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黄昏時のゴールデン・タイム

Holiday Works 家族トリップ in 九州 〜Week 3〜


4月8日(水) ラジオドラマ「あ、安部礼司」初のZoom会議。

この日、僕は大分県の豊後高田市にいた。映画「Always三丁目の夕陽」みたいな世界観に惹かれて都会からの移住者が多い町としても有名で、昭和40年代のまま時が止まったかのような不思議な町だ。中心地に昭和記念館のようなところがあってそこにTeam Laboのノボリがあった。昭和の町にあるはずのないデジタルチームの参入に少々の外連味を感じ、”こんなとこにもTeam Labo”っていうその頻出感に少しだけ嫌気が差した。別になにも悪いことなんかしてないのにゴメンね、Team Labo。そんな風に思っちゃって。

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会議の始まる10分前、僕はカツ丼(350円)を一気にかっ喰らって近くの公園にピットインし、iPadでZoomのデジタル集合場に滑り込んだ。もう14年も顔を突き合わせている安部礼司スタッフの面々の自宅がスクリーンに映し出され、子供や旦那さんが時に背景に混ざり合い、これまでにないアットホームな温かみを感じながらの制作会議。僕は好きだった。初めてのZoomだったんで最初は音声が出なかったりちょっとつまづいてたんだけど、慣れてくると資料も見やすいし、なんか人が近く感じられてね、好きだった。

安部礼司は昭和生まれのナイス・サラリーマンのお話ですが、あまり懐古的にならないよう心がけている。日曜日の夕方はラジオのゴールデン・タイムなんで、笑ったりホロっとしたりしながらも豊かな気持ちになってもらえることを心がけてきた。でも今、時代が変わった。気楽な奴を軽く笑えなくなってしまった。今後は、このコロナが猛威を奮う世界で安部礼司は日々をどう生きるのか。なにを語るのか。もう一度捉え直さなければならない。飯野とおさぼりしながらフラついていた平成の神保町の景色は、今はもうない。

ほぼ全ての企業がそうであるようにスポンサーのNISSANもまた、大変な時期に面している。いろんなクライアント仕事をしてきたが、NISSANはゴマすりじゃなく、僕史上最高のパートナーだ。共働して15年目になるが、いままで何度助けてもらったか分からない。2年前リニューアルしてTwitterが炎上した時、真っ先に応援してくれたのは他でもないNISSANだった。

ラジオは時代の空気の中で鳴っている。世の状況によって聴こえ方が変わる。こんなご時世だからこそ、みんなでスクラム組んでこの苦境を乗り越えていきたい。iPadのスクリーンの向こう側から制作スタッフのそんな言葉が聞こえてくる。広告代理店の面々とも長い付き合いだが、彼らの言葉にもいつも以上の温度を感じる。スポンサーも代理店も営業も制作も演者もリスナーも、みんな一丸となって大きくて温かい応援歌を作っていきたい。そんなテンションで白熱したZoom会議が終わろうとしたその時、総合演出の勝島さんから「堀内さん、そこの背景の景色グルっと見せてよ!」と声がかかった。お!いいですよ。なんて言いながら立ち上がったら、痺れを切らしたように子供たちが一斉に僕目掛けて走ってきた。

ヤツらはもう、とっくの昔に豊後高田に飽きてたのだ!

昭和の駄菓子屋でひとり100円分のお買い物をした。そこがピーク。昔の日本の姿に特に感じるものもなく、駄菓子以外のほぼすべてをヤツらはスルーした。8歳、7歳、2歳のキッズに懐古的とかノスタルジーなんて言葉はまったく縁遠いものだった。そりゃそうなんだけど!

会議が終わって僕らはキャンピングカーに乗り込み、日本一の夕陽とうたわれる真玉海岸を目指した。着いたのは午後4時ぐらい。サンセットまではあと2時間。ボーっとしててもしょうがないってことで、日没までの間は貝拾いでもして過ごそうとなった。眼前に広がる干潟は美しく、実際に裸足で歩いてみるとボコボコに波打つそのちょいカタな砂感触がクセになりそうなほど気持ちいい。どうやらマテ貝が採れるようなのだが、よく採り方が分からないんで、そこにいるやたら玄人っぽいオーラを出しているお爺さんとお婆さんにすり寄って教えてもらうことにした。

クワで砂を鋭利に掘って、穴を見つけたらそこにパッと塩をかける。少し待つとポコッと泡が吹き出してきて、ニョキっと貝が貝を出す。そこでグッと手を入れて長細い貝を砂から抜き出す。そんな流れ。

これがやってみるとなかなかに難しい。子供たちは最初ビビっちゃってぜんぜんマテ貝を掴みきれない。こいつ、なんかキモい。そんな想いがヒシヒシと伝わってくる。それでも僕とユカリが次々と貝を採るのを見ている間に好奇心に火がついてきたようで、僕らのそばでじっとその様子を観察している。沈みゆく夕日の中で子供たちはそれぞれにマテ貝と向き合い始め、ひとつ、またひとつとマテ貝を採れるようになっていった。ニョキっと顔を出した瞬間に手をグッと入れるその感覚は釣りに似ていて、長男のヒラクは採れるたびに『釣れたー!」と吠えていた。その動的な戦いは、”採る”よりも”獲る”のほうが正解なのかも知れない。

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みんなで狩猟に汗かいたあとの爽快感ったらマジ、ハンパなかった。今晩はこれでパスタを作ろうとか、炊き込みご飯にしようなどと豪快に語らい合い、まるで大漁旗を掲げて帰還する漁師のような勇ましさ。プッと吹き出しそうになるのを抑えて目を逸らすと、一人の外国人が目に入った。その手にはゴミや空き缶が。。

東北から九州にやってきたフランス人。両手にゴミを持って歩いている理由を聞けば、「こんな美しい海にゴミがあるのが好きじゃない」と。フランス人特有のセンスというよりは彼自身の感性がそう言わせているようだった。「おめぇなんでまたこんな国にいる?コロナ怖ぐねぇのか?」なんとなくそんな東北フレイヴァーの英語で僕が尋ねると、少し思いを巡らした後「わたしは、美しい場所が好きです」と日本語で返してきた。なんだその角度の違う返し。なんか心に刺さったぞ。

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顔を上げるとそこは美しい夕陽の世界が広がっていて、みんなでずーっと見ていた。僕の心の中では「わたしは、美しい場所が好きです」というフレーズが何度もリフレインされていた。恐れや不安や不満もいろいろあるだろうけど、知らない人に片言のコトバでなにかを伝える時、優先させたいのはそんな言葉じゃないはずだ。言った本人も、聞いた人にも気持ちのいい言葉がある。そんなことをただぼんやりと、黄金色の世界の真ん中で考えていた。

昭和生まれのサラリーマン・安部礼司も、僕らも、僕の子供たちも、令和の時代を生きる。現実の世界にはTeam Laboのようなデジタルの魔法はない。

いろんな人と出会い、いろんなことを観察し、経験し、いろんな生き物と触れ合い、捕獲し、なにかを共有し、励まし合い、世話したりされ返したり、そんなふうに人と密接に生きる過程できっと、魔法のような出来事が起こる。忘れたくない、信じたい言葉に出会う。過去に戻ることはできないけれど、胸に大切に保管しておいて、何かがあるたびに取り出して愛でるような言葉や記憶は多い方がいい。この旅のかけらが子供たちにとってそうなってくれればいいなってずっと思ってる。

そしていつの日か、僕の子供たちが誰かを勇気づけるような言葉を口にする。そんな未来を信じて、この旅を続ける。

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ヤァー!


応援を力に変えて良いメッセージを発信することでお返ししたいと思っています。よろしくお願いします!