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Lean Conference Japan 2022 Autumnレポート「フローをシンプルに捉える」

先日、弊社もゴールドスポンサーをしているLean Conference Japan 2022 Autumnに参加してきた。前回からもう半年、自分は少しでも進めているだろうか。今回のカンファレンスを通じて私が感じたテーマは「フロー」と、そのフローという「本質をシンプルに捉える」だった。

Lean Conference Japan 2022 Autumn - 自律型マネジメントへの道標

本質をシンプルに捉える

カンファレンス内でも語られたように、「TPS」の広がりが国内でも一部の製造業に留まり、「リーン」が製造業を超えて欧米で広がった理由にはコンセプト化の力がある。ここは招待講演のNiklasさんの話が解りやすかったのだが、ビジネスで求められているのは「製造業の雄であるトヨタ製」のフィロソフィーやメソドロジーではなく、「自分たちの問題を解決してくれる何か」だ。Niklasさんが語ったLeanの本質は「フロー」と「見える化」であり、これは「ジャストインタイム」と「自働化」に比べて一段抽象度が上がっていることがわかるかと思う。

思うに、この具体と抽象の話は日本と欧米で捉え方に違いがある。ここは岩尾先生があげた例がわかりやすい。日本は食事のときに目の前の命をいただくことに対して感謝をし「いただきます」という。一方、キリスト教の宗教観では、その更に上の神に対して感謝を述べる。それに関連して私が思いついたのは、日本は八百万の神という考え方でアニミズム的な側面が強く、あらゆるものに神や霊魂が宿ると考えるが、キリスト教ユダヤ教イスラム教はどれも一神教で唯一神により天地創造がなされたと考える。これも具体と抽象の話に近い。

そのような背景が直接的な理由なのかはともかく、欧米は抽象化とコンセプト化の能力が高く、日本は具体化と実践の能力が高い傾向があるというのが岩尾先生の主張にもあった。これは良い悪いのではなく、どちらも必要な能力だ。日本では「その話は抽象的でよくわからない」というフレーズをよく目にすることからも、具体性が大事にされがちだ。よく事例がほしいと言われるのもその傾向の現れだろう。だが、具体性が高いことは個別最適の結果だ。大切なのはその事例という具体から他へ適用可能な抽象的な概念への昇華、つまりはコンセプト化ができることだ。それをせずに、事例だけ集めて「この方法はうちでは出来ないね」は具体しか見ていないが故にそこで止まってしまう。

Niklasさんの著書This is Leanを参考に再構成した抽象と具体のツリー

この、コンセプト化とは簡単に言えば「物事の本質をシンプルに捉える」という話だと言える。アジャイルマニフェストやモダンアジャイルはまさしくこの抽象化・コンセプト化の先で生まれたものだ。だから私は4つの原則にまで磨き抜かれたモダンアジャイルに惹かれているのだなと改めて気づいた。抽象である原則を同じくして、その具体である実装をそれぞれの組織やチームで考えていく。この具体と抽象の間を行ったり来たりしながらそれぞれを洗練させていくプロセスが人の思考力や組織力を向上させるのだと思う。私がモダンアジャイルをベースに考えたワークショップはその1つの方法だったと、今にすればしっくりくる。

具体と抽象のサイクル

ここで再び気づいたのは、このサイクルは「ふりかえりとむきなおり」の関係に他ならないことだ。ここでもアジャイルの考え方とのリンクが生まれる。ふりかえりの元、抽象的な目標や課題の元で具体的なアクションを出し、具体的なアクションを実施してそれが抽象的な目標にどう影響を与えるかを見ていくその流れそのものだった。しかし、リーンはアジャイルと決定的に違うことが一つある。

フローから始める

それが、フローの存在だ。フローはカイゼンの指標としてリーンにおいて紛れもなくロゼッタストーンとなっている。バリューストリームのフロー効率を改善することこそがリーンの第一原則で、第二原則ともいえる「見える化」すらもそのフロー効率のカイゼンを支えるものといえる。ここはおそらく、アジャイルというかスクラムをやっているだけではたどり着きづらい考え方かもしれない。スクラムにおけるサイクルは1か月以内、1週間スプリント2週間スプリントが採用されることが多く、それがそのままフローの限界点として設定されてしまう(それでもシーケンシャルな開発に比べて早いが)。

トヨタコネクティッドの藤原さんが言っていた「今日やったことを今日チェックできるのか?」という話が突き刺さった。レトロスペクティブやレビューをスプリントのイベントだけに頼ってしまうと、日々のレトロスペクティブやレビューの機会を逸してしまうパターンがある。これは正しく「透明性と検査と適応」という抽象的なコンセプトを理解せず、「レトロスペクティブとレビュー」とう具体的なプロセスにしか目が向いていない状態だ。

話が少しそれたが「フローをカイゼンする」というリーンの原則は、それを実現するにあたってバリューストリーム全体に自然と目が向く。すると、全体のリードタイムに対する意識が生まれ、個別最適化されサイロ化した部署をまたいだ活動をしなければならないと気づくことが出来るはずだ。最初はその部署ごとの境界線を超えることにハードルはあるかもしれないが、やがてそこを越境していかないことにはどうにもならないことに誰かが気づく。

バリューストリームの一例:シンプルでもどこに手をいれるべきか話し合う土台になる

あとは、どうやってこの「フロー」を自組織で具体化するかだ。プロダクトを持っている場合はわかりやすい。私のいるSIerはどうか?顧客と一緒に開発をしている時は良いかもしれないが、アジャイルコーチのフローとは?管理職のフローとは、人事や採用のフローとはなんだろうか?このフローに対する理解を関係者間で揃えるのには、やはりバリューストリームを書くことから始めるべし、ということに立ち戻ることができた。共通理解を作るために一人で書いてみんなに見せてもいいし、みんなで書けるともっといい。

共通理解で人と人とを繋ぐ

リーンとアジャイルは地続きだ。そこに分断はない。分断があるとすれば、人の理解がそれぞれを具体的な別個のものとして扱ってしまっていることだけだ。すでにアジャイルのコミュニティでもフロー効率の話を聞いたり、今回のLean Conferenceでアジャイルの話題が出たりと、すでに繋がっている人はたくさんいる。あとはそれをどうやってより多くの人との共通理解にしていけるかがカギだ。そのためには自分も抽象化コンセプト化の力を磨き、それを具体に落としていく行動を取る他無い。知行合一は私がリーンを学んでから知った言葉だが、今の私の指針でもある。その言葉にふさわしい人間になっていきたい。

追補:共に学ぶコミュニティにいるということ

最後のネットワーキングセッションに入る直前の休憩で、高木先生から油断していた私を名指し頂くというアシストをもらってNiklasさんへの質問をすることができた。結果的にその質問が呼び水のようになって、登壇者の皆様の学び多いお話を聞くことができたし、何より私も話をしたりカメラONにしたりで最後の最後でカンファレンスに参加できたという感覚が得られた。

Zoomでのコメントも、最初どういうこと書こうかなーと悩んでいる内に、他の方々が学びや想いを共有するコメントを書いてくださった。それも同じように呼び水となり、私も「間違っても良いから色々書いてみるか」という気になれた。こういうファーストペンギンに自らなったり、あるいは誰かがそうなるよう後押しをしたりすることは大きな価値があるだけでなく、勇気や優しさすらも感じられる。前回も常務からの後押しがあった。自分も同じことが周りにできたらなと思う。

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Takahiro Ito
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