと、久しぶりの人間こえええぇぇ。なんか不良とかいるんじゃねぇ?(体験では見当たらなかったのに……)絶対無理だよムリムリ……と日和った挙句に決めたわけだ。

そして、ハイなテンションも入校して少しすれば落ち着くわけである。

……個別指導コースって他の予備校生と関わりないのが売りなわけだしね。

自分が悪いよね。

家族からは青白くなった肌が普通に戻った(ひきこもりは病的に肌が白くなる)などと喜ばれ、まぁ、これもひとつの前進だよ……と自分を励ましつつ通っていく。

決まって食べるお昼はコンビニのサンドイッチだ。

重いものを食べたくないし、レタスとか野菜が入ってるし、消化にいいし、気に入っていたのだ。

いつも通りにエアコンの効いた教室で、窓から漏れる夏の日差しをボーッと眺めながらモソモソと食べている。


……ただ、この日は違った。


急に話しかけられる。


「〇〇くん……〇〇くん……ちょっといいスか?」

ビクッと体を震わせそちらを見ると、金髪の色が少し落ちかかってきた、ヨレた服を着た同じ年頃の男。

個別指導コースは1階の大きな教室にまとめられており、ひとりずつブースで区切られている。

とはいえ、衝立程度のもので講師と予備校生の声くらいは聞こえる。

それで名前を盗み聞いて声をかけたのだろう。

気持ちを休めていた私は思う。

……なんか嫌な態度だなぁ。

とはいえ、答えないのもおかしいだろう。

「なに?」

男は返す。

「〇〇くんはどうしてここにきたんスか?」

……プライベートなこといきなり聞いてくるなぁ。

みんな、そんなに良い理由で来ているわけないだろうに……。

「……高校を辞めてしまって家にばかりいて……。まぁ、大学?とか進学出来たらなぁってね……」

ふーんと興味があるようなないような返答。

私も名前を教えてもらい、少しムっとして聞き返す。

「……で、〇・〇・く・ん・は?」

どうせ、大したことない内容に決まっている。

落ちかけの金髪でヨレた服とか、不良のなりそこないかなにかだろ?と少し嫌味に言う。(金髪のみなさんすみません……)

男は答えた。


「……実は俺、中学を卒業して宝石の加工職人の見習いで働かせてもらってるんスよ。それで職場のみんなが、これからも続けていくなら専門学校に通ってもいいんじゃないかって。自分も続けていきたくて、天職だと思っていて……本当は仕事がしたいんス……勉強とか得意じゃないんスけど……。みんなが言うなら行った方がいいのかなって思って資格を取りに来たんス……」


「…………………………………………………………」


私は絶句する。


ただの〝ひきこもり〟としっかりと〝社会人〟として働いて夢を追っている青年。


『ごごごごめめんんなさいいいいぃぃいい』(心の叫び)


「……そ、そ、そうなんだぁ。すごいね……。頑張ってね……」

負い目と後ろめたさから、私は目を逸らす。

「もう、時間スね!〇〇くんも頑張って!!!」

にこやかに答える金髪の好青年。(印象が変わっている)

その日の個別指導は全く頭に入ってこなかった……。

とはいえ、その後も本当にたまに挨拶したり、勉強の話をしたりするようにはなったのだった。(本当にごめんね……)

彼が個別指導コースを選んだのは仕事で時間の都合があるからなのだ……。

私とは違う……。


他にも、予備校には模試(一番簡単な部類のやつではあるが)で偏差値65~70くらいの成績の利発な予備校生など色々な方がいた。

少し自慢になるが、私もひきこもってインターネットの文章と本を読んでいたおかげか(全く多くはない)、現代文だけ校内順位で1位を取ることができたのだ。

その利発な生徒は少しショックだったようだが……。(他は全部校内1位)

と、まぁ、ひきこもっていた期間にやっていたことも全てが無駄ではなかった……と綺麗に終わらせてもらおう。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


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