ショート:待ち時間

わたしは、何かを待つ時間というのがどうにも苦手だ。
そもそも待ち時間そのものを好んでいる人なんていないんじゃないか。

誰かとの待ち合わせ、有名店の行列、テーマパークのアトラクション、転職するタイミング、好きな人からのメッセージ。。。

待つことで得られる喜びが大きいから我慢をするけど、そのほとんどがつらい時間であったり煩わしいものだと思う。

ただ最近、一つだけわたしにも好きな待ち時間がある。朝の通学の電車だ。
正確には電車を待っているのではなく、毎朝見かけるあの人を待っている。

同じ電車にいつも乗るあの人のことを、いつの間にか目で追うように、気にするようになってしまった。
どこの誰かも知らないあの人を、今日は来るかなと待っている時間は、わたしにとって期待と少しの不安の混ざった心地いい時間だった。

ある日の朝、いつもと同じように電車2あの人8くらいの気持ちの割合でホームに立っていると、これまたいつもと同じような時間にあの人が現れた。

今日も見れてよかった、そう思ったのもつかの間、あの人の視線に違和感を感じた。
何かを目で追っているような。その先には何があるのだろう。

気づかなければよかったな、なんて思ってももう遅かった。
自分も同じだから、表情やしぐさでわかる。あの人もまた同じように、別の誰かを待っていたんだ。

失敗した。ゆっくり待っている時間なんてなかった。

やっぱりわたしは、何かを待つ時間は苦手だ。

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