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「嘘:反対側」

平気で堂々と嘘がつける人だったんだ。

彼のまっすぐな目を見て、私は無性に悲しくなった。

100歩譲って、彼に悪気はないとしても。

その瞳の嘘に騙されてあげるほど、私が彼に恋してなかったのは幸いだった。

今日私は見てしまった。

彼がわたしの知らない女の子とキスするところを。

しかも、濃厚なやつ。

街で見かけた時、仕事仲間と会ってるんだと思って、あとで声をかけようかと思ってついて行ったら、二人はビルの隙間に入って、キスをしたのだった。

まぁ、とは言っても、私たち、付き合ってるわけではなかった。

なので、彼女ヅラするつもりもない。

もしかしたら、気に入った女の子みんなにいい顔してるのかも。

まばたきしないで彼を観察していたら、目が乾いてきた。

その状態をなんとかしようと、涙腺が頑張って、目を液体が潤した。

演出的にはちょうどよかったかも。

彼は私のストレートだけどストレートでない言葉にどう出ていいかわからないみたい。次のセリフを言えないでいる。

ときおり女友達が、男に泣かされているのを見て、馬鹿らしく思うことがある。彼女らほどの知的な人間が、「見込み違いだったわ」で、馬鹿男とお別れできないのか不思議なのだ。

目の前の彼は知的で、優しい言葉の持ち主で、お別れするには惜しいではあった。

実際、今この瞬間も、惹かれていないわけではなかった。

それでも、私の中の女の本能が警告を発していた。

想像力に乏しい脳みそ(つまり不誠実な)人間に、ごく私的な場所を開き、もしかしたら生命の種を埋め込まれるかもしれない肉片を受け入れるつもりなのか、と。

彼が少し宇宙人に見えたところで、立ち上がって、部屋を出た。

振り向くつもりは、サラサラなかった。

#超短編 #小説 #フィクション


2017/12/23
に書いたもの。
ドンマイガールズ。
チョイスイズユアーズ。

サポートをいただきありがとうございます。宮平の創作の糧となります。誰かの心に届くよう、書き続けたいと思います。