第157回芥川賞を受賞した沼田真佑『影裏』(えいり)を読みましたので、感想を書いていきます。

この小説は簡単に言うとゲイの主人公が友達との思い出を語る話です。この小説の良さは、主人公の心象描写がとても美しいことにあります。

この小説は、繊細な小説だという論評が結構あります。

よく何かを論ずる時、「繊細さ」って「美しさ」のように認識されていることが多くあるような気がします。

何が物語を繊細だと感じさせるのか

ところで、あなたにとって、繊細だなー、と感じる人ってどんな人ですか?僕は、普段あんまり喋らないけど、ふと、何か深そうなこと言う人のことを、繊細なのかもなーと感じます。

正直、僕なんかは、自分のことを割と繊細な方だと自覚しているのですが、普段から、感じたことを人と共有したいという気持ちがあるので、感じたことを、よく人に伝えます。

要は、割とよく喋るんです。よく喋る奴って、いくら繊細な奴でも、繊細なイメージよりも、よく喋る奴、つまり、おしゃべり野郎っていう印象を持たれがちですよね。僕がそうです。

だから、繊細な人だと感じるポイントって、多くを語らないことだと、僕は思います。

けれども、あまり喋らない奴で、たまに、何か深いこと言う奴って、一般的に不思議な人ですよね。いや、不思議な人っていうか、何考えているのか、わからない奴ですね。

人はみな繊細である

正直、どんな荒くれ者でも、どんな繊細だと言われいる人でも、同じ繊細さをもっているのだと僕は思っています。

でも、「繊細である」という認識の違いが確かにあります。

おそらくそれは、その人物のアウトプットの違いであると思います。

要は、感情を傷つけられた時、それをどのように表現するのか、ということです。

この小説では、主人公の繊細な性格が上手く表現されています。それは、「人の繊細さとは何なのか?」という問いに対する答えであるのかもしれません。

なので、作者である沼田真佑さんは、繊細さを伝えるためのあらゆる手段を熟知しているなあと感じました。

芥川賞の選考委員で僕が一番好きな川上弘美さんは、第157回芥川賞の選評において、このようにコメントしています。

「作者は、小説を読む時の快楽をわかっている、と感じました。なぜなら、この小説の中には、その快楽がたしかにあるからです。」

「この作者は、どのくらい意識して書いているのだろう。たぶん、大いに意識しているのではないか。苦しいことです。その苦しさに、どのくらい耐えられるのかを、次の小説まで待ってから見てもいいのではないかと思い、今回わたしはこの作品を第一には推さず、次点としました。」

芥川賞が新人賞とは言え、沼田真佑さんにおいては、かなり成熟した作家であることを川上弘美さんは認めてはいますが、しかし、その成熟した表現を続けることは苦しいことだと言及しています。

僕の個人的な解釈ですが、これは、

作者はかなり計算して、繊細さを描き、美しさを表現しているが、それは、とても難しいことで、今回はそれが上手く表現されているとしても、次回以降の作品を読んでみないと、作者の実力は分からないよね。

っていうことかなと思います。

釣りの描写がいい

主人公は釣り好きで、友人と釣りに行くシーンが何度か描かれています。釣りの描写が秀逸なので、釣りに行きたくなりますねー。

あと、岩手県を舞台にしているので、自然の描写も美しく、読んだ方は、地方いいなー、と感じるのではないでしょうか。

地方の釣り好きの僕からしたら、何気ない光景ではありますが、書き手の技術で、このように美しく表現されるのだなあと、とても感動しました。

あー、釣り行きたい。

さておき、この小説、めっちゃおもしろかったので、是非読んでみてもらいたいと思っています。

以上です。読んでいただいて、ありがうごいます。次回もよろしくお願いします!


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