『M・Kホテルのボーイ』 1997.4.27

『M・K ホテルのボーイ』   1997.4.27

 チェンマイにある M・K ホテルには無料で泊まることができました。というのはバンコクよりチェンマイまでは250パーツを出して夜行バスで来たのですが、どうもその料金の中に一泊ぶんの宿泊料が含まれていたようなのです。

 M・Kホテルには洋風の小奇麗なレストランが併設されていました。欧米人に人気があるのでしょうか、いつも何人かの欧米人がテーブルにいました。そのレストランには何人かのタイのボーイがいて、僕はそのうちの一人であるサム君と仲良くなりました。

 周りが欧米人ばかりである中、日本人である僕が一人でポツンと佇んでいると彼が話しかけてきてくれたのです。サム君は32歳、笑うとすごく人の良さそうな顔になり、決してハンサムとは言えませんが、信頼のできそうな何とも言えない味のある顔の持ち主でした。彼はあまり英語が得意でないようであり、欧米人から注文を取るときには相手の言ってることがよくわからないことがあるらしく、しょっちゅう仲間のボーイに助け舟を求めていました。

 僕が夕食とそのレストランを取っているとき、サム君も仕事が一段落したのでしょうか、僕の前のイスに座り、人の良さそうな笑いを浮かべ話しかけてきました。たわいもない話をしたあと僕は彼に、「ところでサムくんはガールフレンドはいるのかい?」と尋ねてみました。「いや、残念ながらいないんですよ。だけど・・・」彼は言いました。「好きな人はいるんだ!」そして彼は財布を取り出し、その中から大事そうにあ一枚の写真を取り出しました。

 なんとそれはプリクラの写真であり、可愛らしい日本人の女の子の写真が写っていました。「可愛いじゃない」。僕が言うと彼はまるで自分の彼女が褒められたかのように照れて頭をかきながら言いました。「彼女とはトレッキングの時に一緒だったんだ。彼女がこのホテルに泊まりに来て、そして僕がアシスタントとしてトレッキングに一緒に行ったんだ・・・」。

 その子はまた近いうちにタイへ来る約束をしたらしいのです。「彼女の住所知っているのかい?」僕が聞くと、「いや知らないんだ」。どうも彼女にはその気はないらしい。「彼女はいくつ?」「21歳」。「ふ~ん、とても可愛いよ」僕が言うと彼は「そうなんだよ~」と嬉しそうに笑っていました。本当にサムくんは彼女のことが好きなんだろうなと思いました。
 

 結婚したら絶対浮気などしそうもないサムくん。だけど、『多分彼の恋は実らないのであろうな』そんな気がしてしまいました。なんとなく哀愁の漂う雰囲気を持ったボーイでした。

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