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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがジョブクラフティングに有効②(森永, 2023)

前回に引き続き、森永先生の通称「黒本」を解説します。2回目の今回は、インクルーシブ・リーダーシップがジョブクラフティングに有効、という研究を2本ご紹介します。

前回の投稿はこちらです。



人事施策とILが、JCに与える影響(第6章)

本章では、人事施策とILが、JCに与える影響を定量的に調査した結果が紹介されています。人事施策は、以下の2点が分析に用いられています。

  • ケアに関する人事施策:従業員の多様性に配慮したり、健康に配慮したりする人事施策。(高業績HRMシステムの施策群に含まれることは少ないが、サービス業などに注目する一部の研究で使用される)

  • 訓練に関する人事施策:従業員の能力を伸ばすための訓練

こうした人事施策やIL、そして、IL⇒JCをつなぐ概念として心理的安全性を用いて、以下のような仮説を想定して調査・分析を行いました。結果と合わせて以下に記載します。

1.訓練に関する人事施策 ⇒ 接近型JC (支持)
2.ケアに関する人事施策 ⇒ 回避型JC (支持)
3.ケアに関する人事施策 ⇒ 接近型JC (間接的に支持)
4.IL ⇒ 回避型JC (支持されず)
5.IL ⇒ 心理的安全性 ⇒ 接近型JC (支持)

※前回投稿で説明した通り、接近型JCと回避型JCは、資源ベース型JCの3つの次元を2つに分類したもので、以下のように整理されます

  • 接近型JC:①仕事の資源を高める、②挑戦をもたらす仕事の要求度を高める

  • 回避型JC:③障害となる仕事の要求度を低める

※3の間接的に支持、というのは、心理的安全性を介した間接的な関連性が有意だったことを指します

また、今回の分析では、人事施策とILによる組み合わせ(交互作用)の効果は見られなかったとのこと。つまり、2つは異なる観点で独立して作用すると解釈されます。

言い換えると、片方が片方を補完する、という感じではないため、両方しっかり行うことが大切、と言えそうです。

ILのJCに与える影響が「日」レベルでどう変わる?(第7章)

次に、7章に記載されている研究です。

簡単に言えば、インクルーシブ・リーダーシップが、ポジティブ感情を通して回避型JCと接近型JCにどのような影響を与えるか、というものです。

以下の画像が分析モデルです。こうしたモデル図があると大変わかりやすいですね。こうした図表が多いのも、本書のわかりやすさを支える一要因だと感じます。

図には、上側に「人」レベル、下側に「日」レベルと書かれています。つまり、一人ひとり、日によって個人内においても変動がある、という予想のもとに、日誌法調査という手法を用いてデータを取得し、2つのレベルにおけるマルチレベル分析を行っています。(日誌法については後述)

結果、IL ⇒ ポジティブ感情 ⇒ 回避型JC 以外のパスは有意性が認められました。つまり、

同じ日のうちに、上司がILを取っていたと従業員が認識することと、ポジティブ感情を強く感じたという認識は、仕事を挑戦的にしようとするJCや資源を獲得しようとするJCを行ったという認識(接近型JCの認識)と関連する

ということが示されました。ただ、ILから接近型JCの直接のパスも有意だったため、ポジティブ感情以外の経路も考えられる、とのこと。

日誌法とは

簡単に言えば、ある一定期間、毎日質問に応えてもらう調査法を指します。本研究では、ある企業の従業員102名に、5営業日にわたって毎日回答してもらった結果をもとに分析が行われました。

「業務日誌」の語感から、最初、回答者に毎日何かを書き記してもらい、それを分析するものと思っていました。
(ちょうどこの春にも、新入社員に業務日誌をつけてもらっていたこともあり・・・バイアスですね)

そして、日誌法では、日をまたいだ影響を検討するために、2時点以上の間の分析も推奨されております。つまり、1日目と2日目、1日目と3日目でどう変わるか、ということです。

ただ、この日誌法、曜日によっても影響が出る可能性が指摘されているようです。確かに、月曜と金曜では結果が違いそうな印象はあります。


感じたこと

この2つの、IL⇒JCという研究から、JCを高め、やりがいを引き出すリーダーシップとしてのILの有効性が随分と明らかになったと感じました。

また、日誌法という分析方法は、研究者としても相当ハードルが高い(そのような調査に付き合ってくれる企業を探すのが大変)ので貴重です。さらに、日ごとに異なるILの影響と、人ごとのILの影響を分離したマルチレベル構造方程式モデリングを行った研究としても、大変参考になります。

個人的にはILに関心が強いのですが、この書籍を通じて、JCを深く理解することにもつながりました。学術書にも関わらず読みやすいのは、著者の言葉遣いやわかりやすい表現の賜物だと感じます。「むずかしいことをわかりやすく伝える」ことの難しさ・・・精進します。

ちなみに、JC周りについては、研究室でご一緒している塩川さんのNoteに大変わかりやすく纏められています!


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