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【バウンダリースパニング】支援的コーチングは、組織の垣根を超えた行動を促進する?(Marrone et al., 2022)

コロナ以降、リモートワークや新しい働き方がどんどん職場に増えている印象ですが、こうした働き方は「個業化」を進めてしまい、組織間の壁が高くなってしまう、という印象を抱いています。

今日は、そんな組織間の壁を超える行動を、上司の支援的コーチングが促進することを示した研究を紹介します。

Marrone, J. A., Quigley, N. R., Prussia, G. E., & Dienhart, J. (2022). Can supportive coaching behaviors facilitate boundary spanning and raise job satisfaction? An indirect-effects model. Journal of Management, 48(5), 1131-1159.


どんな論文?

この論文は、上司の支援的コーチングが、部下の組織の垣根を超える行動、いわゆるバウンダリースパニングを促進するメカニズムを示したものです。

上司の支援的コーチングを受けると、部下はバウンダリースパニングを行うことへの自信(自己効力感)を高め、その結果として、バウンダリースパニング行動を起こすという経路が示されました。
さらに、バウンダリースパニング行動を行うことで、部下は職務への満足感を抱くようになる、ということも統計的に示されています。

なぜ、バウンダリースパニング行動を取ると、職務満足が高まるのでしょうか?
著者らは、過去の先行研究を以下のように引用しています。要するに、職場外のステークホルダーからリソースを得ることで、タスクを効果的に進められるため、職務満足につながる、とのこと。

チームメンバーは、バウンダリースパニング行動を通じて 、チームの顧客や外部のサプライヤーとの関係を構築・管理し、組織内の相互に依存し合う作業チームとの取り組みを調整し、外部のサブジェクト関連の専門家からフィードバックやリソースを求めることで、チーム内および複数のチームにまたがる作業タスクを効果的かつ効率的に遂行することができる(Ancona & Caldwell, 1992)。

今回のモデル図は以下の通りです。

P1147


上司の支援的コーチングが、部下の自信を高める

上司の支援的コーチングが、部下のバウンダリースパニングに対する自信を高める、という点についても補足します。

1.上司の支援が、部下の自信を深める

著者らによると、個人の自分自身に対する期待は、リーダーの期待に大きく影響されるそうです。メンバーは、上司の支援的なコーチングによる肯定的な期待を理解し、自己効力感を抱くようです。

コーチングを受けると、頑張ろう!やれそう!という気持ちになる、という感じでしょうか。

2.上司の言語的説得が、部下の自信を深める

これは、Banduraという学者が提唱した「社会的学習理論」に基づく考え方です。自信はどのように育まれるのかというと、

  • 何かを達成した経験

  • 他の方が成功した経験を見たり知ったりすること(代理経験)、

  • 健康でやる気があること

  • 言葉で「やればできる!」と励まされたりすること(言語的説得)

と言われます。

こうした理論に基づくと、支援的コーチングを通して、上司の言葉や期待を踏まえて、自信が高まるということが想定され、「職場のために、職場外の有用な情報を取りに垣根を越えてこよう。やればできる!」と思えるだろう、とのこと。

感じたこと

たしかに、上司の支援⇒自信⇒バウンダリースパニング、というメカニズムは実際にありそうです。

この文献では、バウンダリースパニングは役割ストレスにつながると指摘されている過去の先行研究を参照し、上司の支援的コーチングが、こうしたストレスの緩和につながり、その結果、職場外への行動という、ちょっと大変な取り組みも行うといった解釈を呈しています。

ただ、上司の支援的コーチングは、バウンダリースパニングのみならず、色々なことに有効そうな気がしてしまい、なぜバウンダリースパニングなのか、という点は少し説明が弱いようにも思えました。

上司の支援⇒部下のストレスの緩和⇒行動変容/組織成果、という流れは、さまざまな研究でも使われているロジックです。一方で、上司と部下の関係のみならず、職場には同僚との関係という変数もあるので、職場要因の影響なども知りたいところです。

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