見出し画像

【妄想シチュエーション#14】クリスマス「頑張ってるあなたへの、クリスマスプレゼント」

※この記事は、知人のSHOWROOM(URL:https://www.showroom-live.com/118951049549)で不定期に開催されている企画「妄想シチュエーション」に応募したラジオドラマ作品です。


(モブ女上司)「オカダさん、まだできてないんですか?こうなる前に相談してくださいって、前から言ってますよね?」
(オカダ)「はあ…すみません。」
(モブ女上司)「もういいです。で、いつ終わるんですか?私、予定あるんで、定時で帰りますけど。」
(オカダ)「えっと…1、2時間くらい残業してやっていきます。」
(モブ女上司)「そうですか、今日も残業ですね。いい加減、段取り改善してください。」
(オカダ)「…はい。」

くっそ、クリスマスイブくらい、いいことあるかと思ってたのに、またこれかよ。
もう、オレの怒りは爆発寸前だった。
せっかく苦労して転職したというのに、オレの上司になったのは、人を使うのが恐ろしく下手な女性。
出される指示はいつも訳が分からないのに「私は悪くない、あんたが悪い」みたいな態度取るし、彼氏だか何だか知らんけど、いつも定時になったらさっさと帰るしで、オレだけが割を食っているという有り様。
しかし、このままイライラしててもラチが明かないので、とりあえず頭を冷やそうと休憩室に入った、ちょうどその時である。

(キクチ)「はあ~…。」
いつも隣の島で仕事をしている同じ部署のキクチさんが、イスに座りながら大きなため息をついたところに出くわしてしまった。
(キクチ)「あっ…お疲れ様です。」
オレに気づいたキクチさんが、ちょっと気まずそうに会釈してくる。
(オカダ)「お疲れ様です。今日も遅いんですね。」
キクチさんとは、まだときどき会話したことくらいしか接点がないが、まさにクールビューティといった感じの女性で、新人のオレでも分かるくらい、仕事ができる人だ。
この職場もそういう人に仕事が集中するようで、オレと一緒に残業の常連として、いつも居残りしている姿を見ていた。

(キクチ)「まあ、ちょっと…。」
(オカダ)「仕事、終わらないんですか?」
(キクチ)「もう少し、かかりそうですね。」
(オカダ)「そうですか、僕もなんです。せっかくのクリスマスイブだってのに。」
(キクチ)「そうですねー、何やってんだろ、って感じです。あっ、私、そろそろ戻りますね。」
(オカダ)「あっ、どうぞどうぞ。」
そんな簡単な会話をし、キクチさんは休憩室を出て行った。
その時点は、いつものごとくキクチさんも大変だなあ…くらいにしか思わなかった、のだが…。

それから2時間後。ほとんどの人が帰り、職場はオレを含め、ポツポツと数人が残っている状態だ。
(オカダ)「ふう…。」
ようやく仕事が片づいたので、帰り支度をしようと席を立ち、何の気なしに周囲を見渡す。すると…。
グシャグシャグシャグシャ…、ドン。
オレの目に飛び込んできたのは、おもむろに髪をかきむしり、そのまま机の上で頭を抱えこんだキクチさんの姿だった。
セミロングの綺麗なストレートヘアはすっかりボサボサになり、いつもの凛とした感じとは程遠い状態のキクチさんに、オレは驚きを隠せなかった。

(オカダ)「…キクチさん、大丈夫ですか?」
思わず声をかけるオレに、キクチさんがビクッと反応する。
(キクチ)「あっ、はい、すみません…。」
バッとこちらを向き、力ない感じでキクチさんが答える。
顔は愛想笑いを浮かべているものの、その目は赤く、多少うるんでいるようにも見える。
オレもかなりヘトヘトだったが、女性のこんな姿は見過ごせない。

(オカダ)「どうやら、大丈夫じゃなさそうですね。オレでよければ手伝います。どうすればいいですか?」
(キクチ)「あっ、本当に大丈夫です、ありがとうございます…。」
(オカダ)「いやいや、さすがにキクチさんらしくない感じですよ。本当に何もできること、ないんですか?」
オレがそう言うと、さすがに思い直したのか、
(キクチ)「…じゃあ、ちょっとこれ、一緒に見てもらえませんか…?」
キクチさんが格闘していたのは、売上の試算表だった。
話を聞く限り、どこかで計算を間違えたようで、出た答えがおかしなものになっているようである。

そこから30分くらいかけ、何とか問題なさそうな数字に修正し、オレたちは仕事を終えた。
(キクチ)「オカダさん、ありがとうございました、助かりました。オカダさんも遅くまで仕事してたのに…。」
誰もいないロッカールームで、帰りの支度をしながら、キクチさんがオレに話しかけてきた。
(オカダ)「ああ、全然大丈夫ですよ。キクチさんこそ、今日も遅くまで大変でしたね。
あまり無理しないでくださいね。」
(キクチ)「いやあ、全然です。帰って、いっぱい遊んで休めば平気ですよー。」
(オカダ)「はは、この間もそんなこと言ってましたね。でもオレ、今日もそうですけど、キクチさんがすごく仕事頑張ってるの、いつも見てますよ。」

そんな感じで、オレとしてはいつも通り、他愛もない雑談をしていたつもりだった。
しかし、その一言を言った瞬間、なぜかキクチさんは黙ってうつむいてしまったのである。
急に固まった空気に、思わずテンパるオレ。
(オカダ)「えっ…あっ、すみません、何か変なこと言ってしまいましたか…?」
(キクチ)「…。」
なおも無言が続く。ふと彼女の顔を覗き込むと、口をぎゅっと結び、目からは大粒の涙がこぼれ落ちている。

(オカダ)「あ、あの…、ごめんなさい…?」
(キクチ)「ぐすっ…こんな私のこと、見てくれてる人いるんだ…。」
(オカダ)「えっ…?」
(キクチ)「ごめんなさい、気がついたら涙が出ちゃって…。私、意外としんどい感じだったみたいですね…。」
そう話しながら涙を流すその姿は、いつものクールビューティなキクチさんとは違う、1人のいたいけな女性だった。

そう思った瞬間、オレはキクチさんがとても愛しくなった。
(オカダ)「そりゃあ、いつもオレと同じくらい頑張って残業されてるんですもん。普通、しんどいと思いますよ。」
オレがそう話すと、キクチさんは赤く腫れた目でほほ笑みながらこう返してきた。
(キクチ)「そうですね。でも、今の言葉、そっくりお返ししますよ。
私も、オカダさんがあの人に理不尽なこと言われながら遅くまで頑張ってるの、いつも見てますから。
私、オカダさんも、頑張ってると思います。」

その瞬間、オレの中にこみ上げるものが出てきた。
(オカダ)「ぐすっ…、あ、ありがとう…ございます…。」
どうやらオレも、自分でも気づかないくらい、相当無理していたらしい。
でも、何だろう、やっぱり頑張ってる姿って、誰かしら見てくれてるんだ。
そう思うと、よけい涙が止まらなかった。

その後は2人で一通り泣き、落ち着いたところで外へ出た。
(キクチ)「なんか、思わぬクリスマスプレゼントもらった感じですね。
私、実は最近、仕事で成果出さなきゃとか、彼氏作りたいとか、いろいろ頑張ってて…。
それがちょっと行き過ぎちゃったみたいで…、でも、そんな私でも、見てくれてる人がいた。
本当に、ありがとうございます、オカダさん。」

あれ、今、さらっと上目づかいで、彼氏なしのカミングアウトをされた…?
そうか、頑張ってるオレたちのこと、サンタさんはきちんと見てくれてたのか…。
(オカダ)「こちらこそ、今日はありがとうございました。
ところでキクチさん、もしよかったら…この後、ご飯でもどうですか?」
(キクチ)「えっ、いいんですか、嬉しいです!どこ行きましょう?」

ちゃんと頑張ってたら、誰かが必ずその姿を見ているんだ。
雪が降り始めた夜空を見上げながら、オレはそう思ったのだった…。

サムネイル:写真ACより(URLはコチラ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?