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地域ミュージアム・トークセッション[3]

「コロナ禍の中の地域ミュージアム:北斎・熊野筆・世界遺産-ローカル・ミュージアムの現場から-」

はじめに

「地域文化は知恵の源-Fountains of Wisdom-」
北斎・熊野筆・世界遺産のまちのミュージアム経営者が語る、今とこれからのトークセッション。
3回目は、苦しい中での発見やチャレンジについて。アイデアあふれる楽しいお話も!

ゲスト
市村 次夫 氏(一般財団法人北斎館 理事長)
石井 節夫 氏(一般財団法人筆の里振興事業団 理事長)
仲野 義文 氏(NPO法人石見銀山資料館 理事長)
ナビゲーター
藤原 洋 (全国地域ミュージアム活性化協議会 事務局長理事)

こんな時だから、気づいたことは?

藤原: 新しい試みをしたり、制度を使ったりしながら、何とか乗り切ろうとしておられると思います。そうした中、こういう環境にあったから、この期間だから発見できた、取り組むことができた、考えることができた、普及することができた、何でもいいですけども、この間を利用して、自分たちがすることができた、というところを、もう一度、同じ順番になりますけども、市村さんの方からお願いします。

ネット社会で、地域の人びとが北斎研究の担い手に

市村: コロナということだけではないんですけども、やはりネット社会かな、と思った事例がありました。昨年、群馬県の方が、どうも自分の先祖らしい肖像画があって、北斎の署名があるというのを持ち込まれました。見てみると、北斎が描いた肖像画は現在4、5点しか分かってないんです。本物かなぁと、いろいろ検討したんですけが、どうも本物らしい。そこで何をやったかというと、「北斎の肖像画に描かれている人はどういう人だろう?」とネットで問い合わせをしたら、早速いくつか反応がありまして、江戸時代の後期の商人で、結構豪商でお金を貯められていて、かつ、趣味で狂歌をやっていて、江戸との交流があったと。北斎の年齢が40歳代ぐらいで、北斎としては非常に若描きの肖像画だということが分かりました。こうした例は、コロナとは離れて、ネット社会が本当に浸透してきたものですから、いろんなことがわかるなぁという一つたかなと思いますね。

藤原: いろんなチャンスが生まれてくるんですね。そうすると新しい切り口が見えてくる。

市村: そうなんです。今まではどちらかと言うと、北斎に限らず、日本画の古い絵は専門家の間で意見交換されていたのが、ネット社会になってくると、肖像画のような題材は、専門家というよりは地元の方とか縁者とかそういう人たちが見ると分かることが多いものですから、なるほど、絵に対する新しい評価の在り方だと実感しましたね。

藤原: 動けない、行けないところから新しいものが生まれてくると、このネット社会におけるコロナ禍のにおける過ごし方というのもありますね。

市村: そうかと思うと、長野県内にお住いの方なんですが、昭和27年、非常に日本が貧乏だった時代に、北斎に関する豪華本が出版されていて、それを寄付されたりですね。日本中が困っていた時代に、みんな食べることだけ考えていたようなイメージを我々は抱いていましたけれども、必ずしもそうではなくて、北斎研究という点では、お金のかかる仕事もちゃんとやってたことにびっくりしましたね。

藤原: それこそ、新しい発見があったということですね。では、石井さん、お願いします。

公設民営施設としての責任

石井: コロナ禍でできたことは非常に限られているんですが、財政的には、公的な支援制度をすべて活用しようと、今も申請中のものがあります。ミュージアムと店舗を運営していますが、ミュージアムについては、人との出会い、人の移動や交流というものを著しく制限するような生活様式が今後も続くということを想定しなければならないと思います。地域ミュージアムとして、これまでの延長線上で考えていては行き詰るのではないかと考える機会になりました。やはり、どのような方法で地域貢献できるかについて、(お二方とは異なって)うちの場合は公設民営で、どうしても町から多額な指定管理料に加えて補助金にも依存しているので、地域の理解がないとミュージアムとして成り立っていきません。幸いにして、「がんばれ、がんばれ」という声は聞きますが、「人が来ないのでやめてしまえ」という声はありません。今一度、ミュージアムの運営について、役職員が認識を新たにすべきだろうと話し合っています。
もう一つはリスク管理の重要性、入館者の安全管理の担保です。かつては、入館者に「(豪雨で)避難勧告が出たので退館してください」「緊急事態なので休館します」と言うことなど考えてもみませんでしたが、そんなことが随分ありました。やはり公共施設として、そのあたりのリスク管理は重要だなとひしひしと感じています。
店舗の方は、お客さんが来なくてどうしようもなかったのが実態です。一時は閉店も考えておりました。幸いに10月以降にGoToキャンペーンもあって、広島駅の店舗はホテルと連携して、ホテルの宿泊プランに熊野筆を組み入れていただき売り上げ増につながりました。やはり、熊野筆をお求めになる方の大半は他所から来られた方で、自分のためにという方もありますが、やはり広島の特産品というイメージが強いのか、若干でも回復させることができました。これも今後、どうなるかというところは、先行き不安なところです。

藤原: 公設民営では、どうしても制度資金を使っていかざるを得ないこともあるかと思います。しかし、制度をフルに活用していくというのも努力の賜物ですよね。ややこしいものをクリアしていくわけでしょうから。では、仲野さん、お願いします。

ミュージアムコンテンツの収益化を模索

仲野: 追い込まれると、みんな力を発揮しますね。職員3人しかいませんけど、追い込まれると、実力以上のことをみんなやってくれるんです。職員3人それぞれの能力の高さを実感しました。ネット社会になったのは、都会も田舎も同じようにチャンスが平等に与えられているということですね。問題は、どういうコンテンツを発信していくかということです。かつては、上の人たちから、「調査・研究ばかりして金を稼ぐことをしない」と陰で言われていましたが、今、考えれば、調査・研究を地道にやってきたということは非常に重要で、福面(マスク)の例のように、誰も気づかなかったことに注目することができるし、それを上手にネットで発信していくということができるわけです。これからは、いいコンテンツをどう作っていくかということが重要で、「文化の六次産業化」と勝手に言っていますが、調査・研究した成果を、商品まで、付加価値のあるものまでつくりあげていかないといけない。みすみす第三者に渡すのではなく、自分たちの手で商品までもっていかないといけない。そこで初めて収益につながっていくのではないかと思います。例えば、電子書籍を作ろうとしています。アマゾンキンドルだとか、ロイヤリティ70%ぐらいあるんですが、紙で印刷すると経費が掛かりますが、電子書籍はほとんどお金がかからないわけです。例えば英語版で出すと、海外でも売れるわけですから。そうやって収益につなげていくことが重要になっていくわけです。まだ、できていませんが、それに取り組もうとしています。

ミュージアムグッズの楽しい売り方

藤原: ありがとうございます。このコーナーが終わったところで休憩にしたいのですが、その前に、お互いに聞いてみたいことがありましたら。
  
市村: ぜひ、石井さんにお聞きしたいんですけども。例えば、石井さんの後ろにある筆、あれっていくらぐらいするのかな、何に使うのかなって興味あるんです。お話を伺っていると、ミュージアムショップというよりも、筆の里工房は産業振興センターのような意味があるのですから、現在、製品があるわけで、それをどうやって売るかというところに力点を置いてもいいんじゃないかと思います。つまり、石井さんが登場して、毎日、1時間でもいいから、即売会やるわけです。これは書道筆だとか化粧筆だとか。ネットで注文を待つという静的なものよりも、「こんな使い方おもしろいんではないか」とか、「これを使った作品にこんなのあるよ」とか、そういう説明をしていただくと、今でも、私もう「一概に筆って言ってもいろんなものがあるんだなぁ」と、随分興味が沸くわけですね。ですから、ほかのミュージアム以上に、石井さんのところは、「売るんだ!」と動画を使って、ライブで行くっていうのは、非常に魅力的なんじゃないかな、という気がしました。

石井さんの筆

石井: そうですね。筆もたくさんあって、どれを使っていいかとか、どういう特性があって、何故こんなに値段が違うんだというのは、説明を聞かないと分からないですから。なかなか通販で(カタログだけでは)説明しづらいので、対面で説明して販売しなければ、ということでミュージアムショップを各地に展開したわけです。でも、これだけお客さんが来ない状態が続くと、こちらがネット環境を利用して、いろんな筆をご紹介しながら…、なんだか通販の番組みたいですけど。

市村: そこなんです。通販の番組はテレビだと莫大なお金がかかるから、大きい資本じゃないとできなかったのが、今はYouTubeを使えば、難なくできますのでね。例えば、今、石井さんの後ろにある筆なんかも「これ、インテリアとしても人気ありますよ」なんてことを言うと、私なんか、「書斎に一本あると、なかなか格調高いな」と思ったりしますよね。

石井: そうですね。

藤原: 市村さん、お菓子やお酒は売りましたか?(笑)

市村: 商売の方は熱が入りませんね。ボランティアの方が熱が入ります。(笑)

仲野: 売るものがあるというのはいいですよね。最近、パワーストーンをアクセサリーにしてBASEというネットサービスを使って売り始めたんですが、そもそも売るものがないので、そういう意味では筆は本当にいいものだと思いますね。

市村: 仲野さんのところは、資料として、ヨーロッパのものが多いんでしょうけど、石見銀山が表記された古地図なんかおありでしょう? 古地図もニーズは大きいし、重要なのは、そに、何年にどこで作って、という説明があるともっと素晴らしいですよね。だから、すぐ商品になりそうだなっていう気はしますね。

仲野: それはすぐに参考にさせていただきます。協議会でミュージアムショップをつくるといいですね。

4人で

市村: ついでですけど、先ほどお話ししました、暖房性の強いジャケット、値段が77,000円ですよ。ミュージアムショップに受け身で置いておいても、1年に1着売れるか売れないかなんですが、ネットで売ればもっと高い頻度で売れちゃうんですよね。ネットが故の市場って絶対あると思うんです。やはり年間10万人の入館者のうちから、7万円、8万円の品物を買う人は限られてますけども、ネットで紹介されたら、「あれ、なかなか迫力あるんじゃないか」って売れるような気がしますしね。そういう意味ではネットの可能性ってすごいと思うんです。それに、仲野さんや石井さんのような何となくアカデミックな、まじめな雰囲気の人が訥々と商品を言うと、買うわけです。私みたいなのが売ってもね、「なんか胡散臭いな」って売れないわけですよね。(笑)

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