見出し画像

【イノベーション】革新的行動の尺度開発を行った論文(De Jong et al., 2008)

今回もイノベーションを扱います。個々人の革新的行動を測定する尺度を開発した、オランダの研究者による論文です。
(De Jong=デ・ヨングと聞くと、どうしてもサッカー選手を想起するのは、マニアックな欧州サッカーファンである子をもつ親ゆえかもしれません)

De Jong, J. P., & Den Hartog, D. N. (2008). Innovative work behavior: Measurement and validation. EIM Business and Policy Research, 8(1), 1-27.


どんな論文?

タイトルそのままズバリ、Innovative Work Behavior(IWB:革新的な行動)の尺度開発と妥当性検証を行った研究です。

こうしたモデルを想定し、パイロット研究として、まず81名の専門家とその上司へのアンケート調査および統計的分析をもとに、IWBの測定尺度を開発しました。

その後、メイン研究として、94社の知識労働者・703名とその上司のマッチング・サンプルを対象に調査を行い、IWBと参加型リーダーシップ、社外との仕事上の接点、革新的なアウトプットとの関係を検証しています。(階層的マルチレベル分析を実施)
モデル図は以下です。

P10

その結果、4つの次元すべてがIWBの全体的な尺度に影響していことから、IWB尺度の強い収束的妥当性が示されています。ただし、いくつかの次元間の相関が比較的高く、判別的妥当性の裏付けは弱いようです。(統計用語が多い点、ご了承ください・・・)

また、IWBが、参加型リーダーシップ、社外との仕事上のコンタクト※1、革新的なアウトプット※2と正の相関があることが示されたことも、注目に値します。インクルーシブ・リーダーシップも、参加型リーダーシップと近しい概念であることから、IL→IWBを想定する一つの根拠ともなる結果です。

※1 社外との仕事上のコンタクト:イノベーションには、さまざまなステークホルダーとの接触機会を持つことが重要、という先行研究からの示唆により開発された尺度(De Jong & Den Hartog, 2005)。サンプル質問は以下。

  • 私は仕事柄、外部の顧客を訪問する。

  • 自分の会社の見込み客と連絡を取り合っている。

  • 会議、見本市、展示会を訪問する。 など

※2 革新的なアウトプット:新しい製品やサービス、仕事のやり方、知識、市場(顧客グループ)に関する従業員の提案や実施努力の頻度に関する6項目から構成される設問。これらはすべて、イノベーションの対象として広く
認識されている(Shane, 2003)。サンプル質問は以下。

あなたの仕事では、どれくらいの頻度で...

  • ...現在の製品やサービスを改善するための提案をするか?

  • ...仕事のやり方を改善するためのアイデアを生み出すか? など


IWB尺度の開発・検証に至った動機

過去にも、さまざまな研究者がIWBの測定尺度を開発していますが、著者らは、それまでの測定尺度・測定方法に、以下のような疑義を呈しています。

これまでの測定法には、我々が解決しようとするいくつかの問題点がある。一般的な情報源バイアスや社会的望ましさのような問題を防ぐために、IWBのデータは独立した情報源、例えば上司や同僚から収集されることが望ましい。少数の例外(例:Scott & Bruce, 1994; Janssen, 2000)を除いて、ほとんどの研究は、そのような独立した情報源を使用せず、代わりに自己申告によるIWBのみに依存している(そして、IWBの評価は、同じ情報源から収集された他の変数とのみ相関がある)。

P16

IWBを自己申告したデータより、他者評価の方が望ましいという主張です。たしかに、先日の投稿でご紹介したJaved氏の2論文も、部下のIWBを上司が評価する、というペアを集めて研究を行ってました。

(ただ、その場合、上司と部下のペアをどう選ぶかという問題もありそうです。完全にランダムに選ばないと、恣意性が入りそうです、、、)


IWBの尺度(設問)内容

この研究のメインである、尺度内容に話を移します(少し統計寄りです)。

パイロット研究では、先行研究で用いられたIWBの17項目で分析しています。5項目が機会探索、4項目がアイデア創出、4項目がアイディアの支持、4項目がアイディアの適用行動を測定するものです。

17項目を使用し、81名からの回答結果をもとに統計的な分析(因子分析)を行ったところ、4因子10項目にまとまりました。
4因子自体は、過去の測定尺度と一緒で、機会探索、アイディア創出、アイディアの支持、そしてアイディアの適用です。それが、17→10項目の時にうまくまとまった、と言うことになります。

そして、この10項目で本研究でも調査を行ったところ、4因子構造が支持されました。統計的な妥当性の分析からも、IWB尺度の4因子10設問が適当であることが示されています。


感じたこと

過去の研究を丁寧にレビューするとともに、適切な尺度開発プロセスを経て作られたIWB尺度であることが、論文を読んで伝わってきます。

ただし、メンバーのIWBを上司が評価する、という点については、本文中にも記載しましたが、実際の調査においてはハードルが低くありません
どのようにメンバーを選定するか。本研究では、メンバーリストを著者らが見てランダムに選んだ、とありますが、実際のところ簡単ではありません。

しかも、上司と部下が1対1対応となると、上司の数しかサンプルが取れないことになることも難しい点です。他の研究も参照しながら、うまい方法がないかをもう少し調べたい、と感じました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?