【リーダーシップ】リーダーになる前後で、パーソナリティは変化するのか?(Asselmann et al., 2023)
今回の研究は、リーダーのパーソナリティに関する最新の研究です。リーダーになる前と後で、パーソナリティはどう違うのか、変化するのか、という点に着目しています。
どんな論文?
この研究は、以下のような問いから出発しています。
リーダーは非リーダーとパーソナリティが異なると言われるが、これらの違いはいつ生じるのか?
リーダーは「生まれながらにしてリーダー」なのか、それともリーダーシップの役割に備えるため、またはリーダーシップの経験によってパーソナリティが変わるのか?
こうした問いに応えるべく、著者らは10年間分のデータを用いて縦断調査を行っています。ドイツの大規模なデータベース「社会経済パネル調査(SOEP)」を用いて、リーダーになる前と後のパーソナリティの変化を見るために、リーダー(2683人)と非リーダー(33,663人)のグループを比較しています。
パーソナリティの変化は、「ビッグファイブ」と呼ばれる5つの主要な特性(外向性、開放性、情緒安定性、誠実性、協調性)や、自己コントロール感、自尊心、リスクを取る意欲、他者への信頼などを含めて調査されています。
分析のために、これらのデータを「縦断的」に(長期間にわたって)追跡し、リーダーになる前5年間とリーダーになった後5年間のパーソナリティの変化を調べているのが、この研究の凄さです。
(統計的にも分析が結構大変そう・・・)
特に、リーダーになる前の準備期間(「アンティシペーション効果」)と、リーダーになった後の適応期間(「ソーシャライゼーション効果」)に注目しました。これらの効果は後述します。
結果として、リーダー候補者は非リーダーに比べて、外向性、開放性、情緒安定性、誠実性が高く、リスクを取る意欲が強く、他者を信頼する傾向があることが分かりました。
また、リーダーになる過程でこれらの特性がさらに強まり、リーダーになった後には一部の特性が変化することも示されています。
アンティシペーション効果とソーシャライゼーション効果
1.アンティシペーション効果
アンティシペーション効果とは、「リーダーになる前の準備期間に見られるパーソナリティの変化」を指します。具体的には、
リーダー候補者がリーダーシップの役割に就く前に、自分の新しい役割に備えて行動や心構えを変えること
です。この研究では、リーダーになる前の5年間に、リーダー候補者が徐々に外向的になり、開放性が高まり、リスクを取る意欲が強くなり、自己コントロール感が増すという変化が見られました。つまり、リーダーシップを取るための準備段階で、これらの特性が強化されているとのことです。
2.ソーシャライゼーション効果
ソーシャライゼーション効果とは、リーダーになった後の適応期間に見られるパーソナリティの変化を指します。具体的には、
リーダーとしての役割や責任を果たしていく中で、新しい役割に適応するためにパーソナリティが変わること
です。この研究では、リーダーになった後の5年間に、リーダーが徐々に外向性やリスクを取る意欲が減少し、誠実性も低下する一方で、自尊心が向上するという変化が見られました。つまり、リーダーシップの経験を積むことで、新しい環境や役割に適応しながら、パーソナリティが変化する、と解釈できます。
このように、アンティシペーション効果はリーダーになる前の準備段階での変化を、ソーシャライゼーション効果はリーダーになった後の適応段階での変化をそれぞれ示しています。
リーダーになる前後でのパーソナリティの変化
今回の研究で示された最もわかりやすい図が以下です。
X軸(Years relative to becoming a leader)の0地点の左が「リーダーになる前」、右側が「リーダーになった後」です。縦軸は各種パーソナリティを指しており、(a)~(f)まで、それぞれの変化を図で示しています。
以下に各グラフを説明します。
(a) Openness(開放性)
リーダーになる前の5年間で開放性が徐々に増加しています(アンティシペーション効果)。リーダーになった直後から開放性は若干低下するものの、全体的には高いまま維持されています。
(b) Conscientiousness(誠実性)
リーダーになる前にはほとんど変化がありませんが、リーダーになった後、誠実性は徐々に減少しています(ソーシャライゼーション効果)。
(c) Extraversion(外向性)
リーダーになる前の5年間で外向性が増加していますが、リーダーになった直後から外向性は低下しています。この結果は、リーダーシップに対する準備期間中の外向性の強化と、リーダーとしての役割に就いた後の変化を示しています。
(d) Perceived control(コントロール感)
リーダーになる前の5年間でコントロール感が増加し、リーダーになった後も高いまま維持されています。これは、リーダーになるために必要な準備とその後の役割におけるコントロール感の重要性を示しています。
(e) Self-esteem(自尊心)
リーダーになる前から自尊心は徐々に増加し、リーダーになった後もその傾向が続いています。これは、リーダーシップ経験が自尊心を高めることを示しています。
(f) Risk willingness(リスクを取る意欲)
リーダーになる前の5年間でリスクを取る意欲が増加し、リーダーになった後には減少するものの、依然として高いままです。これは、リーダーになるためにリスクを取る意欲が重要であり、リーダーとしての役割に就いた後には慎重になることを示しています。
これらのグラフは、リーダーシップの準備期間と適応期間におけるパーソナリティの変化を視覚的に示しており、リーダーになる過程でどのような特性が強化され、どのように変化するかを理解するのに役立ちそうです。
感じたこと
特性は変化しにくいもの(後天的に育成しにくい)といった論調は結構耳にするのですが、この研究結果は、リーダーになる前後でパーソナリティが変化しうることを視覚的に示した点に価値があると思います。
先日の出張でも、シンガポールのHR担当者が「Nurture(養育) or Nature(自然・生まれつき)」といった会話をしており、前者は後天的に開発可能、後者は後天的に開発困難(だから、採用や選抜が解決策になる)という議論をしていました。
今回の研究で示された、Natureに近い「特性」も、リーダーになるといった環境や経験の影響で変化しうる、という点は、我々人材開発担当者にはとても心強い(まだまだやれることがある!)ものでした。
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