見出し画像

地域ミュージアム・トークセッションvol.2 (1)

地域でまわる「ヒト」「コト」「モノ」「カネ」の仕組みづくり
-小さなエコシステムをつくる〝仕掛け〟のお話し

Chapter-1 出会いからヒト・コト・モノ・カネへ

はじめに
江戸時代の長屋には「家守(やもり)」という管理人がいて、長屋の暮らしやすいコミュニティづくりに重要な役割を担っていました。
現代においても、その土地の特性を見極め、住む人、訪れる人の特技や悩みを聞き、人と人とをつなぎながら小さなイノベーションを起こしてく仕掛け人がいます。
今回は、地域で人をつなぎ、「場」をつくり、「コト」を起こす仕掛け人・小松俊昭さんをスペシャルゲストにお招きしました。
そして、レギュラーゲストの長野県小布施町の市村次夫さんとともに、「ヒト」「コト」「モノ」「カネ」をキーワードに、地域を紐解いていきました。

ゲスト
小松 俊昭 氏(合同会社家守公室 代表)
市村 次夫 氏(一般財団法人北斎館 理事長)

ナビゲーター
藤原 洋 (全国地域ミュージアム活性化協議会 事務局長理事)

開催日
2021年4月2日(金)16:00~

実施
オンラインにて開催

シリコンバレーの「カフェ」

小松: 銀行員として25年間勤めていたなかで、ロサンゼルスの西海岸を担当していたことがありました。上司と2人で飛び回り、当時、最もホットだった場所がシリコンバレーでした。調査活動の一環として人と出会うために頻繁に通いました。一番印象的だったのは、素敵なカフェがたくさんあったことです。カフェと言うとスターバックスのようなイメージがありますが、お酒も飲めて、日本でいうと居酒屋のような空間がたくさんありました。ここで起きていたのは、いろいろな方々がアイデアを持ち寄ってビジネスプランを考えて会社を立ち上げる、それがベンチャービジネスになっていくというものでした。これをいきなり日本に持ち込むのは難しいとは思いましたが、心に残り続けていました。

2005-6-24スタンフォード、,25サンディエゴ 005

日本に戻り、2002年に金沢の北陸支店にご縁ができました。北陸3県の富山、石川、福井で人口は約300万人。経済規模は日本全体の2%程度。ここで果たして何ができるのか?シリコンバレーも元は製造業の地域で、それがハイテク産業の地域に転換したところです。北陸もある時期に繊維産業を中心に発展しましたので、ここにハイテクと大学という機能が加わると新しいものが生まれるのではないか?そういう仮説のもと、当時北陸の大学とご縁のあった欧米の大学を訪ねて調査した結果、北陸でその可能性は大いにあり、ということがわかりました。その後、金沢工業大学に移籍してからも、大学との産学協働としてITベンチャー企業の立ち上げなどを手掛けました。

「ヤモリカフェ」で化学反応が起こる

小松: 特定業務(ITベンチャー社長等)以外は自由に活動することを認めていただいたことから地方創生の仕事を全国各地でさせていただきました。最初は富山県氷見市。富山湾を「いけす」と捉えると、その中に鰤等多種多様な魚がいて、それらの水揚げをした漁港のひとつが氷見でした。そこに三國清三さんという有名なフレンチのシェフを招いて「三國の旨美フェア」というイベントを行いました。そうしたイベントを重ねながら、「地域の資源を活かして何が起きるか?」という試みを繰り返しました。それが今日のタイトルでもある、「ヒトであり、コトであり、モノでありおカネであり、そういったもののつながりから新たな価値を生み出していく」取り組みです。
例えば、お金の使い方の一つとして、私が銀行を辞める時にいただいた退職金の一部で、氷見の中心市街地に続くシャッター通り街にあった空き店舗で「ヤモリカフェ」というカフェを開きました。約6年間続けましたが、それによっていろいろなコトが起きました。私自身が「風のヒト」とも言われるよそ者であり、よそ者がいろいろな情報を持ち込み、「土のヒト」である地元の人と関わりながら新たな化学反応が起こることを数々経験しました。ある程度コトが起こった時に必要なお金が求められます。その際に、行政だけでなく地域住民等民間の方からも協力をいただくことになります。最近は、それがふるさと納税やクラウドファンディングなどで話題になっています。

カフェ外観

はじまりは妄想から

小松: さて、何かコトを起こすときには妄想から始まります。次に構想となり、計画になり、最後に実行する。この4ステップを丁寧に繰り返すことがコミュニティビジネスに取り組む際に大変重要だと思います。妄想レベルが一番簡単です。私も毎日散歩しながら妄想します。たくさんの妄想をしているうちに、ハタと気づくことがあります。それらを整理して徐々に絞り込むうちに構想になり計画になります。実際、こういうことを繰り返すうちに、ヒト・コト・モノ・カネがどう関わるかということが実感できます。
従って、まずは、人と人との出会いが第一歩です。私自身も氷見の人と出会い、「我々のような『土のヒト』、小松さんのような『風のヒト』、この出会いが新しいことのはじまりだ」とも言われました。

次に必要なのはコトを探すことです。普遍的かつ多種多様な土地柄に根付いたところからそれは見いだせます。さらにモノですが、目に見える、目に見えない、この峻別も重要です。とかく目に見えるものに注視しがちですが、私は目に見えないもの、つまり「仕組み」に着目しました。最後に、おカネです。今、世界中にお金が溢れています。しかし、とても重要なことは、「お金は使うことによってはじめて機能するということ」です。昨年、国が国民に10万円ずつ給付しました。残念ながら、統計を取ると「約9割の人が貯蓄した」とのことです。せっかく国が給付してもそれが預金や貯金になっては、お金としての本来の価値が生きない。使われることがないまま眠ってしまうことになります。

地域の「らしさ」を見つける

小松: 地域については、私は「らしさ」にこだわっています。「~らしさ」という、例えば、私が二地域移住しようとしている長和町。新幹線で上田まで行き、上田から車で旧中山道沿いを抜けていくと美ヶ原や白樺湖を周辺に抱える諏訪や岡谷があり、上高地につながる松本が近辺にあります。こうした観光地に挟まれた所が長和町です。人口は約6,000人で、いわゆる過疎地であり、地方が抱えている少子高齢化などの地域課題に直面しています。この長和町町長の羽田健一郎さんは合併前の和田村出身で、私の父のふるさとでもあります。父のことも存じ上げてくださったことから、私もそこに移住してみるかという気持ちになりました。この時、長和らしさを考えました。今あるものをしっかり探すことで、「らしさ」を見出すことができます。ないものねだりをすればするほど画一的なまちになります。「あるもの探し」をした方が、個性が生きてきます。

衣・食・住の中では、食べることが一番分かりやすいものです。長和町の場合は、山林が丁寧に維持され、松茸が採れますし、山菜も豊富です。特に、水が大変良く、分水嶺からきれいな清流が流れています。私も子供の頃から長和町に行っていましたが、一番印象的なのは、祖母が作ってくれた蕎麦と漬物で今も「おふくろの味」として焼き付けられています。
また、縄文時代の遺跡が残っており、中でも縄文人にとって欠かせない黒曜石が今でも生産されています。黒曜石体験ミュージアムが最近オープンして、学芸員の大竹幸恵さんが、明治大学卒業後の約30年間、黒曜石にまつわる歴史等を研究しつつこのミュージアム創設に取組まれました。今は国際会議等でも高く評価されているそうです。日本遺産にも指定され、子どもたちに体験してもらうプログラム等に取り組まれています。すでに素晴らしい価値があると思いますし、これから更に磨きがいのある地域資源だと思います。
ここは下諏訪も含めて中山道沿いの宿場町でもあり、宿場ならではの建物がたくさん残っています。本陣もそのひとつです。こうしたところで、何をしていくのかということに次に触れたいと思います。

黒曜石体験ミュージアム⑤

「ヤモリ(家守)」に込めた思い

小松: 「家守」というのは、江戸時代に長屋を管理する大家さん、あるいは大家さんが雇った人です。争いごとを極力少なくする役割で、よく落語で「熊さん、八さん」のもめごと等を調整する、その人が家守です。ヒトとヒトをうまくつなぎながら地域のコーディネートをする職種です。私は、この家守を現代版に置き換えながら、3つの事業を中心に取り組みたいと思っています。一つが、旧中山道沿いの空き家になっている古民家等をレストランやホテル、セレクトショップにして、併せてその予約システムをつくろうと思っています。空き家が増えていますが、家の中にいろんなものがありすぎて片付け、掃除ができないという課題もありそうです。そこで学生など若者に掃除を頼もうと思います。例えば、大学生が夏休みを利用して「お掃除隊」を結成して古民家をきれいにするなどです。多くの古民家はこの地域の産業を支えた養蚕業の蚕棚を持っています。蚕棚がある建物は、建築家によれば、かなり頑丈な建物ということです。そうなると、まだまだ使えるので、きれいにした上でリノベーションしていく。主に若手の建築家の人を巻き込んで楽しみながら新しいことを企画したいと思います。

二つ目が、交流です。いきなり移住ではなく、夏休みなどに交流するプログラムをつくるのです。モデルになるのは、「トヨタ自然学校 白川郷:(参考:https://toyota.eco-inst.jp/)」です。各種アクティビティが充実していて、森を舞台に、温泉もあり散策しながら楽しく滞在できます。
長和町にも長門牧場というジャージー牛などが飼育されている素晴らしい牧場(長和町が出資)があります。家族でも楽しめます。このようなところを舞台にしていろいろなかたちで組み合わせたプログラムができます。

デジタル地域通貨の試み

小松: 三つめがおカネ。私は銀行マンでしたので、おカネとして、その地域ならではにしたいと思います。スマホでSUICAなどが使えますが、地域での買い物やサービスに使える地域独自のおカネを考えています。最近は地域振興券が発行されています。これを紙媒体でなく、デジタルポイントとして使えるようにと考えています。ふるさと納税の返礼品の代わりにデジタルポイントにして、例えば、1万円の寄付をすると、千円分の「黒曜」というデジタルポイントがもらえる。これを自由に地域内の売り買いに使っていただく仕組みです。

先ほど、おカネを使わないと意味がないと言いましたが、使わないと消えてしまうおカネにしようと思っています。おカネに賞味期限を設けるのです。すると、なるべく使うことを前提にしていただける。その際に、金融機関の関与が重要であると考えています。日頃、お金の扱いに慣れている地域金融機関ですが、「これから地域でどう生き延びていくか?」という課題を抱えています。しかも、このシステムを構築するためには、億円単位の高額コストがかかってしまいます。例えば、プログラマーの人件費などコスト低減が簡単でない状況にあります。この課題解決をビジネスパートナーの吉田剛さんに相談しました。まだ30代半ばの若者ですが、カンボジアで3社起業し、日本でも3社起業して全て黒字経営している大変有能なベンチャー企業家です。東京エレクトロンの元社員で、システムに明かるく、とても謙虚な若者です。世界中を飛び回りインド人など有能な国外の人材を使いこなすことができる稀有な人です。これで、高機能で低コストのシステムが手に入る目途がつきました。

最後に、これらの費用を賄うための国の制度がいろいろあります。例えば、地域プロジェクトマネージャー制度という総務省が今年度から設けた制度があります。これまでの地域おこし協力隊を発展させた制度で、3年間、自治体の負担はゼロで人材を採用できます。また、プロジェクトファイナンスに適した「ローカル10000プロジェクト」もあります。これらは総務省の制度です。
これ以外にも、内閣府、農林水産省、国土交通省などに地方創生に有効な制度があり、活用できます。

以上タイトルにある、「地域でまわるヒト・コト・モノ・カネの仕組みづくり」として、お話しさせていただきました。ご清聴ありがとうございました。

ディスカッションの場としての「カフェ」

藤原: 小松先生、ありがとうございました。市村さん、感想やご質問などお願いします。

市村: たくさんの経験がおありで、参考になることばかりですが、今日のお話で一番印象に残ったのは、シリコンバレーの勃興期、カフェといってもアルコールが出るという、あのお話ですね。日本だと、カフェはありますが、アルコールは居酒屋となる。でも、居酒屋となると知った仲間同士が集って楽しいのですが、一方で新たなことがなかなか生まれにくいんですよね。ディスカッションするという感じでもないですし。案外、もっと広いところ、どんな思いで議論してもいいような場所、そしてもちろん軽くアルコールも出せる場所。これは非常にいいと思います。コロナが完全に解決したら、大声で話をするというのは、それ自体非常に楽しいことで、特にコロナでみんな我慢した後ですから、大事なんじゃないかな、と思いますね。

2005-6-24スタンフォード、,25サンディエゴ 009

ふるさと納税をもっと面白く

市村: 先生のお話でも、最初はやはり妄想ということで、妄想がどんどん独り歩きして具体的になり始めたら計画を練る、と。これは正しいと思いますね。どうも、我々、こういう制度があって申込〆切がいつまで、と、そこからことを考えることをやりすぎている感じがしますので、妄想から始まるというのは非常に面白いお話でした。それから返礼品ですね、もっともっといろんなアイデアがあると思います。先生おっしゃるポイントについても、その通りだと思います。それ以外にも、高額の芸術作品や非常に手の込んだ工芸品でもいいのですが、そういうものを作家や職人に発注して、結果的にそれがどのくらいでできるかで金額を決めるのもいいと思います。それが100万円だったら、この町に税金を300万円納めようとか。逆の見立てだってありますね。富裕層はそれができますし、別に富裕層でなくても、「それ、3万円ですか、では10万円納めましょう」とか。先にメニューがあるのではなくて、これが欲しいから、ふるさと納税の納付額が決まる、ということがどんどん出てくると、もっと面白いと思うんですね。既存の商品から選んでください、というのもある一方で、ふるさと納税だからこそ、逆のこともできるかなという気がしました。先生のお話、広範なものですから、お話し伺いながら、こちらの連想が働きました。

小松: 服を作る時に、レディメイドでいくか、オーダーメイドでいくかですが、地域おこしはオーダーメイドがいいと思いますね。制度があるからそれに合わせて計画を作るのではなくて、日頃から妄想を重ねて、自分たちの地域に合った計画を立てていくという習慣がいいのかなと思います。作家さんの作品をふるさと納税の返礼品にするというお話は私もまったく賛成です。クラウドファンディングの仕組みも、作家さんに、こんな作品をつくってほしいとまず発注して、若手作家が「これを作るには100万円かかります」というと、その時に初めて100万円のクラウドファンディングの計画を立てて皆さんで募るかと。最近のケースは、まず、クラウドファンディングでお金を100万円あつめましょうというところからスタートしてしまっているのが現実です。何のために、というのを先において、市村さんおっしゃるようにする方が地域のためになると思います。

市村: そうですね。日本刀なんて典型的ですよね。一振りお願いして、いくらぐらいかかるかな、と。いくらかかってもいいんですけど、例えば大金持ちだったら、住民税の範囲でいけるし、そうでない場合は仲間を10人募るとか。どうも、今までが全て逆のような気がします。

小松: 今回のコロナは、時計の針を逆に戻せるチャンスかもしれませんね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?