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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILは、組織のサイロ化を解決する、「垣根を超えた行動」に効く!?(Wang, 2023)

インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に関する論文、次から次へと見つかるので、終わりなき旅です。。。注目されていることを実感しています。

今回紹介するのは、組織の垣根を超えた行動(Boundary Spanning)に、ILが影響を与えることを示した論文です。

Wang, Z., Ye, Y., Huang, Q., Liu, X., & Fan, Y. (2023). Fostering Employee Customer-Oriented Boundary Spanning Behaviors: The Role of Inclusive Leadership. Journal of Travel Research


どんな論文?

中国における、顧客窓口などを担う従業員を対象にした調査研究で、ILが、組織の垣根を超えた行動、つまりバウンダリースパニング行動に与える影響やそのメカニズムを明らかにした論文です。

バウンダリースパニング行動(Boundary Spanning Behavior)とは、 「異質な組織/個人の境界を戦略的に連結し、縦横無尽に組織行動に影響を及ぼす行動」と定義されるようです。こうした行動を起こす人を「バウンダリースパナ―」と呼んだりもします。

今回の研究で扱われたのは、そのバウンダリースパニング行動の派生形である、「顧客志向的バウンダリー・スパニング行動(Customer Oriented Boundary Spanning Behaviors: COBSBs)」というもので、顧客サービス担当者の、職務を超えた顧客に対する積極的なサービスや、顧客の声をもとに職場内での改善提案などを行う行動を指します。

こうした、顧客と職場を行き来するような「越境」を通じた顧客担当の行動は、顧客に対するポジティブな印象づくりにもつながるため、特に観光サービス業においては、COBSBsが重要とされ、少しずつ研究が増えているようです。

こうしたCOBSBsを高めるために、上司のILが有効に機能するメカニズムとして、顧客担当の義務感(Felt Obligation)が媒介することを見出しました。

つまり、上司がILを発揮すると、顧客担当が義務感を抱き、その結果として、COBSBs、すなわち顧客志向的なバウンダリースパニング行動を高める、とのこと。

理論的に補足すると、上司のILを発揮し、メンバーに対して相談に乗ったり、承認行動を取ったりすることで、返報性の原理から「上司がここまでやってくれているのだから、自分もやらなくちゃ」という義務感を抱き、その気持ちによって、COBSBs的なアクションを取ろうとする、と言えます。

(内的動機付けや組織コミットメントではなく、義務感か、、、という気もしてしまいますが)

加えて、顧客担当の「所属の欲求」(Need for Affiliation)が、この影響関係を強める、という点も明らかにされました。所属欲求が高いメンバーは、インクルーシブ・リーダーの対応を好意的にとらえ、よく相談することで、自分の居場所感を高め得るとのこと。

こうした欲求を持つ顧客担当の方が、IL→義務感の影響が強くなる、ということを定量的に示しました。

これらを示したのが、以下の図になります。

P3

バウンダリースパニング行動

ここで、少し「バウンダリースパニング行動」について触れておきます。

グロービス知見録によると、バウンダリースパニング行動について、以下のようにまとめられています。

  • バウンダリースパナーとは、「異質な組織/個人の境界を戦略的に連結し、縦横無尽に組織行動に影響を及ぼす役割であり、表面上の公式権限がない中、必要な資源に簡易にアクセスし、組織の内部ネットワークを外部情報源と結びつける存在」として、1977年にM. Tushmanが提唱

  • 企業は事業変革を進める際に様々な課題に直面する。その課題は、利害関係・KPIの相反による組織間の対立、既存事業の中で従来の延長線にないイノベーティブな新規事業を立ち上げようとした際に起こる意思決定基準の対立、さらにはグローバル化に伴う商習慣の差異による対立など様々です。これらに共通することは、全て「境界」が存在する

  • クリス・アーンスト(上述の書籍の著者)によると、組織の境界は(1)垂直、(2)水平、(3)ステークホルダー、(4)人口属性、(5)地理の5つに分類できる。特に阻害要因になりやすいのは、(1)垂直の境界(役職ごとの境界)と、(2)水平の境界(組織・機能ごとの境界)と考えられる。

  • なぜバウンダリースパニングが必要かというと、既存事業の効率化を図るべく組織化された大企業においては、その強み故に、境界が顕著に現れるため、境界を跨ぐ情報の流通や意思疎通、連携・協働がしづらくなり、イノベーションが失速しがち

  •  企業の中で、「わざわざ新規事業に参入するリスクを冒す必要があるのか?」「今こそ、経営資源を集中投下して中核事業を立て直すべきではないか?」という言葉が出得る。つまり、大企業の事業変革における難所は、「既存組織の慣性が働き、軋轢が生じて変革が失速しがちであること」と言っても、過言ではない

実務に身を置いていても、企業における各組織がサイロ化することで、協働が生まれなくなったり、シナジーが発揮されなかったりする話はよく耳にします。

或いは、ミスを他の組織のせいにしたり、敵視したり、ということも起きるかもしれません。とりわけ、不確実性が高いビジネス環境下において、社内で連携の取れない状況は致命傷になります。

だからこそ、「バウンダリースパナ―」への注目が、実務においても研究においても高まっているのかもしれません。

詳しくは、グロービスの知見録がよくまとまっているので、そちらををご参照ください。


感じたこと

インクルーシブ・リーダーシップ(IL)が、バウンダリースパニング行動(厳密には、顧客志向的バウンダリースパニング行動ですが)に影響を与える、という調査は、日本企業にありそうな、組織の垣根を越えて協働し、イノベーションを生むという課題に対する、一つの解決策を示してくれているように思います。

他の文献では、「心理的安全性」で有名な、ハーバード大学のエドモンドソン教授の研究で、心理的安全性が高い職場だと、バウンダリースパニング行動が高まる、というものもあります。

なお、ILは、心理的安全性を高めるリーダーシップとして、多くの文献でも調査されていることから、IL→心理的安全性→バウンダリースパニング行動、という影響関係も想定されます。

というわけで、ILが日本企業の課題解決に重要!というのは、かなり力強く説明できそうです!


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