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【マネジメント】『職場』の見方を変える書籍!関わりあう職場のマネジメントを読んで(鈴木, 2013)

「職場」のマネジメントにおいて必須の書、ともいえる、神戸大学・鈴木先生の書籍をようやく読了しました。この「関わり合う職場」という表現に、職場の持つさまざまな特徴が集約されており、学術書ながらとても実践的な書籍だと感じました!


どんな書籍?

本書は、相互に従業員が関わり合う組織や職場において、他者を助ける行動ややるべき事をきっちりこなす行動、そして仕事における積極的な創意工夫が行われる仕組みや、そのメカニズムを解明したものです。

組織行動論、経営管理論の学術書であるため、組織行動論で用いられる学術概念や分析手法あるいは、公共哲学を紹介しながら、関わり合う「職場」について、検討を進めています。

中でも、個人的に興味深いと感じたのは、組織ー個人という二元論でなく、の間に、「職場」という考え方を取り入れ、三元的な捉え方を行い、組織と個人の間の「職場」にこそ、支援行動や勤勉さ、創意工夫のヒントが隠されている、と指摘した点です。

(お恥ずかしながら、組織と職場の違いについて、自分の言葉で説明できる語彙を持ち合わせていなかったと、本書を読んで感じました・・・)

この書籍は、学術書のため硬い文章になっており、実務家や学生にはやや読みにくいかもしれません。しかしながら、メッセージはきわめて実践的だと感じました。

特に刺さった点を引用します。

職場に積極的な意義と役割を持たせることで、支援と勤勉と創意工夫の適度なバランスを維持することができるのではないかと考えている。その理由は、すでに述べているように、組織と個人の間に職場と言う主体を挟むことで、相互に関わることが可能になるからである。それによって職場を通して公共性が涵養され、一方で職場において自己の意義や責任をより自覚することにつながると考えるからである。
(中略)
この章の冒頭に述べたように、経営管理論では、産業において組織規模が拡大するにつれて、その対象である組織と職場は乖離することになった。つまり、もともと小さな組織や職場を管理する理論であった経営管理論は、組織を管理する理論になり、職場を管理する理論が置き去りになってきた*。その点で職場への注目は、もう一度、経営管理論における職場のマネジメントへの回帰を促すものであるとも言える。

*実際は職場のマネジメントは、リーダーシップ論へと引き継がれてきたということができる。

P99-100


組織の中で人はなぜ自発的に他者を助け、勤勉に働くのか

本書では、支援と勤勉にかかわる3つの行動として、組織市民行動、向社会的組織行動、組織的自発性の3つの概念を扱います。これらの概念の詳細説明は省きますが、これらの概念から、組織の中で自発的に他者を支援し、勤勉に働く要因を整理しています。

1.支援や勤勉を促す個人的要因
著者は、人は必ずしも善意だけで人を助け、秩序を守り、やるべきことをやるのではなく、社会的交換関係における互酬的な規範や、集団の高い凝集性やメンバーシップによって、支援や勤勉といった行動を取ると説明します。

加えて、もう一つの要素として、「印象操作・印象管理」を挙げています。組織や職場において自分の印象を良くしたり、評価を高めようとする利己的な目的から、支援や勤勉な行動を取るとのこと。

2.支援や勤勉を促すコンテクスト
先行研究においては、支援や勤勉を促す要因として、個人レベルと集団レベル、組織レベル、そして組織間レベルのコンテクストに分けられるようです。
今回のフォーカスである「職場」に近い、集団レベルのコンテクストとして掲げられているのが、集団規範、仕事における相互依存性、目標の3つです。

組織的な自発性を促進する集団規範があれば、支援的な行動が促進されるのは自然な行動と考えられます。

また、仕事における相互依存性ですが、これは本書のタイトルにもなっている「関わり合う職場」を捉える概念として着目しているものです。相互依存性が高いほど、お互いを助ける機会を増やす一方、低い場合は、個人が自分の活動に集中し、支援の機会や建設的な提案が減るとのこと。

最後に、目標です。これは、個人的か集団的かという観点と、難易度によって支援行動の発生度合いを規定するようです。
具体的には、「個人」で「高い難易度」の目標の場合、支援行動のための自発性は低くなりますが、「集団」で「高い難易度」の目標であれば、目標達成のために相互に支援し合ったり、建設的な提案を挙げる行動が想定されるようです。

著者は、一昔前は、上で述べた個人レベルの要因が研究されてきたものの、近年では、集団、組織、組織間のコンテクスト要因が検討されていると指摘し、以下引用部のようにまとめています。

組織において支援や勤勉と言った行動を起こすかどうかは、個人だけでなく職場や組織によっても違う、そこに所属する人が積極的に支援や勤勉行動を取る職場や組織があると考えられるようになってきたのである。

P124


関わり合う職場だと、自発的行動が生まれる理由

本書の主眼である、「関わり合う職場」とは、概念的には仕事の相互依存性が構成要素である、と触れてきましたが、こうした仕事の相互依存性が、個人の自発的行動(組織市民行動や、協調行動)に繋がる2つの理由が解説されています。

1つ目は、「責任感の知覚」です。仕事の相互依存性が高いと、自分の仕事ぶりが他者の仕事に影響を与えます。こういった自覚を通じて、職場で言われたことをこなすだけでなく、より自発的に行動する、とのこと。

2つ目は、相互依存的になることでメンバーが親密になり、「互酬性」が生まれやすくなる点です。互酬性の意識が高い職場では、将来自分に返報されることを期待して、利他的な行動を自発的にとるこのこと。

また、相互依存性が高まり、集団の凝集性が強まると、援助支援を行いやすくなるのも一因とのこと。


最後のメッセージ

本書を締めくくる最後の文章をそのまま引用します。血の通った暑い言葉だと感じました。

マネジメントにおいて効率性や合理性を追求することで失われるこのような行動(支援や勤勉さ、創意工夫)に注目する意義は十分にあるはずである。関わり合う職場では、仲間意識から、あるいは仲間に対する責任感からこのような行動が起こる。そして何より、職場の仲間と関わり合いながら仕事をすることで自分のできることをさがし、行動を起こすと考えられるそれは職場と言う近い関係の中で構成される場であるからこそ考えられ、更なる行動につながると考えられるのである。

P233

感じたこと

組織と個人の間にある「職場」に注目し、しかも、「関わり合う職場」という言葉を用いて、相互依存的な職場のあり方における、支援行動や勤勉さ、創意工夫の生じる過程を示した点は、本当に興味深いと感じます。

個々人のリーダーシップや特性、行動に着目するのも大事ですが、職場におけるコンテクストに注目するのは、特に日本企業においては大切です。

最後のメッセージにあるように、組織と言う概念とは異なり、「仲間との関わりあい」が、職場という言葉に含まれており、だからこそ、個人への行動に対するインパクトも大きいように思います。

組織開発も、本来の意味的には、「職場開発(Work group development」の方が近いのかもしれません。

今後は、もっと「組織」「職場」と言う言葉を、意図的に使い分けたいと思わせてくれる良著でした。


備忘:
本書においては、マルチレベル分析についても一部言及がなされているので、そちらについても忘れないように引用箇所を明記しておく。

では、このようにレベルを揃えて分析することには、どんな誤謬を引き起こす可能性があるのだろうか。それは端的に言えば、組織レベルの発見事実を個人レベルまで無批判に拡張してしまう、あるいは個人レベルの発見事実を無批判に組織レベルへと拡大解釈してしまうという誤謬を引き起こす危険性が生じるのである(Kozlowski & Klein, 2000)。たとえば、組織レベルでそろえた場合で言えば、組織文化が組織レベルで平均値化された組織コミットメントに影響を与えていたとしても、あくまでそれは平均値化された組織レベルの組織コミットメントへの影響である。組織コミットメントを本来個人レベルの変数と考えているならば、組織の中には組織コミットメントが高い人もいれば低い人もいることになる。例えば、極端に高い人が数人いて他は低いかもしれない組織や、おおむねみんな高いが、極端に低い人たちがいる、といったことを十分に反映することができない。個人の情報を組織レベルに集約することによって、情報が矮小化され、誤った結果を導く可能性があるのである。

P144-145


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