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コロコロ変わる名探偵

「犯人は、あなただ!」
 名指しされたのはA子。しかし、探偵の推理には欠陥があった。
「それでは、あなたが犯人というわけだ」
 B夫はうんざりした顔で、首を横に振った。またも推理は破綻していた。
「なるほど、読めてきましたよ。あなたが犯人ですね?」
 C美はネイルを点検しながら、根拠資料の提出を求めた。そんなものはなかった。
「最初から分かっていたんだ。犯人は、あなた以外にいない」
 D氏は探偵をぎろりと睨んだ。探偵はハンチング帽を深く被り直した。
「ふう、そろそろ遊びは終いにしましょう。犯人はこの中にいる。さて、真犯人は……」
 その時、いかにも害のなさそうな老人が群衆の中から進み出た。
「もうこれ以上、無益な推理を重ねないでくれ。あ、哀れすぎる。私が犯人だよ!」

 名探偵、毛無利大五郎。そのあまりの迷推理に、どんな犯人も根負けしてしまう。

「まさか、あなたが犯人だったなんて!」
 探偵は膝からくずおれ、いつものようにして叫んだ。

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