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農薬を危険視するさまざまな声 《食卓の安全 study-3 世界編》

私がいま心配しているのは、「洗っても落ちない農薬」と「すべてを枯らす威力の農薬」だ。これら超強力薬剤といわれる農薬は、世界的に使用禁止・排除の動きも起きている。反して日本は安全性を主張。これはどういうことなのか? イメージに流されず、事実関係をしっかり把握していきたい。

■ネオニコチノイドとグリホサート

ここ数年で話題の農薬といえば、ネオニコチノイド系薬剤(殺虫剤)とグリホサート系薬剤(除草剤)だ。強力すぎる薬剤の性質に、動物実験でのリスク報告論文、健康被害の報告、使用反対のデモなど、世界では危険視する声が広がっている。

ネオニコチノイドは発がん性発達障害、グリホサートは発がん性、急性毒性、生殖毒性などの健康障害が上げられている。世界では被害件数も多数報告され、メディアやSNSで警鐘を鳴らす声はやまない。

まずネオニコチノイドだが、植物の内部に浸透し、かじった害虫を神経毒で殺すというもの。私たちが食べる前に洗っても、この薬剤は絶対に落ちない

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■ネオニコチノイドとミツバチの大量死

2005年頃から世界中でミツバチの大量死が見られるようになった。その原因としてネオニコチノイド系農薬が指摘される。ミツバチは野菜や果樹の受粉を行うため、養蜂業にも農業にとっても深刻な問題だネオニコチノイドによる生態系破壊と共に、人の脳やこどもへの悪影響の疑いもクローズアップされだした。

それを受け、欧米ではネオニコチノイドの使用を禁止・規制する動きが活発化する。日本はミツバチの大量死とネオニコチノイドの科学的因果関係が認められないとして、使用禁止には至っていない。また欧州の規制措置に対し、ネオニコチノイド系農薬を製造する住友化学も科学的因果関係に乏しいと反論した(原稿最下段の資料参照)。

各国の対応については、風土環境や使用状況の違いで並列比較はできないのかもしれない。そもそも私たちが気になるのは、これら強力薬剤の残留農薬規制の状況だ。まずは冷静に、そこから見ていきたいと思う。

■厳重規制されている、残留農薬の危険レベル

《study-2》で触れたが、農薬使用については一定基準量以下での使用が厳しく規制されている。残留農薬も同様に、ポジティブリスト制度が設けられている。ポジティブリストとは、すべての農畜産物に残留農薬基準値を設定し、基準値をオーバーする農畜産物は出荷停止回収廃棄にするというもの。

残留農薬の安全基準を測定しているのは内閣府の設置機関・食品安全委員会だ。ここで残留農薬のリスク評価を行い、人体に摂取しても影響のない残留農薬量を設定。この結果を受けた厚生労働省が薬事・食品衛生審議会を経て、残留基準を設定する流れになっている。

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ここで重要なのは、最終的な規制値だ。
厚生労働省は、食品安全委員会の化学的設定値だけでなく、安全性を求める民意も重視する。そのため化学的設定基準よりもはるかに厳しい、ゼロリスクに近いところで最終的な規制値を設定しているのだ。仕組みとしては安全だと言えるだろう。

■世界に広がるグリホサートの危険性

もう一方のグリホサート系薬剤(除草剤)は、農作物の使用だけにとどまらない。商品名「ラウンドアップ」の名前で世界中の公園や学校、幼稚園、ゴルフ場、また家庭などの除草に広く使われている。そのため健康被害の報告件数や裁判も多い。

2018年米国で、末期がん患者D.ジョンソン氏がグリホサートで発がんしたとして、製造企業のモンサント社を訴えて勝訴した。
これまで約5,000件の健康被害を訴える裁判があったが、いずれも巨大企業モンサントに太刀打ちできず敗訴している。
ジョンソン氏の勝訴は快挙となったが、これによって安全性を証言した研究者の偽証が明るみに出た。この裁判結果は世界中に広がり、モンサントはじめバイオ企業の株が世界同時大暴落する現象を引き起こしたのである。

これを機に世界各地でグリホサート反対デモが活発化していく。世界中に影響を与えたこの出来事は、日本ではほとんど報道されていない

■日本に輸出される大量のグリホサート作物

予防原則を重んじる欧州では、グリホサート系の使用禁止・使用作物の輸入も制限する例が多数出てきた。米国ではグリホサート、ネオニコチノイドを含む約100種類の農薬について家庭での使用が禁止された。他にも規制の動きが目立ってきている。

だがその米国は、小麦やトウモロコシには大量のグリホサートを使用。これらの穀物を日本は大量に輸入しているのだ。畜産用の飼料として、そして私たちが口にするパンやお菓子、豆腐、納豆など、他にもさまざまな原材料に使用されている。これを危険視、問題視する声は非常に多い。

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■日本は大丈夫なのか

世界中でグリホサート反対運動が起き、危険視する論文が発表され、SNSでも食の安全を求める声は依然高い。一方グリホサートの安全性を認め、粛々と使用している国々が多く存在するのも事実である。日本もそのひとつだ

日本は残留農薬に関しては厳重な規制基準を設けている。これは安心材料だ。
でも私たちは、それだけで安全だと納得できるだろうか。日本の行政が世界の動きや論文、裁判の結果などをどう受け止めているかを知りたい。

次回「農薬を危険視するさまざまな声《食卓の安全 study-4 日本編》」では、日本が「安全」だと言い切る根拠と、反対意見を交えてまとめていきたい。

**この記事は、下のサイトの情報も参考にしています。







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