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【妄想シチュエーション#12】理想の秋デート「美女と野獣、初めての遠出」

※この記事は、知人のSHOWROOM(URL:https://www.showroom-live.com/118951049549)で毎週水曜日に開催されている企画「妄想シチュエーション」に応募したラジオドラマ作品です。
前作はこちら→【妄想シチュエーション#7】最高の修学旅行「不器用のち、青春の修学旅行」


今日は、2人で行く、初めての遠出デート。
部活の試合より緊張してる。夜も全然寝れなかった。
眠い目をこすりながら、集合場所の高速バス乗り場で待っていると、いつもの制服とは違う、パンツルックとスニーカー姿のイシイさんがやってきた。
(イシイ)「おはよ!待たせちゃった?」
(ヤマダ)「いや、全然。じゃあ、バス乗ろうか。」

オレたちが席に座って間もなく、バスは走り出した。
見慣れぬ私服姿で隣に座るイシイさん。やばい、綺麗すぎる…。
緊張のあまり、なかなかしゃべりかけられないでいると、イシイさんの方から声をかけてくれた。
(イシイ)「今日は晴れてよかったねー!楽しみで全然寝れなかった!」
(ヤマダ)「あ、ああ、そうだね。オレは緊張で寝れなかったよ…。」
(イシイ)「ホント?実はウチも、ちょっと緊張してる。私服で会うのもはじめてだし…。」
(ヤマダ)「そっか、イシイさんもか。てか、今日は単語帳開かなくていいの?」
(イシイ)「いや、デート中はさすがに読まないから!」
(ヤマダ)「えっ?熱でもある?」
(イシイ)「ちょっ、ウチを何だと思ってるの!」
(ヤマダ)「ゴメンゴメン、ちょっとからかった。」
(イシイ)「もう~!やめてよ!」
ちょっと待ってくれ。からかっても可愛いとか、反則過ぎる。

余談だが、あの修学旅行以来、イシイさんはすごくフレンドリーな感じになった。
それまで、休み時間とかも友達とおしゃべりしながら単語帳読んでることが多かったけど、最近はめっきりそんなこともなくなった。
それどころか、クールに見えて実は抜けた一面があることがクラス中に発覚したのと、ガチムチラグビー部のオレと付き合いはじめて「美女と野獣ペア」と呼ばれるようになったことで、どこか近寄りがたかったイメージから一転、親しみやすいキャラが定着し、すっかり人気者になった。

そんなイシイさんとのやり取りで緊張もほぐれ、楽しく話してるうちに、バスが目的地に着いた。
(イシイ)「すごーい、綺麗…。」
バスを降りたオレたちの目の前に広がったのは、一面、紫のコスモス畑だ。
(ヤマダ)「スゴいね。ちょっと歩いてみようか。」
オレはそう言いながら、勇気を出して半歩前にいるイシイさんの手を握ってみた。
一瞬、ピクッとイシイさんの手が反応したが、すぐに恋人つなぎで握り返してきてくれた。
(イシイ)「ふふ、ちょっぴり恥ずかしいね、手つなぐの…。」
そう伏し目がちにつぶやくイシイさんのほほは、ほんのり赤く染まっていた。
…まあ、そういうオレも今、茹でだこみたいな顔してるんだろうな。

それからしばらくの間、オレたちはいろんな話をしながら、コスモス畑を散策した。
クラスのこと、勉強のこと、オレの部活のこと、イシイさんの塾のこと、その他いろいろ…。
ぎこちなかった手つなぎも、次第に慣れていったころ、オレたちはもう1つの目的地、コスモス畑に併設されているカフェまでやってきた。
そう、お目当てはこの時期おなじみのスイーツ、限定モンブランである。
席に着き、オレは普通の、イシイさんは抹茶のモンブランをそれぞれ注文。ほどなくして、2人の前にケーキが運ばれてきた。

(イシイ)「あ~、おいしそう~!いただきま~す!」
無邪気にスイーツを食べるイシイさん。その姿は、勉強が恋人だったクールビューティのときとは似ても似つかない、1人の可愛い女の子である。
そんなイシイさんに見とれながらモンブランを食べてると、イシイさんがおもむろに話しかけてきた。
(イシイ)「ねえ、ヤマダくんのも少し食べさせて。」
(ヤマダ)「え?ああ、どうぞ。」
オレはそう答えながら自分の皿を差し出したが、イシイさんは動こうとせず、何かをねだるような顔でこちらを見ている。
(ヤマダ)「…はい。あーん。」
その様子から察したオレは、自分のフォークでひと切れよそって、イシイさんの目の前に差し出した。
(イシイ)「あーん。…ふふふ、おいしい。ありがとう。」
オレの差し出したひと切れを食べ、笑顔でイシイさんはそう答えた。やはりな。
…まったく、どれだけリア充すれば気が済むんだか、この美女と野獣ペアは。

その後は、カフェを出て来た道を引き返した。もちろん、手はつないで。
日が傾き、恋人つなぎの違和感もなくなってきたくらいのとき、ふいにイシイさんがオレに尋ねてきた。
(イシイ)「あのさ…、ヤマダくんは、ウチが彼女になってよかった?」
(ヤマダ)「ん?どしたの、急に。」
(イシイ)「ほら、ウチって勉強しか、取りえみたいなのないじゃん。どうして、ヤマダくんはウチのこと好きになってくれたのかな、って。」
(ヤマダ)「え?まあ…、確かに外見がタイプなのもあるけど、オレはクールで勉強できるイシイさん、好きだよ。
オレ、そんなに勉強できるわけじゃないし、あと医学部って目標のために頑張ってるの、オレ、尊敬してるよ。」
(イシイ)「そっか。ありがとね、こんなウチのこと、好きになってくれて。」
(ヤマダ)「『こんな』じゃないよ。オレはイシイさんだからいいんだ。
修学旅行そっちのけで勉強しちゃうくらい、目標に向かって頑張ってるところも、クールに見えてどこか抜けてるところも、一緒にいてすごく楽しいところも。だからイシイさん…、ユキはオレの、自慢の彼女だ。」

つい熱くなり、下の名前で呼び捨てにしてしまった。あっ、と思いながらイシイさんのほうに目をやると、腕で涙をぬぐっている。
ああ、また説教しちゃったか…とぐるぐる考えてると、イシイさんがこちらを向いた。
(イシイ)「修学旅行のことは、もう忘れて!(笑) でも、そう言ってくれてすごく嬉しい。ありがとう、タケル…。」
少しの沈黙、見つめ合うオレたち。胸の鼓動が、高鳴る。
つないでいた手を放し、どちらからともなく顔を近づける。そして…。

(イシイ)「今日は楽しかったね。また遊びに行こうね、タケル。」
帰りのバス。リラックスした表情で、オレの肩にもたれかかるユキ。
(ヤマダ)「そうだね。なあユキ、次はどこがいい?」
…こんな感じで、オレたちは初めての遠出デートを楽しんだのだった。

サムネイル:そらあおいさんによる写真ACからの写真

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