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「関西大学 feat. タムロン」という野心(「写真業界」と「アカデミズム」を結びつける試みについて)

2020年は色々と新しい試みをやるつもりなんですが、まずは第一弾。

関西大学 feat. タムロン!

これはアツいっすよ。僕が溝口准教授と一緒に担当している「フォトグラフィー実習」の学生たちに、2週間、タムロンのレンズを使ってもらい、さらに学生目線、若者目線でレビューまで書かせようという試み。

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どこの大学でも、こんな取り組みは日本国内ではやってないはず。もちろん、写真系の学校ではこういうこともあったかもしれないけど、四年制の芸術系ではない大学、しかも「撮る」だけではなくて、「考える」や「書く」までも射程にいれて、「21世紀に写真を撮ることの意義とはなんなのか」までを視野にいれたアカデミズムの現場に、ガチのカメラ・レンズの会社をぶっこむという試み。ほとんど勢いだけで走ってる企画なんだけど、とにかく一度も前例がなさそうで、そしておもろそうでしょ!何が出てくるかわかんない!

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もちろん、こんな無茶苦茶な発案を、即答で快く受けてくれたタムロンさんがすごい。最近タムロンって、めっちゃいいレンズを作ってるんです。僕のこの辺りのレビューを見てくださいな。

この2つのレビューで繰り返し書いているのは、「軽量」というキーワード。元々タムロンという会社のレンズは、コスパがいいということでは昔から定評があったんですわ。でも最近そこに、圧倒的な「質の向上」が加わってきた。しかもそれは「軽量」でもあるんです。

これね、実は21世紀のカメラの方向性の決定的な一側面なんですよ。カメラが「モノ」の重厚さを捨てる過程にあって、高性能なものをできる限り軽くってのが、21世紀において進んでる方向性で、それをまずボディで形にしたのがソニーのミラーレスだった。で、そのソニーの発想・思想を、レンズ方向で最も真正面から受け止め、しかも元々の「コスパの良さ」を維持したままで、質だけをグリグリと上げてきたのが、この数年のタムロンなんですわな。その結果何が起こったか、みなさんも知ってると思うけど、めちゃくちゃ売れまくったわけです。

つまり、業界内における革新的な挑戦をタムロンは現在やってる真っ最中なんです。2019年末にだした3つのおもしろい単焦点も素晴らしいレンズでしたし、春先に発売予定の70-180/f2.8も、おそらくバカ売れすることでしょう。タムロンの快進撃は2020年も続くはずです。

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で、そういうイケイケのタムロンなんで、やっぱり見えてるんですね。何が見えているか、それは「若い人に自分たちの製品を触らせることの意味」ってやつですよ。その先見は圧倒的に正しい。未来は僕らみたいなおっさんではなく、彼ら若者だけが握っているものであって、そこを見据えない限り未来はないんですわ。

で、学生たちって、今、めちゃくちゃカメラ好きなんですよ。みんな中学高校くらいのときからスマホでバシバシ写真撮ってる。若い人は基本的に僕らより「カメラリテラシー」の高い若者時代を過ごしてるんです、ほぼ例外なく。そういう時期を過ごした後、バイトが自由にできる大学生になった時、みんなわりと「カメラ欲しい」ってなるんですね。でもまだまだ金がない、金がないけどいいカメラいいレンズ欲しい、、、

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っていう、すごく強烈な欲望を抱えた「次の有力な購買層」である学生が、働き始めて金をゲットする直前に彼らに接触することの意味!それは、「未来のファン」を作るってことです。それはたかだか20人程度に触らせるだけって思っちゃだめですよ。一人がファンになってその良さを伝えれば、今のこのSNS世界ではその愛情は何十倍の規模で拡散するんですから。タムロンさんにとって、これは単なる慈善事業ではなく、未来への布石になるわけです。っていうか、そうしてみせます。

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一方、我々大学側の人間の思惑としては、彼らに「21世紀に写真を撮ることの意味」を考えて欲しいというのがあるわけです。その過程において、すごく大事なことの一つは、「可能な限り最高の体験をさせてやること」なわけです。

その一環として、実は今年の春には、ヒーコ代表の黒田明臣氏を呼んで、授業で話してもらうという機会を設けました。

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あきりんって、多分今カメラ業界で最も忙しい人物の一人です。そしておそらくは、これからのカメラ業界を先頭で引っ張っていく最重要人物。その彼の写真に対する姿勢だったり、実際どうやって撮ってるのかを間近で見られるって、そんな機会は普通の学生にはなかなか与えられないものなんですね。そして当たり前ですが、彼を呼ぶことができるような大学もほとんど無いはずです。それをこの授業ではできる。

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その効果たるややはり絶大で、あきりんの講義を受ける前と後では、学生たちの写真に対する意識は180度くらい変わっちゃうくらい、彼らに強烈な視野を植え付けることができました。あきりんの持つ最高峰のプロフェッショナルとしての写真への意識の高さを直接見ることは、単に「写真」という領域を超えた、今後の彼らの人生における成長の基盤となるような学びの機会になったと思うんです。

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こういう「本物の凄さ」をいろんな面においてさらに推し進めたいという中で、思いついたのが、タムロンさんとのコラボ企画!現在カメラ業界をレンズで引っ張りまくってる会社の最高のレンズ群に二週間触れて、本気で作品を撮るという機会を得ることで、彼らはおそらくまた1段、成長するはずなんです。見たことのないクオリティで写真が撮れたり、これまで知らなかった画角で世界を見る目が養われたり、レンズ一つで世界がガラッと変わるというのを意識させたかった。

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そして大事なことは、その感動や驚き、戸惑いや逡巡、難しさや面白さのすべてを言葉にして表現してほしかった。そうでなければ、四年制大学の課程で「学び」として取り入れる意味がないからなんです。単に触るだけなら、量販店や単発イベントに行けば触れますもんな。

ただ「良い写真」を撮ればいいってもんじゃない。写真を撮るという過程を、言葉にして表出して、分析して、フィードバックして意味を考えるところまでやって、初めて「大学で写真をやる」ってことの意味が達成されるんです。

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というわけで、関西大学のフォトグラフィー実習の学生たちは、今、タムロンさんからお借りした最新のレンズ群を携えて作品撮りをしています。彼らの作品クオリティがどれくらいのものになるのかは、僕もまだわからない。でも、彼らがもし、僕ら教員が想定しているクオリティを超えるようなものを撮ってきた時は、さらにその上の光景を見せてやりたいと思っているんですよね。

というような、ちょっとこれまで見たこと無いような企画を関西大学でやっております。てか、他の大学では絶対できないはずですぜ。

=*=

で、2020年度はこの方向性をさらに進めようと思っていて、具体的には

・今年1回しか呼べなかった写真家たちにさらに講義に来てもらう
・学生の挑戦を促すようなイベントを作っていく
・写真の未来を考える大きな講演会を開く

というようなことを考えています。この方向性を推し進めることで、最終的に「アカデミズム」と「写真業界」を結びつけるような場を、関西大学に作るという試みをやっていこうと思っているんですわ。

これまでももちろん、アカデミズムの場においては、写真やカメラの研究はなされていましたし、逆に写真業界側でも写真学校であったり専門学校において、カメラや写真の学問的側面にも触れられることはあっただろうと思います。

しかし、基本的には「研究」だけが主眼の大学において、アカデミズムとリアルな写真現場が結び付いたような例は殆どなかったはずです。だって、大学の教員でありつつ最前線で働く写真家なんていう奇妙な立ち位置の人間は、これまではほとんどなかったはずですから。

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で、溝口准教授とか僕とかは、多分その最初の具体例の一つなんですよ。もちろんこれは我々が特別な才能を持っていたからではなくて、単純に、時代がそうだっただけです。

写真がデジタル化を経由して、「外」に開かれた時、たまたま学術分野で生きていた我々がたまたまカメラを手にとった。それだけのことなんです。でも、せっかく「アカデミズム」と「写真業界」の間の道に偶然にも迷い込んだ以上は、その2つを強引にでも結びつけたいじゃないですか。蛸壺の中で血みどろの食い合いで消耗するよりは、ツボ割って、外洋のサメに怯えながらも、広い広い海を泳ぐ方が楽しいはずです。最終的にたいやきくんと同じ運命をたどるかもしれないけど、ゼロリスクにすがりついてるだけでは、なんの成長もありゃしない。誰も歩いてなかった獣道にだけ、「伝説の武器」とかが落ちてるはずなんです。

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これが我々が掲げる2020年代の夢であり野心であり、必ず達成したい目標なんです。

てことで、2020年代は、いよいよちょっとずつ走りだします。で、写真業界にもアカデミズムにもこれまでなかった面白い場所を作れるように走っていきます。その場が目指す目標を手短にまとめると、以下になります。

(1)  21世紀における写真リテラシーを「実践」と「教育・研究」の両面からアプローチすることで、写真文化の裾野をさらに広いものにしたい。
(2) 大学、写真家、企業の三者が出会う「交わりの点」を作り出したい。
(3) 写真家や企業には「教育・研究」という側面に関わることで社会的な意義を、学生たちには、写真表現の最先端に触れるとともに、その意義まで含めて学ぶ経験を積んでほしい。

えらく大きな目標ですが、目標は大きな方がいい。そしてこの目標を達成するためには、多くの写真家や写真業界関係者の協力が必要です。まだ見えていない「未開の獣道」が「約束の地」へと至る道かどうかはわかりませんが、それでも協力してくれるという人があればぜひご連絡ください。一緒に未来の一端を作りましょう、多分やりがいがあります。

とりあえず、目先の2020年度の関大の我々の授業には、世間が驚くような人たちを呼ぶ予定です。それが実現した時、また見える風景が少し変わるだろうという予感がしています。お楽しみに。

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