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石田衣良「てのひらの迷路」読書感想

 石田衣良さんの「てのひらの迷路」を読みました。
 この本は雑誌に連載されていたショートショートを集めたもので、5〜10分ほどで読める短編がたっぷり収録されています。
 ショートショートといえば、星新一さんという固定観念が私の頭の中にありました。実際はさまざまな作者が短編の小説を書いていることは知っていましたが、中学生の頃に星先生に心酔してしまった私はそのほかのショートショートを食わず嫌いしていました。この作品には、知らずに読んでたまたま出会えました。短い中に人の機微がたくさん含まれていて、長編小説を読むよりも短時間で自分の心を満たすことができるのはショートショートのいいところだと改めて思います。SFのショートショートが緻密で突飛でオチをつける精巧にデコレートされた一口サイズのチョコレート菓子のようだとすれば、こちらは人の心の反応や情景の描写を楽しめる和菓子のような繊細さがあります。

 石田衣良さん自身のコメントが各作品に添えられていて、作中で彼をモデルにした登場人物もちらほら。それが作品を読む際のイメージを膨らませてくれます。美味しいお菓子は、そのもの自体だけでなく食べる場所やその時の天気が作り出してくれるものです。

 また「小説のレシピ」とそれをもとに完成した「料理」も添えられていて、文芸作品を作りたい方におすすめとなっております。

 タイトル「てのひらの迷路」も本の中のどこかでサラッと隠し味されているのでお見逃しなく。

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