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プリミティブで美しいインドの民族絵画 | ミティラー画 | #002



1. ミティラー画って何?

ミティラー画の起源は古代にまで遡ります。ミティラー画とは、北インドのビハール州北部からネパールの一部に広がるミティラー地方に、3000年にわたり母から娘へと壁画として伝承されている民族絵画。海外では「マドゥバニ・ペインティング」とも言われています。

古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」の物語の中で主人公のラーマが、ジャナクプル出身のシータと結婚し、彼らの婚礼を祝うために家の土壁に絵を描いたのがミティラアートのはじまりだと言われています。

家々の漆喰の壁に描くという形でお披露目されていたものですが、壁画を描く機会は大きく5つあります。
1)子供の成人 2)家族の神殿の完成や改造 3)祝祭 4)新郎新婦が結ばれる第一結婚式  5)実際に結婚生活に入る第二結婚式 と言われています。

そして、1934年ビハール州を襲った地震の被災状況の調査に訪れたイギリスの行政官W.G.アーチャーによってその見事な壁画を紹介されました。さらに、60年代の後半には、故インディラ・ガンジー首相のブレーンであったププル・ジャヤカール女史が、この地域の女性の自立のために伝統壁画を紙に描くことを奨励したことから、欧米諸国にも広く知られることとなりました。

ビハール州の位置と昔の村の様子

2. ミティラー画の主なテーマ

テーマの多くは、インドの信仰されているヒンドゥー教のモチーフや自然、動物が一般的に描がかれます。ヒンドゥー教の神々である、クリシュナとラーダ、シヴァとパールヴァティー、ヴィシュヌとラクシュミ、ラーマとスィータなどが描かれる。象の神様のガネーシャ、ドゥルガー、カーリーなども描かれています。
さらに象徴的な自然のモチーフとして、蓮の花の輪、亀、魚、太陽と月、花咲く木、象、牛などが中心に展開され、幾何学模様のモチーフも配置され彩られます。儀礼と関連した紋様が描かれ、祈りが込められているのです。

3. ミティラー画の表現スタイル

二次元の平面的な細密画。余白がなくなるよう花々や植物、鳥、幾何学模様でカラフルに埋め尽くすスタイルの絵画です。
描く材料は、色は植物から作った顔料が主で、黄土、岩を削ったものとすすなどに使われた。白は米の粉を水で溶いたものなどが使われている。
また、筆の代わりに竹を削り出した竹ペン、木の小枝に布をまきつけたもの使用しています。

細い竹を削った筆で描く

4. ミティラー画の現地アーティストたち

この地域に3000年にわたり母から娘へと壁画として伝承され、描き続けられている。絵を描くという行為は深い信仰心のあらわれで、描いている過程でさえ儀礼のひとつでもあります。
描かれたモチーフそれぞれにも祈りが込められています。信仰と生活の一環として女性たちの暮らしに深く位置付き、日常の女性の家事のひとつとされています。その後、家族や男性にも描かれるようになってきました。
ランティ村、ジトワルプール村、ラスィッドプール村など特に優れた作家を輩出している。
この記事のカバーの作品のアーティストであり、私が敬愛している故ガンガー・デービィーさんは、ラスィッドプール村の出身です。

日本にやってきたミティラー画家のシャンティ・デーヴィーさん(左)と
ボーワ・デーヴィーさん(右) 笑顔がとてもチャーミング


5. ミティラー画の厳しい社会背景

ビハール州はインドの中でも貧困層が多く居住する地域となっています。
1960年代の地震からの工業振興の一環として政府の指導のもと、土壁に描いていたものを、布や手すき紙、カンバスに描いて販売されている。女性たちの自己表現であると同時に収入源となり、自立や生活を助けています。
一方で、彼女らの「民俗のカタチ」も近代化したともいえます。
この絵に感動を覚える一方、この伝統の変貌にも考えさせられることもあるのも事実です。


6. ミティラー画の圧倒的な魅力

ミティラー画を描いている個人的な見解ですが、とてもプリミティブで、オーガニックな印象をもつ絵画です。繊細なタッチの積み重ねで、圧倒的な宇宙感を感じるエネルギーに満ち溢れている表現が魅力です。
さらにこの地域の歴史的な背景、過酷な社会情勢も見逃すわけにはいきませんが、そんなことを微塵も感じさせない力強さがあります。

故ガンガー・ディビーの作品
ナショナル・クラフツ・ミュージアムで出会ったミティラー画
スラジクンド・メラ(インド最大級の国際クラフト展)であったミティラー・アーティスト
ミティラー画の書籍たち

7. ミティラー画の影響力、あのピカソや柳宗玄も!

1930年代にミティラー画に感銘を受けたイギリスの行政官によってヨーロッパに知られるようになり、 ピカソにも影響を与えたと言われている。
日本の民藝の父と言われる柳宗悦の次男・柳宗玄(美術史家)も、70年代に著書「祈りとともにある形」の中でミティラー画の調査記録を残している。同時にカンタの刺繍、プルカリ、グジャラットの刺繍、染め布バチュエディ、ワルリー画などの民族文化にも触れている世世紀となっている。


8. 日本で唯一のミティラー画を観覧できる「ミティラー美術館」

新潟県十日町市の山の中にミティラー画を蒐集展示していミティラー美術館があります。廃校となった校舎を利用し、日本で唯一ミティラー画の常設展示をみることができます。


9. インド全土の手工芸品を見ることができるナショナル・クラフツ ・ミュージアム

デリーにあるインド全域のあらゆる民族手工芸品が集められ展示されている半屋外型の博物館。屋外には伝統的な家屋などがあったり、屋内には珍しいハンドクラフトが沢山展示や販売されていて充実しています。
作家滞在し、工芸品や織物の製作に関わるさまざまなプロセス、道具、技術を見せてくれます。

訪問したナショナル・クラフツ・ミュージアムの様子


10. Takahisa Hashimoto のアートワーク

このミティラー画の魅力に取り憑かれて、日本の東京をベースにミティラー画を描くアーティストとして活動しています。展覧会、パッケージ、書籍、広告などの活動を通じてミティラー画の魅力を伝えているので、公式サイトやインスタでアートワークを覗いてみてください。

ハシモトタカヒサのミティラー画作品たち


10.最後に

以上、ミティラー画の入口としてまとめてみました。なんだか素敵だと思いませんか?ミティラー画って?その魅力を少しでも感じていただければ幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。


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