官僚の残業代に400億円!?自分の苦い経験から背景を解説します。
朝日新聞のニュースで霞が関の残業代を報じています。
「霞が関の主な中央省庁の2022年度の残業代予算が、初めて400億円を超えた。前年度と比べて約18%と異例の大幅増」だそうです。
霞が関の働き方が世間から乖離していることは、最近よく報道されていますが、私もかつて厚生労働省で働いていた一員として、どんな働き方だったのかをお話します。
2021年3月まで厚労省で働いていました。
もう大昔のように感じますが、2020年2月頃から、ダイアモンドプリンセス号で新型コロナのクラスターが発生したことなどで国会対応が急激に忙しくなりました。
当時所属していた部署から、急遽新型コロナ対策を一手に引き受けるチームに派遣され、コロナ禍の国会で連日徹夜の生活を送りました。
2日徹夜するといろんな経験をします。立ってても寝そうになったり、仮眠中に「おい、起きろ。そこはオレのベッドだ」って、誰かにいわれる幻覚みたりと、それまでの人生で経験したことのないことを体感しました。
私は1日徹夜すると、正直次の日の夜は使い物になっていませんでしたが、仲間の大半はかわらずの仕事ぶり。仲間を尊敬すると同時に「ああ、おれ、激務耐性低いな」と思ったのを思い出します。
この異常な仕事のやり方コロナ禍だからじゃないんです。
国会質問前日の夜に、議員が国会で政府に質問が役所に送られてくるのが、政策の現場のデフォです。そのあと、前日の夜から官僚が質問に対する回答を作って、次の日の早朝に大臣に内容を説明します。
「そんなのに構わず官僚が帰ればいいじゃん。官僚がおぜん立てしないと答えられれない大臣なんていらないでしょ」という人もいるかもしれません。
もし、
議員からの質問に官僚が回答のたたき台を作らないなら、日本で厚生労働省の大臣できる人材は多分一人もいなくなると思います。
厚生労働省の政策範囲は、子育て、労働、高齢者支援、医療など多岐にわたります。政策全体を把握するだけで相当の負担ですが、国会の場では、細かい制度の内容に基づいた質問も聞かれます。
「後で調べて、お答えします」なんて大臣が答えたら、国会が紛糾します。
また、政策を実現したい官僚としても大臣を支えない、という選択肢はあり得ません。
法案を通すための国会の議論の場で、大臣が十分に質問に答えられないとしたら「そんな答えなら法案の議論はできません」と、法案改正のための議論が止まります。
誰かを助けるため、産業を振興するための法改正が次の国会まで持ち越されてしまうということです。
官僚は、「社会をよくしたい」というのが仕事のモチベーションなので、政策が遅れるのを嫌がります。国会で大臣が質問に答えられないようなことを避けるために、聞かれた質問以外にもたくさん「こんなこともきかれるかも」と想定問答集を作って国会にのぞみます。
実はこの国会の運営方法、議員の側にも負担があるようです。国会のスケジュールが直前で決まるので、質問を短期間で考えないといけないのだそうです。
これ
官僚:直前に質問が伝えられるため時間をマネジメントできない
政治家:国会のスケジュールが直前に決まるため時間をマネジメントできない
そのどちらでのない国民:一人頭400円(400×1億=400億)を残業代のために支払ている
という、誰も得しない地獄の方程式が成り立つ構造になってしまっているんです。
※官僚は残業代もらっているからいいだろ、という人もいるかもしれませんね。少なくとも私は無駄な残業が大嫌いでしたし、仲間の官僚も残業代稼ぎのために仕事をしている人は一人もいませんでした。
400億が官僚の残業代にきえています。
毎年の予算の半分を国債費で賄っているという話を皆さんは毎年聞かされています。
国民の立場からすると、その400億、もっと他の有意義なことに使いたいですよね。
でもこの不合理変えるには、世論が必要です。
官僚も国会議員も他に優先順位の高い政策がある中で、この問題を変えることまで手が回らないのです。
「もっと意味のあることに予算を使えよ」という声で政策決定者を動かさないといけません。
国会のありかたを取り上げるニュースをクリックしてもらうことでメディアの人たちは、そのニュースの続報を打ちたくなります。
SNSでの声がうねりとなって政策が変わることもあります。
こんな不合理が国会、行政の現場にはたくさんあります。
うちの組長(社長)の千正康裕が国会改革についてどうあるべきか「官邸は今日も間違える」で詳しく書いています。私は霞が関で約10年つとめてきましたが、千正は20年近く政策の現場でこの課題に取り組んできています。
ちょっと本のタイトルが攻めすぎ&政権批判の本みたいに見えてしまうので、誤解されるかもしれませんが、与党も野党も官僚も民間企業もNPOもみんなでいい政策決定の在り方を作っていこうぜ、といういたってまじめな本です。(僕も完全に同意なので一緒に働いています)
どうするべきかの打ち手も本の中に書いてあります。
興味ある方は是非読んでみてください。
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政策人材のための教科書 ~現場の声を政策につなげるために~
元官僚で千正組の千正康裕と西川貴清の「政策のつくり方」「民間からの政策提言のコツ」を学ぶための定期購読マガジンです(月3本)。こんな方々に…