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おじさんのリモート体験が未来の大量離職を防止する(コロナ後の変化を考えたらAKIRA以上にSFな現実が見えてきたんだ)

変化は一度、地中に潜り見えなくなる

コロナ渦の影響がいよいよ東京でも本格化してきた。
世界中の大都市に住む人々が、
「在宅せよ」
という超シンプルな命令を突きつけられている。

疾患としてのコロナの被害の甚大さは今更語るまでもない。
ただ、後からこの災害を振り返った時に人々の共体験となるのはコロナそのものよりも、この強制在宅状態のはずだ。
最低でも数週間は続きそうなこのイベントは、僕たちの社会にどんな不可逆な変化をもたらすのだろうか。

「不要不急の外出」の制限による経済的な悪影響はもちろん甚大だ。
人々のウキウキ気分が損なわれ、音楽ストリーミングの利用率が減っているなんて話もある。
ただし、制限が解除されたら揺り戻しも早そうだ。現に、中国では既に消費がかなり復活してきている。国内でも、一時的に危機感の緩んだ3月中旬には街に人出が戻ったことが、日経新聞のデータ分析で明らかになっている。

リモートワークも、在宅制限が解除されれば多くの業種で元通り出社する形に戻るだろう。変化は一度、地中に潜る。社会は悪い意味でもコロナ前と変化せず、これを期にリモートワークの浸透を望んでいた層は肩透かしを食らう可能性が結構高い。

おじさんを巻き込んだ共体験が世の中を変える

では、何が確実に起こりそうな不可逆な変化なのか?
確実に言えるのは、今、世の中ではリモートワークにせよ、在宅授業にせよ、オンライン飲み会にせよ、「何でも家でやってみる」 一大トライアルが行われていること。しかもそれは、”本当はリモートワークなんてやりたくもなかった人々”も巻き込んだトライアルだ。
この社会全体の共体験の成立こそが、強制在宅がもたらした不可逆なインパクトなのではないかと僕は思う。

この数週間のうちに、リモートワークに全社的に切り替えた企業も多い。急に「明日から在宅で」と言われてPCの設定に四苦八苦しているおじさん達もたくさんいるはずだ。
しかし、若い世代だけでなく、これまでオンラインMTGなんて意地でもしなかった上の世代を巻き込んだ共体験は極めて重要だ。
なぜなら、会社の大きな意思決定は全ておじさんが握っているからだ。彼らとメリット・デメリット含め議論ができる土台になるのが、今回の共体験なのだ。

ローカル神話の崩壊

ちなみに、リモートの対義語はローカル。日本人には地元とか田舎というイメージが強いが、英語のlocalの意味的なコアは「特定の場所」ということらしい。
「膝詰めで話す」、「同じ釜の飯を食う」という言葉に代表されるように、日本では長年、仕事は同じ場所でみんなでするもの、同じ場所で会わないと伝わらないニュアンス、育たない関係性があるというような「ローカル神話」が存在した。
日本の売りであったそういうスタイルは現在、三密回避やらソーシャルディスタンスといったスローガンのもと、絶対やっちゃダメなものになっている。きっと、ここからの数週間で、これまで職場を覆っていた様々な「ローカル神話」が崩壊していくことになる。

念の為、断っておきたいが、神話の崩壊と言っても、上の世代が今回のトライアルを経て、「いいじゃんリモートワーク!出社なんかしなくてイイね!」と180度考え方を変える、ということではない。そんな夢のような展開はまず100%ありえないだろう。むしろ、「やっぱり直接会って話すのが一番だな!」という認識が強化される可能性のほうがずっと高い。
Yahoo!やチームラボなど、一度リモートを導入した企業が「やっぱり組織がばらばらになる」ということで再禁止するケースは結構あるのだ。

ただし、多少の不便はありながらも、”どうにか”リモートで仕事をやりおおせる体験を数週間することで、「出社しないと仕事はできない」という絶対神話は崩壊する。相対化され、議論できる状態になることが価値だ。

「もちろん、出社できるならそれが一番良いが、
たとえ在宅であったとしても、同じ仕事はやれなくもないのだ」

そんなリモートに対しての”許容”や”耐性”が企業の上層部に生まれるとしたら。これは特に育児や介護などで在宅しなくてはいけない人々にとって、大きなインパクトを持つ。理解者が増え、圧倒的に生きやすくなる。

(同じことを繰り返すけれど、”許容”と”推奨”は違う。平時に戻ったら、在宅ワークが”推奨”されることはおそらくないだろう。普通に出社できるやつはしろ、ということで、社会は見かけ上、ほとんど元通りになってしまったように見えるはずだ。)

リモート共体験が、未来の大量離職を防止する

割とみんな忘れているが、オリンピック後の日本は今まで目を背けていた様々な問題が顕在化してくると言われている。
代表的なのは2025年問題だ。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護が必要な人が増加。一方で、介護人材は数十万人が不足すると予測されている。
そのため、ただでさえ少子高齢化で働き手が減少する中、両親の介護のために離職せざるを得なくなる、いわゆる介護離職も激増するリスクが高い。

問題の構造は、2019年1月の内閣府審議委員会用に大和総研が作成した資料『介護離職の現状と課題』にも詳しく纏められいる。
この資料の中でも

「介護離職者(元正規)の半数以上は、離職前に働き方を変えたいと希望していた。しかし、フレックス制度、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、在宅勤務・テレワークなどの利用率は低く、仕事と介護の両立に向けて働き方を変える就労者は少ない。
「例えば、ICTを利用して時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方の一つにテレワークがあるが、テレワークの利用によって育児や介護などの事情のある労働者の就業継続が可能になるなど、介護を理由とする退職の抑制効果が確認されている(総務省「テレワーク導入環境の整備」)。しかしながら企業のテレワーク導入率は2017年時点で13.9%と低い。」(P21)

と問題が指摘されている。今回のトライアルは、この閉塞を打破するきっかけになるかもしれない。
いわば僕たちはこの春、予定されていたオリンピックを先送りにした上で、オリンピック”後”の世界をシミュレートしているのだ。AKIRAよりも全然SFじゃないか。

ミュート機能は「耳勤務」を実現する

既に多人数でのWebミーティングを経験している人は気づいているはずだ。「マイク音声のミュート機能がマジで使える」ということに。
僕は先週、Zoomである勉強会に参加した。海外のカンファレンスについての共有会で、非常にためになったのだが、今ここで白状すると、僕はそのレクチャーをこちら側を映すカメラもマイクもオフにして、シャワーを浴びながら聞いていた。(Q&Aタイムになってから初めてマイクをオンにした。)
会社の会議では、自分が発言している時間はそれほど多くない。聞いている時間はただただそこに座っている必要があるが、オンラインMTGの場合はその必要はない。自分が聞いている時間帯に、ちょっと介護中の親の様子を見に行く、ということは十分に可能なのだ。

退席していることが悟られたくなければ、自分の顔のCGを作ってアバターにすればいいだけだ。こんな風に。(この動画では自分の表情に応じてオバマの顔が動くようにしている。)

ちなみに、自分の表情に合わせてCGキャラのアバターの表情を変えるFaceRigは既にZoomなどでも使うことができる。このような技術は、育児や介護をしながら業務せざるを得ない人が、オフィスで働く人々と軋轢をうまずに協働してくために大きく貢献するはずだ。

コロナは間違いなく大きな災害で、人的、経済的な損失は計り知れない。でも、今回のトライアルはもしかすると数年後、今みんなが頭の外に押しやっているオリンピック後の危機を救うことにもなりうるのだ。

今起こっている変化を捉えて、色々なレベルで実験をしていこう。そしてこのトライアル期間に、できるだけ多くの共体験を、できるだけ多くの人と作っていこう。それが日本の近未来に迫っている危機を乗り越える大きなリソースになっていくはずだから。

最後に、本当に久しぶりに書いたこの記事を磯部光毅さんに捧げます。日付が変わる前に書けてよかった。どこかで読んでくれてるといいな。色々なことがあるけれど、僕たちは少しずつ前に進んでいます。

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