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娘にアドバイスできず、ロックンローラーになることを応援することになった話。

仕事を終え、家に帰ると娘の機嫌が悪かった。弟に声を荒げて怒っていた。

「そんなことしないでって、言いようやん!」

僕と妻に対しても、声を荒げて自分のやりたいことを要求していた。

「おとう(お父さん)とおかあ(お母さん)と遊びたいのに、なんでみんなで遊んでくれないの!?」

僕ら大人がそんな風に声を荒げて怒ったり要求したりすることは少ない。しかし、そんな時がないわけではない。

仕事のことなどで、何か過大なストレスが与えられた時、僕ら大人は、自分の心をコントロールできなくなってしまうことがある。

娘もそうに違いないと思った。幼稚園で何かあったのだ。

妻が娘をソファに呼んで、どうしてそんな風になってしまったのかを尋ねた。

「どうしたの?幼稚園で何かあったの?」

「私はね、友達と遊びたくてね、遊ぼうって言ったんだけどね、一緒に遊んでくれなくてね」

「いつも遊んでいる友達が遊んでくれなかったの?」

「男の子がね、鬼ごっことか、かくれんばとかしてね、遊んでたからね、一緒に遊ぼうって言ったんやけどね、遊んでくれなかったの」

「鬼ごっことか、かくれんぼがしたかったの?」

「うん」

「いつも遊んでいる女の子の友達は、かくれんぼとかしないの?」

「女の子はおままごととか、ごっこ遊びで遊ぶから」

ソファの隣で、息子と遊んでいた僕は、その話を聞きながら、くるりの『男の子と女の子』という歌みたいだと思った。

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小学生くらいの男の子と女の子

男の子同士の遊びは楽しそうだ

割って入ってくる女の子はふてくされ

こんな世界はつまらないと

ひとりで遊ぶ

小学生くらいの男の子

世界のどこまでも飛んでゆけよ

ロックンローラーになれよ

欲望を止めるなよ

コンクリートなんか

かち割ってしまえよ

かち割ってしまえよ

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くるり『男の子と女の子』より

くるりの4枚めのアルバム『world is mine』に収録されているこの歌は、アルバムの中で異色を放っている優しいナンバーで、岸田さんが子どもたちを見る優しい目線と希望と応援する強い気持ちが感じられる歌だ。

妻が娘の話を聞いてくれて、娘は少し落ち着いたようだった。それから僕と娘と息子はお風呂に入って、一緒にお人形遊びをした。

娘は人形の髪の毛を石鹸で洗って、優しくクシでとかしていた。

男の子たちに仲間はずれにされたのは、多分、娘が嫌われていたからではない。男の子たちの仲間意識と、男の子同士の同調圧力によって、仲間はずれにされたのだと、幼い頃の経験から僕はそう思った。

幼い僕が同調圧力に負けて、女の子を仲間はずれにしてしまったとする。その後、その女の子から何と言われたら、同調圧力に負けない男の子に成長することができただろうか、と僕は考えた。

娘に話しかけた。

「ねえ、仲間はずれにするのは、よくないことだよ」

「うん、知ってる」

「仲間はずれにされた男の子にさ、『仲間はずれにされたこと、ずっと忘れないからね』って言ってあげたらいいんだよ」

「なんで?」

「いや、言わなくてもいいけどね」

歯を磨いて、絵本を読んだ後、一緒に眠った。

夜中1時頃、娘が泣く声で目が覚めた。娘は身体をくねらせ、ベッドのフチを蹴ったりしながら、声を荒げ、言葉にならない何か訴えながら、泣いていた。

幼稚園での記憶を思い出し、感情的になってしまったのだろう。

朝、僕は早く目覚めたので、これを書き始めた。しばらくすると娘が起きてきた。おはよう、女の子。ロックンローラーになれよ。




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