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【妄想シチュエーション#11】お月見「月が、綺麗ですね」

※この記事は、知人のSHOWROOM(URL:https://www.showroom-live.com/118951049549)で毎週水曜日に開催されている企画「妄想シチュエーション」に応募したラジオドラマ作品です。


今日は、私の送別会。
離れて暮らす親の体調が思わしくないため、急遽いまの会社を退職して地元に帰ることになった。
会もお開きになって、同期の子たちとも「ミヅキ、また連絡するね。」みたいな感じで別れ、1人さびしく家に帰ろうとすると、かつての先輩が声をかけてきた。

(カドヤ)「アマハさん、ちょっといい?」
(アマハ)「あっ、カドヤさん。今日はありがとうございました、それと今までお世話になりました。」
(カドヤ)「いえいえ、こちらこそ。あっ、もしよかったらこの後、2人でどこか行かない?
最後だし、ゆっくり思い出話でもどう?」
(アマハ)「ありがとうございます。ではせっかくなので、よろしくお願いします!」

そっか…、カドヤさんともこれで最後なのかな。
私が新卒で入社してから、いろいろなことを教えてくれた先輩。
実を言うと、私はずっとカドヤさんのことが気になっていたんだけど、きっと向こうは私のことを妹のようにしか見てないんだろうな。
あーあ、久々の恋、実らずじまいか…。
そんなことを考えながら2人で一緒に歩いていると、カドヤさんが私に話しかけてきた。

(カドヤ)「アマハさん、今日ってなんの日か知ってる?」
(アマハ)「え?なんだろう…。」
(カドヤ)「今日は十五夜だよ、アマハさん。」
(アマハ)「あっ、すっかり忘れてた。いいんですかカドヤさん、気になる子誘ってデートとかしなくて?」
(カドヤ)「ハハ、オレがモテないのはアマハさんが一番よくわかってるでしょ?」
そんなことはない。実際、女子社員のガールズトークは、いつもカドヤさんの話で持ちきりなんだから。
でも、こんな風に話をされるってことは、やっぱり私を異性として見てくれてないのかな。
そう考えたら、ちょっと複雑。

気持ちを紛らわせようと、私はカドヤさんとの話を続けた。
(アマハ)「そんなことないって、いつも言ってるじゃないですか。それより、この後どこへ行くんですか?」
(カドヤ)「ん?そうだね…、ちょっと行きたいところがあるんだけど、いい?
(アマハ)「私はいいですけど…、ちなみにどこですか?」
(カドヤ)「それは、着いてからのお楽しみ。」
(アマハ)「はあ…。」

そのまま、カドヤさんは無言で歩き続ける。
話が止まってしまったせいで、私のモヤモヤもどんどん大きくなる。
振り向いてくれるそぶりのない人と一緒にいるって、辛いなあ。
うまくいかない恋なら、いっそひと思いに終わらせてくれたらいいのに…。

そんな感じで、やきもきしながらカドヤさんと一緒に歩いていると、とある公園に着いた。
(カドヤ)「着いたよ、アマハさん。」
そこには、夜空で大きく、そして丸く輝く満月と、それが公園の池に映って見える、もう一つの満月があった。
(アマハ)「…すごい、綺麗…。」
(カドヤ)「たまたま今日が十五夜だったから、せっかくと思ってお月見によさそうなスポット探してみたんだ。どう?」
(アマハ)「いいと思います!すごく綺麗に見えますね!」
(カドヤ)「気に入ってもらえてよかったよ。そうそう、おやつに団子買ってあるんだけど、よかったら食べる?」
(アマハ)「はい!」

満月の綺麗でモヤモヤした気持ちが吹っ飛んだ私は、それから公園のベンチで、お団子片手にカドヤさんと思い出話に花を咲かせた。
入社して配属されたときのこと、初めて一緒に仕事したときのこと、他にもいろいろ。
…ああ、もう、お別れなんだ。
話が現在のことになるにつれ、私はまた、さびしい気持ちに襲われはじめた。

すると、カドヤさんは空に浮かぶ月を向いたまま、おもむろに口を開いた。
(カドヤ)「はあ…、アマハさんとお別れするの、さびしいな。」
さびしい…か、それはやっぱり、妹みたいな存在としてなのかな。最後に聞いてみよう。
(アマハ)「私もですよ。ちなみに、カドヤさんはどういう意味でさびしいんですか?」
一瞬、カドヤさんがチラッと私のことを見た。
(カドヤ)「ん?それは…。」

ふう、と大きなため息。そして、カドヤさんは空を見上げた。
(カドヤ)「…月が、綺麗だからかな…。」
(アマハ)「月が、綺麗…?」
ハッ、と気づいた。私の名前はミヅキ、そして、月が綺麗と言えば…。
(アマハ)「それ、もしかして私の名前と、そういう…意味ですか?」
そう質問する私に、カドヤさんは照れくさそうに答える。
(カドヤ)「あ、うん…そういう意味。」
そう…か。そんな風に思ってたの、私だけじゃなかったんだ。
嬉しさと安堵から、私は思わず泣き出してしまった。

(アマハ)「ぐすっ…本当…ですか…?」
(カドヤ)「うん。だから…アマハさんさえよければ、オレと。付き合ってくれませんか?
オレも、一緒に行かせてほしい。月へ帰ったかぐや姫のように、離れ離れになりたくない。」
(アマハ)「でも…仕事が…。」
(カドヤ)「そんなのはどうとでもなるよ。オレは、これから先もアマハさんと一緒に月を見たいんだ。
ダメ…かな…?」

叶ったんだ、私の、恋。もうダメだと思ってたのに…。
嬉しすぎて、顔はもうグチャグチャ。
それでもいい。こんな私にも、大切な人ができた。
(アマハ)「はい。こちらこそ…私でよければ、ずっと、一緒に月を見てください。よろしくお願いします。」

サムネイル:Shadiaさんによる写真ACからの写真

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