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地域ミュージアム・トークセッションvol.2(3)

地域でまわる「ヒト」「コト」「モノ」「カネ」の仕組みづくり
-小さなエコシステムをつくる〝仕掛け〟のお話し
Chapter-3 みんなの力を結集した村づくり

ゲスト
小松 俊昭 氏(合同会社家守公室 代表)
市村 次夫 氏(一般財団法人北斎館 理事長)

ナビゲーター
藤原 洋 (全国地域ミュージアム活性化協議会 事務局長理事)

吉田村のまちづくりから、地域ミュージアムの活動へ

藤原:
ここで、私が取り組んできた小さな村の活性化について話をさせていただきたいと思います。県境の小さな村で、役場の職員として私が担当した時は2,800人の人口でした。国勢調査の度に10%~15%減っていくという非常に厳しい村だったわけですね。まだ、まちづくりということに対する意識が生まれていない時期でしたので、皆さんに働きかけて、啐啄塾、そして村づくり委員会という形で、むらづくりに関心のある皆さんで3年間協議をしました。最初の年が現状把握の年ということで自分たちの村を知りましょう、そして2年目が知識導入、他の所はどういう形でやっているんだろうということを知る、3年目に計画づくりをするということをやっていきました。そこの中で、特徴的なものを一つ上げるとするならば、吉田村はたらら製鉄のまちであるということから、製鉄文化を活かすということが一つの有力な方法ではないか、アイデンティティができるのではないかというところからのことでした。

菅谷高殿

その村の製鉄遺構である菅谷高殿では、江戸末期のパリの万博で優秀賞をとった刀の素材である玉鋼が作られました。それをたどっていくだけではなく、文化の価値を高めることからやっていこうと考えました。その時に、たたらの復原操業を記録した映画や資料がありましたので、それをもとにシンポジウム「人間と鉄」「地球と鉄」といった研究会を8年間やって参りました。あらゆる知識人の先生方に集まっていただき、人間と鉄に対して論究をいただきました。こういう成果をどう伝えるかということでミュージアムをつくろうということで空き家だったお医者さんのお宅をいただいて、鉄の歴史博物館というミュージアムをつくって参りました。このことが鉄の歴史村づくりの一つの拠点であり、核になりました。どうやってそれを続け、進化させていくかという時に、役場の職員だと、3年とか5年で異動があったりしますので、専門的な組織をつくるために、全国から寄付金を募って財団法人を作りました。そこが博物館事業や新たな鉄生産事業を行うということをやりました。この財団法人が鉄の歴史村を引っ張って核になって働く役割にしました。

現代たたら

そして、鉄の歴史と文化を追求するだけでなく、かつてあった技術を復元して、玉鋼をつくってみようということで実験を行いました。様々な大学や通産省の支援をいただいて、3年間にわたってたたら製鉄の復原の事業をやっていきました。鋼ができるようになって、財団法人の工房ではその鋼を加工することもやっています。これは体験活動にもなって、小刀を作って、キャンプ場で料理をつくってみることもやってきました。また、近隣のたたら製鉄の関連する自治体と連携して鉄の道文化圏として交流事業を進めていくこともやってきました。

文化で飯が食えるか、ということを議会から言われたりしましたが、文化のない所に人は集まらないんだ、ということを話ながら、「文化と産業のパートナーシップ」ということをやってきました。文化と産業はもともと性質の違うものですが、そこに交流という仕組みを入れて、文化は産業の質を高め、産業は文化の継続性をつくったりという関係でやる方法があるのではないかと思っています。文化事業をやる、交流事業をやる、そこで生まれてくる需要に対して企業をつくっていくということをやってきました。

先ずは文化事業で情報の流れをつくる、そして人の流れをつくる、人の流れができればモノやサービスが動く、そしてそこにスモールビジネスが生まれてくる、そういったことをやってきました。そこで第3セクター・㈱吉田ふるさと村を設立して、最初は3名でスタートしました。地元のものを組み合わせながらやっています。交流をやっていくうちに、文化と産業のブリッジを掛けるだけでなく、交流がさまざまな副産物を生んでくると思いました。新しい産業を生み出し、これまでの産業を活性化することができる、新しい職種を開発することができると思い、NPO等様々な団体を設立しながらやってきました。文化事業でアイデンティティを高めるということをやりながら、そこで生まれてくる需要に対して応えていくという流れで地域の循環ができないかと考えたわけです。この第3セクターでは、地元の素材から新商品も開発されていきました。

そういう流れの中で、ここで飛躍的に発展させることを考えようと思いました。それは、鉄の歴史村だけでなく、地域の文化、地域のミュージアムというものを活かす方法を考えようと思ったのです。私は、地域ミュージアムは地域づくりの知恵の源だと思っています。そして、全国地域ミュージアム活性化協議会を設立しました。理事長の元文化庁長官の植木浩先生を含め、様々な立場の方が賛同してくださり、できたものです。そして、私たちは「世界と対話する」ということを一つのテーマとしてきました。そして、地域が持つ文化と歴史、それを活かした地域づくりを国際会議で発表もしました。知的体力をつけるとともに、人材育成、人を育てる環境を作っていくというところに視点を置いた取り組みをやっているところです。
以上、一つの話題提供としてお話しをさせていただきました。

ICRでの発表

ヤモリカフェ、オリーブ園の事例

小松:
素晴らしい取り組みだと思います。これは、私が氷見の街なかで開いたカフェです(参考:ヤモリカフェ ワンデーシェフ)。店長は私が住んでいる浦和から移住しました。地元の方々に馴染めるようにデザインしました。「よそ者」を迎える試みの一つとして、調理経験のない方が頑張って店長を務めてくれました。店長は私が住んでいる浦和から移住しました。地元の方々に馴染めるようにデザインしました。「よそ者」を迎える試みの一つとして、調理経験のない方が頑張って店長を務めてくれました(参考:井上誠耕園)。オリーブ園の例です。小豆島はオリーブの苗木をカリフォルニアのナパバレーから持ってきて国内で三か所植えた島の一つです。それを継承した3代目が井上智博さんです。サイトでご覧のように名産品をたくさん作っています。一番利益率が高いのは化粧品だと思いますが、小豆島だけでは大量のオリーブを生産できないので、スペインとオーストラリアに農園を購入して、小豆島で加工しています。結果的に100億円を超える売り上げの企業に成長しています。ビジネスをやるときの一番のポイントは、より多くの方の雇用を創出することではないかと思います。
「たたら」と言えば、三國さんの生まれたのが北海道の増毛町と言う所で、ニシンの一大産地でしたが、三國さんが生まれた頃にまったく捕れなくなったそうです。何故かと調べると、鉄分が不足してニシンの餌の昆布が育たなくなったというのです。ある時、新日鉄が実験を始めて、鉄のスラグを海に入れたら昆布が育ち始めて、ニシンが獲れるようになったそうです。鉄分というのは、おそらく人間が生活する上で欠かせない要素だと思います。

多様に展開する小さなビジネス

藤原:
市村さん、コメントをお願いします。

市村:
場所によって違うんだな、と言うことは痛切に感じましたよね。吉田村の例をお話しされたと思うんですけど、基本的にたたら製鉄の復原とかイベントがあれば確かに一流の人が来るんでしょうけども、一流でなくても一般の観光客も含めて、訪ねるにはなかなか東京、大阪から遠く、簡単に行けないということと、小布施のように東京の出店のような軽井沢があって、軽井沢から1時間程度で来れるという所とは少し違うのかな、という気がしましたね。藤原さんのところは、村民一丸となって一つの目標に向かってという感じなんですが、小布施の場合は方向性はあってるんだけども、ビジネスは個々であったり、あるいは農家の存在が大きいですね。農家はこの10年ぐらいシャインマスカット景気なんです。1軒の粗収入が1億円を超えるような農家も少しずつ出てくるようになっています。一般的な農協を主体とした農業とは違った、非常に事業的な農業が随分発達してきたところに、最近のシャインマスカット景気が来たというのもあります。

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いろんな要素があって、ちいさいんだけど多様にやっているのが特徴です。あるいは、農機具屋さんの息子さんが10年ぐらい前に帰ってきて、うまくネットを使って、親父の古い工場で中古の農機具本体に、アメリカからいろんなアタッチメントを輸入してそれを組み合わせて販売して、業績を何倍にも伸ばすなど、いろんなパターンがあるんです。あるいは、地道に、80年ぐらい前から合成の葡萄酒を作っていた所が、今は完全にヨーロッパ種ブドウを栽培してワインを作っている。小布施ワインという非常に人気のワインです。新たなビジネス、あるいは代々のビジネスがあって多様な展開をしています。(吉田村のように)一つのビジネスをみんなで盛り上げてというイメージではないですね。

藤原:
最初はそうなんです。㈱吉田ふるさと村をやるときは村民一丸となってということだったんですけども、その後、自分でこれをやりたいという動きが出てきたんですね。当初は、個人で起業するような意思はなかった。それが、そこに供給するという形でさまざまなスモールビジネスが生まれてきたんです。加工においても、交流においても。一つ起爆を作ったことによって、スモールビジネスが生まれてきました。


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