2022年ベストアルバムとベストアクト
●アルバム
●宇多田ヒカル『BADモード』
最高でしたね。朝起きてしんどいときは必ずA面に針を落として1曲め「BADモード」をかけるという、自分にとって白湯のようなアルバムでした。飲んで帰ってきてからなんとなく家で物思いに耽りたいときはB面に変えて「気分じゃないの (Not In The Mood)」にまみれたりと、LP版の構成が生活にぴたっとハマり、人生を通して日常に欠かせぬ1枚になった気がします。
あと配達がめっちゃ遅くなってもいいからLPをしっかり予約生産し続けたソニーにまじ感謝。山下達郎もぜひそうしてほしい。
●Wet Leg『Wet Leg』
いまUKロックで大御所や音楽メディアで絶賛されまくっている女性二人組ロックバンド。ヴェルヴェッツみたいなガレージ―なロックサウンドもあれば、サブウェイズやフランツみたいな踊れるポップ・ロックもあり、総じてリフのメロディセンスが抜群で、11月後半から駆け込むよにドはまりしていました。2月の来日楽しみすぎる。
●Lawra day romance『roman candles|憧憬蝋燭』
早稲田卒の男女ツインボーカルバンドの2枚目となるフルアルバム。女性ボーカルのアンニュイな歌い方&キャッチーなメロディに、USインディーズみたいなバンドサウンドがめちゃくちゃツボでした。アコギの鳴りとウィスパーな歌声に、コロナ禍の閉塞感のなか自宅周辺に宝石を見つけるような静かなきらめきがあって、2020年~2022年の邦インディーズの金字塔になるんじゃないないかと勝手に期待しています。
●羊文学『our hope』
バンド2枚目となるメジャーフルアルバム。こんなに現代社会の苦悩をマイノリティからマジョリティまで共感できる言葉で汲み取りつつ、希望を歌ってくれる日本のバンドがいるってだけでありがたいのに、世界に誇れるサウンドまで鳴らしているって本当に奇跡ですね。インディーズ時代からの透明感をそのままに、歌の展開からドラミングまでさらなるポップネスを獲得していて最高のアルバムでした。もう鳴ってる音が全部心地よくって大好きです。
●black midi『Hellfire』
サックスとリードギターの超速連弾がもう焦燥感はんぱなく、ヒリつきたいときに聴きまくってました。テクニカルで前衛的なんだけど、3曲目「Welcome to Hell」のような王道ロックサウンドも抜群によく、自分みたいな大衆にも届く基礎やらポップネスを備えているのがこのバンドの魅力なんだとおもう。12月の来日公演みたかったな・・・。
●OMSB『ALONE』
神奈川のヒップホップユニットSIMI LABのOMSBによる、7年ぶりかつ3枚目となるソロアルバム。普段全然ラップは聴かないんですが、近所の仲よしの本屋「バックパックブックス」さんがつくった旅をテーマとするZINEのお手伝いをした際、店主による本作のレビューが気になって年末に聴いたところドはまりしてしまっている。トラックがいいだけでなく、その半生で疎外感を抱いてはヒップホップに還元し続けきた者が、「結婚」という大衆と同じ選択に行き着いたことへの焦燥感、そしてそれを飛び越える幸福感を率直かつ巧みにリリックに綴っていて、未来への不安も尽きないなか同棲生活を始めた自分に強く突き刺さった。
●シングル
・soraya『BAKU』
めちゃくちゃ癒やされた。NHKみんなのうたに出てきても遜色ないかわいい声質とメロディーセンスをすでにもっているので、今後の新曲たのしみです。
・むぎ(猫)『秋のU.F.O』
この猫、本当にたくさんの引き出し持っているんだなと驚いたし、「天国帰りの猫」というキャラクター抜きに万人が楽しめる&新しさもあるダンスポップソングで、むぎちゃんの音楽家としてのセンスに打たれました。
●ライブ
2022年はたぶんフェス内の細かいのもあわせると30、40本くらいライブみたと思う。NUMBER GIRLは解散ライブのチケットとれなかったのが本当に悔しかったけど、前年の暮れにお台場でみたライブが最高だったので、あの突き刺すバンドサウンドを人生で一度体感できただけでも十分幸せだと思う。
●山下達郎@NHKホール
ここ3年ほど山下達郎を聴きまくっており、うれしいことに新アルバム発売&ツアーとなったので、初めてライブに行ってきたがすごすぎた。自分の中では2013年ポールマッカートニー@東京ドームと2014年アークティックモンキーズ@サマソニと2017年The XX@フジロックに並ぶ、ホールやスタジアム級ライブのベストアクトの1つに入ってしまった。
ギターのカッティングはさることながら、70歳なのに生歌唱が70年代の音源よりもいいってどういうことなんだ。サポートバンドの演奏力も一級品で、特に「PAPER DOLL」の間奏で鍵盤2人とサックスとリードギターで見せたセッション、からの達郎のギターへの流れは本当に贅沢な演奏時間だった。あとMCのユーモアさ、3階席の後方まで何度も声をかけ続けるサービス精神。音楽でメシを食べることへの責任感、プロフェッショナル精神を感じた。
彼が生きているうちに何度も何度もみたいです。
●Squid@サマソニ東京
2015年結成のUK5人組バンド。この日一番の目当てはThe 1975だったはずなのにソニックステージで見た彼らに完全にもってかれた。ギターロックでここまでの焦燥感って出せるんだ。ナンバガが解散してしまっても、20代にこういうヒリつくギターロックをするバンドが世界にいるっていう事実はもっと知られていい気がする。単独来日するか、ZAZEN BOYSと対バンしてほしい。
●Big Thief@恵比寿ガーデンプレイス
コロナ禍でなんどもなんども延期になって、ようやく観れたBig Theif。ここまでアコギから静謐と激情をどちらも最高レベルで表現するシンガーソングライターって出会ったことがなく、彼女らのライブを恒常的に見られるアメリカをめっちゃうらやましく思った。あとドラムが音数少ないかすかなスネア音でも非常に心地よく響かせるタイプで、まじツボで早くももう一度生音を聴きたくなっている。LPでライブ盤だしてくれー。
●カクバリズム20周年@立川ステージガーデン
カクバリズムが5年刻みにおこなっているレーベル周年イベント。うれしいことに10周年、15周年に続けて3回連続で観ることができた。
ceroとかVIDEOMUSICとかデビュー時からよかった同年代の音楽家が、さらなる成熟を見せてくれるのって本当に幸せなことだし、コロナ禍で愛聴していたMasatomo Yoshizawa&XTALの生演奏を浴びれたのもよかった。二階堂和美さんの歌唱は霊的な何かを感じてしまうほど美しく、今回もとにかく大満足な一日でした。
片想いの新曲が最高だったんで早くリリースしてほしい。最後に玉置浩二の田園をやって、サビで観客が拳つきあげまくっていたのめっちゃ笑った。
●荒内佑@渋谷Club QUATTRO
ceroのキーボードの荒内さんのソロ活動。2020年の1st『Sisei』がコロナのお篭もり生活で聴く室内楽として傑作だったのでレコ発ライブをずっとたのしみにしていたけど、度重なる緊急事態宣言で延期の末にようやく観ることができた。
荒内さんがサンプラーとキーボード、そこに4人のストリングス、サックス、キーボード、ウッドベース、ドラム、ゲストボーカルを迎える10人編成で、曲順を再構築しながらアルバムをまるっと演奏。あんなにタイミングの取りづらい楽曲群を生演奏でやりきったこと、そして奏者を荒内さんがサンプラーいじりながら指揮していた技量に圧倒された。チケット5000円代ではあまりに安すぎるパフォーマンスだった。最後にアンコールで披露した、チェロ奏者ARTHUR RUSSELLの「How We Walk on the Moon」カバーももう最高で、2022年に彼を聴きまくるきっかけとなった。
●夏目智之@渋谷O-nest
2020年にシャムキャッツが解散してしまい、最後に出したベストアルバムのLPを繰り返し聴き続けた結果、シャムキャッツの楽曲をライブで聴きたいのに観れないジレンマに悩まされる日々が続いた。
そんななか夏目さんが2022年に「けじめ」シリーズと称して弾き語りツアーを敢行。お気に入りの曲を本人の歌で聴けるのが嬉しいだけでなく、夏目さんのアコギの弾きっぷりがすごくツボというか、カッテイング次第でアコギはエレキっぽい音をここまで出せるんだ、というこの楽器の幅広さを教えてもらった。
あと一人だからかシャムキャッツ時代以上に気のむくままお客さんに絡んでくる自由さ、気さくなところがとってもよく、50人~100人規模の箱で客席と一緒にライブ空間を手作りしていく感覚がとても楽しかった。その日のライブ音源をMP3形式でダウンロードできるQRコードつきキーホルダーを毎回手売りしているのも、令和のインディーズ音楽家の活動スタイルとして良いアイデアだと思った。
来年はすでにチケット確保済みのWet Legが楽しみなのと、世界一好きなバンドであるアークティック・モンキーズ、約9年ぶりとなる来日公演は絶対に観たい。1月に出るバスクのスポーツの新アルバムも心待ちにしてます。