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2020年版テック業界の人向けニューヨーク旅行でやることリスト(ガイドブックに載っていないとこ中心)
この年末年始にニューヨークに遊びに行ったのだが、面白いなと思ったところが多かったので、おすすめの場所をまとめたリストを作ってみた。また、MoMA等、どのガイドブックにも載っているところは省いている。
個人的な偏見として、旅行は下記の2つのために行くものだと思っている。
1) 行った場所固有の学び/情報を得る
2) 普段の生活ルーチンだと遭遇しにくい概念(検索キーワード)を獲得する
このリストでは上記に合致した場所を選んでいる。僕と同じようなスタートアップやテック業界の人たちには特に刺さる部分も多いのではないかと思う。また、行きたいが日程の関係上回ることができなかった場所も少し入れている。
ニューヨークは、人口集積地であり、アートカルチャーの発信地であり、経済中心である。そのユニークな土壌の上で成り立っている実験的な試みや、特殊なビジネスモデルが随所に見られておもしろおかった。
1. VR Aero Banquet: 世界初のVRレストランで、3Dオブジェクトを食す
URL: https://vr-areo-banquets.squadup.com/
VR Aero Banquetでは、Oculus RiftというVRゴーグルを利用して、バーチャルな空間の中で3DCGオブジェクトと化した食べ物を食べることができる。視覚は虚構だが味覚は現実。VRビジネスという意味でも人間の認識に対する実験という意味でも興味深い試みだった。
VR空間内で食事をできるようにした仕組みはなかなか良く考えられている。全ての料理は一口サイズになっている。スプーンやフォークで食事をするのではなく、お皿ごともちあげて食べるようになっている。Oculusのコントローラにはちょうど円形の穴があるのだが、この穴にすっぽりハマる形で食器を自作している。
オキュラスのコントローラーを内蔵したお碗の上に、一口サイズの小さい食材をちょこんとのせて配膳することで、VR空間内でも食べ物がトラッキングできるという仕組み。これよく考えたなと思った。手もリープモーションを外付けしてトラックしているのでVR内でもそれなりに自然に食事する感をだせてる pic.twitter.com/j9lCd8gNC4
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 29, 2019
ちょっと大きめの茶碗蒸しくらいの円柱のお椀の上に、みたらし団子よりちょっと大きいサイズの食品が載っているイメージだ。LEAP Motionという手の動きをトラッキングできるセンサをHMDにアタッチすることで、手もVR空間内から視認できるようになっている。
あまり言葉で説明しても伝わらないと思うのでビデオを見てほしい。
VRレストランの食品の食べ方講座(ゴーグルを被って食べるので難易度が高い) pic.twitter.com/omBzffNk2T
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 29, 2019
視覚と聴覚が全くあてにならないからこそ、嗅覚と味覚の感覚は鋭敏になるのが面白い。何しろ自分にとってはそれはサイケデリックな何とも形容しがたい3Dオブジェクトにしか見えないのだ。なんか透明だったり動いていたりするのである。食べる環境も特殊だ、溺れながら食べたり上からいろんなものが降ってきたり空中に浮遊している中で食事をする経験が可能だ。
アーティストが中心となって数人のチーム(エンジニアチームは全部外注らしい)でやっていると聞いた。ぜひ今後も頑張ってほしい。
2. 新興ミュージアムの洗練されたUX設計を味わう
ニューヨークでは町中にミュージアムがある。例えばMoMAやメトロポリタン美術館等は有名だ。その中で、新興のミュージアムが次々に出てきているようだ。そしてそれらの新しいミュージアムは非常に洗練されたUX設計がされており驚かされた。
・Color Factory: インスタグラム女子に最適化されたミュージアムhttps://www.colorfactory.co/
完全予約制。最初にQRコードが配られ、タッチパネル端末上で自分のメールアドレスとのペアリングをする。数々のインスタ映えする展示があって、一緒に写真を取れる。すごいのは、フラッシュライトとカメラが部屋に据え付けられていて、該当のQRコードをかざすと計算されたアングルから写真を撮影してメールで送ってくれるようになっている。
展示と展示の間には展示と関連するスイーツが提供されるようになっているのも趣深い。
インスタグラマーが投獄される刑務所の面会場みたいなところに来た pic.twitter.com/JAqbdsZyHM
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 3, 2020
・Spyscape: スパイの博物館 / タッチパネル, 音声認識技術ネイティブなUX設計
https://spyscape.com/
Spyscapeには換字式暗号、エニグマ、Wikileaksや嘘発見機、各国の諜報活動事例が展示されている、、、というと普通の博物館に聞こえると思うが、全然違う。展示と同時進行で諜報エージェントとしての適正検査が行われるという大胆な構成になっている。
入館時にRFIDが渡され、博物館中に存在する円柱状のタブレット端末で系12個ほどの小タスクに挑戦する(リスク選好検査、パーソナリティ診断、IQ診断、etc…)。また、展示に関連した課題も順番に課されていく。暗号解読、証言が嘘か本当かを見破るテスト、無数の監視カメラの中から特定の人物を発見できるかのテスト、レーザーを避けつつ移動するテスト等々だ。例えば、展示で嘘発見器の歴史と、人が嘘をつくときの特徴を学習した後に、実際に人の証言ビデオを見て嘘を見抜くというテストを受けることになる。
最後に適正検査の結果として、あなたはアナリストかオペレーターか特殊部隊か、インテリジェンス機関の中でどのポジションが向いているのかをサジェストしてくれる。
ギフトショップの棚が、サジェストされた各ポジションごとに分かれているのはとても芸が細かいなと思った。「技術官のあなたには監視用ドローンをどうぞ」という強力なリコメンデーションだ。
また、途中の監視カメラチャレンジでは、音声で問題が次々に出され、それに対して客が実際に音声で発話して回答していくという形がとられている。音声認識がミュージアムでプロダクション運用されてる!と驚いてしまった。例えば、ZONE1にいる男は今何してる?-> 「本を読んでる」、ZONE2に楽器を弾いてる人は何人いる?->「4人」とかなのだが、これを本番で使っているのは偉い。
音声認識がスパイミュージアムでめっちゃ活躍してたのは印象深かったな。(スパイのミュージアムspyscapeで、「監視カメラの監視チャレンジ」があって、大量のカメラ画像から素早く特定の人物を見つけ出してどこにいるか音声で答えるというもの) pic.twitter.com/MhNpDQtB3T
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 11, 2020
上記のような新興ミュージアムの体験をした後で、昔ながらのMuseum of Moving Image(映画美術館)にも行った。30年前からあるミュージアムにしてはすごく頑張っていて、ストップモーションムービーを自分で作る体験をしたり、パペットTV番組を作る等の体験ができる普通に面白いところだった。
しかし、UX設計は真逆であり、作った動画を出口で$10とかで購入させるようになっていた。作った動画をユーザにシェアしてもらいまくる今の潮流からはすると、やり方が逆転しているのを感じた。
3. 小売店舗のビジネスモデルの多様化を感じる
単に物をメーカーから仕入れて、顧客に販売するというモデルとはちょっと違った店舗が増えてきているのを感じる。いろんな形で付加価値をつけようとしている。
showfields: D2Cブランドのキュレーション店舗
https://www.showfields.com/
d2cブランドがたくさん入っているshowfieldsというストアに行ってきた。棚貸しのshowfields labから、小部屋、大部屋の三種類の売り方がある。iPadの長文と、全ブランドに精通した店員が各ブランドのコンセプト説明をひたすらしてた。これはおもろかった。 pic.twitter.com/Ayd7q1EZIl
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 3, 2020
ShowfieldsはD2Cブランド(Direct to consumer)が何個も入っている店舗だ。「The most interesting store in the world」というコピーを掲げている(強い)。3階建の建物の中に、D2Cブランドのテナントが30程度入っている。一つ一つのブースは数人しか入ることができないほど小さいが、担当の店員がいて、それぞれのブランドやプロダクトについてきちんと説明してくれる。たぶんこの説明員の人は各ブランドが抱えている人というわけではなく、Showfields側に雇われた人なのだと思う。ちゃんと訓練されていて偉いなと思った。壁に備え付けられているiPadで商品説明を読んだり、メールアドレスを登録したり、購入したりすることができるようになっている。ブランド向けの商品ラインナップも3Fの3畳くらいのスペース、2Fの棚1つくらいのスペース、1Fの個室スペースの三段階に分けられている。
b8ta: 顧客の反応を解析してメーカーに提供する小売店
https://b8ta.com/
b8taにも行った。その名のとおり色んな企業のbeta版の製品に特化した小売店。販売だけでなく、顧客の行動履歴の分析を合わせて企業側に売るというユニークなビジネスモデル。物理kickstarterみたいな感じ。ビジネスとしてはどこまでスケール可能なのだろか。でも世界主要都市への展開は堅くいけそうね pic.twitter.com/JU6Xw2LET3
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 31, 2019
b8taは、その名の通り製品のベータテストを行いながら販売する店だ。実店舗Kickstarterのような趣きで、面白い商品が多い。各製品に対し一つずつiPadが割り当てられていて、そのiPadの上で製品説明を読んだり、動画をみたり、メアドを登録したり、製品を購入することができる(ここはshowfieldsと似ている)。そしてb8ta側はそのiPadで取得したデータを利用してGoogle Analyticsのようなダッシュボードでメーカー側にデータを提供している。さらにカメラやセンサーなどでユーザの行動データもとっているらしい。全ブランドに精通した店員から説明を受けることも可能だ。スタートアップ的にはマーケティング調査と小ロット販売の両方が可能になる。ユーザとしては新しい製品が色々その場で見て試せる。
3den(エデン): ビジネスマン向け休息スペースを偽装した実空間ネイティブアド
https://www.goto3den.com/
3denは、商業施設の中にいきなり出現するビジネスマン向けのラウンジ・休憩スペースである。中では軽食が楽しめたり、個室で仕事をしたり、ポッドの中で睡眠を取れたり、ヨガができたり、シャワーを浴びたりすることができる。アプリベースで30min$6ほどの価格で入ることができ、シャワーや睡眠ポッドの予約等もこのアプリの上で全てが行われる。
街中で3rd placeを提供する3denにも行ってきた。入場30分$6は安くていいんだけど、アップセルが結構激しい。昼寝ポッドが45分$10、軽食も幾らか取られる。仕事用個室あるのは良い。トイレもめちゃ良いが、そこでもエコなトイレットペーパー($10)をアップセルしてきて笑ったhttps://t.co/83W9vzhycJ
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 31, 2019
単なるラウンジにとどまるだけではなく、意外とモノを売っている。高級な飲み物とか、美容品とか、ヘッドホンとか、自然すぎて気づかないことも多いが地味にいろいろ展示され売られているのである。驚いたのはトイレでトイレットペーパーが売られていたことだ。
3denのめちゃ充実して広い個室トイレと、そこでさらにアップセルを試みてくるエコトイレットペーパー(reel)の図 pic.twitter.com/zmm6GJq0L3
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 31, 2019
小売店舗とは全然違う雰囲気なのだが、いつのまにか商品を宣伝され購入させられているというまるでネイティブアドのような実店舗である。
WeMRKT: コワーキングスペースx小売店舗 by Wework
https://www.wework.com/ideas/wework-debuts-wemrkt
Weworkの中に入居している企業が作っている商品を販売できるようになっているらしい。コワーキングスペースと消費者向け小売店の合体というコンセプト。しかし残念ながらこれは行けなかったのでよくわからない。
小売店舗が単純にモノを仕入れて売るだけではなく、メーカー側に対しても付加価値をつけるような動きを感じた。Amazonで無限にモノが買える中、店舗ができることはなんなのだろうということをどこも模索しているように感じた。
また、別の文脈として、売っているモノがどんどんハイコンテクストになってきているのも感じた。そもそも説明にすごく時間がかかるようになってきているのだ。Showfieldsやb8taの製品は、一見してこれのどこがユニークなのか、どう使えば良いのかわからないことも多い。店員がやってきて色々説明をしてくれて、初めてそのブランドが「ゼロ・エミッションでモノを作ることにこだわっていて、売り上げのxx%が寄付されて、、、、」みたいな情報を知ることができる。
モノに付随する情報量が増えているために、それをどのように顧客に伝えるかということが課題になってきたのではないか。showfieldsやb8taからは、そういう付随する情報量の多い製品をどう売るかという文脈でのチャレンジも含まれている気がする。
さらに別の文脈でいうと、D2CブランドのキュレーションをしているShowfieldsは、冷めた目線からいえばNYのSOHO地区に出店する権利を、棚レベルまで細切れにして、より資本力の少ない企業(=新興D2C)に割高で売ることに成功しているだけ、という見方もできる気がする。店舗を構えると月額数百万かかるところを期間限定で月額百万弱で実現できる。スタートアップ側としてはリスクを抑えることができる。
4. 体験型小売店舗群を見てモノを売る大変さに胸を打たれる
新しいビジネスモデルにトライしている小売店舗が出てきている一方、メーカー直営店側はビジネスごと変化するのではなく、「来店してもらう理由を作る」、という別の方向で模索を続けているようだ。「何かを店舗で客に体験させる機能」を併設するような店舗がとても多かった。
・American Girl: 人形とランチさせたり、人形と同じヘアメイクをして人形を売る。Hospitalと呼ばれる人形修繕もある。
american girlに来た。女児向け人形屋。端末でパーソナライズした人形をオーダー(そばかす、肌の色、補聴器の有無などオプションが興味深い)でき、カフェで人形とお茶でき、人形向けヘアサロンと人間向けヘアサロンを備えている(人形と同じ髪型になれる) pic.twitter.com/SvmneJbSYx
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 1, 2020
・Nike: 新しい靴でバスケをさせる。
NYのnikeの旗艦店では一等地の店の中にバスケコートを作り、客にナイキの靴を履かせてバスケをさせていた。靴を売るってのは大変だ。。。 pic.twitter.com/8hO7Xj3kLq
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 1, 2020
・Camp: 隠し部屋で子供を遊ばせ、工作教室をやっておもちゃを売る。ちなみに隠し部屋はまじで知らなかったらスルーしちゃう人も多い気がする。
体験型おもちゃ屋のcampに来た。一見普通のこじんまりしたストアだが、右奥の隠し扉を開くと広大な子供の遊び場が広がっているスタイル。おもちゃカウンセラーやワークショップスタジオも併設している。これ隠し扉に気づかず帰る人もいる気がするw pic.twitter.com/fPUPvNJJoc
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 3, 2020
・Casper: 店で眠らせてベッドを売る。CasperはD2Cのユニコーンの中で初の上場をするらしい会社。(ご参考:D2Cユニコーン初の上場 Casper S-1を読む)。このS-1によれば店舗は非常に高いパフォーマンスを出しているらしく、店舗を出店した街の売上成長率はそうでない都市の2倍になっているらしい。また、店の平均滞在時間は25分とのことで、やっぱり寝てるから滞在時間も長いんじゃないかと思う。
・Lululemon: ヨガをやらせて服を売る。知り合い曰くヨガの先生の質はすごく高いらしいが、その分の講習費用で利益がすごく圧迫されているという話もある
・Dyson: 商品を博物館のように展示している。その場で売りたい気持ちは1ミリも感じられない作りになっている
・Sonos: 小部屋でオーディオを聴かす
コモディティ化したモノを売るのは本当に大変だと思った。バスケをさせないと靴を買ってもらえないし、ヨガをさせないと服を買ってもらえない。隠し扉を設置しないとおもちゃを買ってもらえない。人形と同じ髪型にしてあげないと人形を買ってくれない。分解して展示して解説しないと掃除機を買ってもらえない。店で眠らせたり、小部屋に閉じ込めないとオーディオは買ってもらえない。快適なトイレにどうにかこうにか客を突っ込まないとトイレットペーパーすら買ってもらえない(3den)。。。
5. Amazon実店舗群を見てAmazonのリアル空間を食ってきているのを見る
小売店舗群がECサイトではなく自分のところに来てもらうために色々やっている一方で、まったく逆のトレンドも観測できる。Amazonがリアル店舗に進出してきているのだ。
・Amazon 4-star: アマゾンで星4つ以上を獲得した商品のみ置かれる店舗。
ほしい物リストによく追加されている商品、などの軸で陳列がされているのが面白かった。Amazon上で見るのとはまた違ったパーセプションになる。
・Amazon Books
Amazon 4-starやAmazon Booksはその店舗単体で採算をとることを目的としていないように見える。AmazonというECサイトのブランドを広めるための店舗という意味で、上でみてきたような小売店舗とは真逆の構造になっているようにも思う。
・Amazon Go
ニューヨークのニューリテールといえばまずはここということでamazon goに行ってきた。アプリでコードを提示して、それを読み取って改札を通ったあとは好きなものを適当にとってそのまま出ていい。請求は後からアプリに届く pic.twitter.com/itOOQ7K93F
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 29, 2019
Amazon Goは、入り口に改札のようなものがあって、アプリがインストールされていないとそもそも入れない。よくわかっていないお客さんが「なんで入れてくれないんだ」と店員に怒っていたのが印象深かった。”無人店舗”を実現するのは非常に困難で、少なくとも一人入り口でよくわかっていないお客さんを止める人が必要なのだなという学びを得た。
買い物の体験としては全くストレスはなく、日常の体験として申し分ないなと思った。天井には2眼カメラがびっしりと並んでいるのをみると、ここの技術的な投資額でまだ店舗としては全然ペイしないような気がする。一方でそのうちカメラの数も最適化が進むだろうし、将来的には当たり前に普及している可能性はあると思った。
6. Sleep no more: 全没入型演劇でVRの未来を感じる
URL: https://mckittrickhotel.com/sleep-no-more/
「sleep no more」という劇を見たけどまじですごかった!6階建のめちゃデカい建物の中に100部屋くらいの部屋があって、20人くらいのキャストが同時進行でドラマを進める。観客はマスクを被って建物内を自由に動き回れる。まさにオープンワールド演劇。3時間まじで走り回ったでよ pic.twitter.com/wDTzkBmO4z
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) December 31, 2019
ニューヨークにはブロードウェイがあり、大小様々なミュージカルが上演されている。そんな中でも上演スタイルの面で一番特徴的なのがスリープノーモアだ。「舞台」と「客席」という概念はこの演劇には存在しない。6階建てのホテルと100個以上の部屋が全て舞台であり客席になっている。観客は仮面をかぶって自由に演劇を見て回ることができる。20人くらいのキャラクターが1時間のループを3回繰り返す。まさにオープンワールド演劇というかムジュラの仮面演劇というか、そんな感じである。
観客は誰を選んで何をどこからみるかという意思決定を迫られ続ける。キャラクターが出会ったり別れたりを繰り返すのだが、別れる時にどっちのキャラクターを追うのかを決めないといけない。ちなみに全部無声なので英語がわかる必要はないが、シナリオの下敷きになっているのがヒッチコックの映画とシェークスピアのマクベスらしいのでその筋書きを知っていると良いらしい。僕はもちろん知らなかったのでシナリオは2%もわからなかった。
セットは広大に作り込まれていて、細部までむちゃくちゃ良くできていて、セットの中を歩き回るだけでもすごく楽しい。部屋ごとに匂いや照明や温度や音楽が全部違っていて、隠し通路や興味深い情報が存在している。場合によってはキャラクターが観客の一人を指名して個室で1 on 1をするセッションが行われたり、誰々にこれを渡してくれというクエストを依頼されたりもするらしい。終了時に何かを達成されていると特別なパーティーへの招待状をもらえることもあるらしい。おしゃれすぎるだろその仕掛け。
sleep no more、終演後にあることをしてると別日のパーティーへの招待状貰える演出、マジいかしてるな(もちろん行けてない) pic.twitter.com/7eWcUu0RaS
— naoya hanaoka / HOTEL SHE, (@the_green_mob) December 19, 2019
個人的には全没入型演劇というのはすごくVR的だと感じた。全没入型の異世界体験をどう設計するか、という観点から行ってみるととても面白いのではないだろうか。
7. Airbnb Experienceで、観光のロングテールを感じる
Airbnbといえばちょっと前までは民泊のみの提供であったが、今では「Experience」と呼ばれるカテゴリで現地のホストがユニークな体験をさせてくれるようになっている。すごくニッチな体験も多く、地域色もすごく出るのでこれを眺めるだけでも割とたのしい、使ったことがない方がいれば是非使ってみてほしい。
個人的にニューヨークでやってみて、おすすめできるAirbnb Experienceはこの2つだ。
・ブルックリンでDJ体験をする
https://www.airbnb.jp/experiences/85367
レコード屋でレコードを視聴してみて実際に購入し、レコードから良さげな箇所をサンプリングして、オーディオをMacに取り込み、LIVEというソフトウェアを使って分解し、ビートを構築するのをハンズオンでレクチャーしてくれる。DJというとなんとなくフロアを盛り上げる陽キャなイメージがあったのだが、全然違うようだということがわかった。部屋の隅でしこしことMacをいじり、まじで微細な調整を積み重ねていく工程があるのだと知ってめっちゃ親近感がわいた。
あとはレコードの仕組みがすげえと思った(初めて触った)、針と物理的な溝であんなに良い音質の音が出せるなんて逆にすごくない?
・ブルックリンでグラフィティ・アートを描いてみる
https://www.airbnb.jp/experiences/599107
ブルックリンのグラフィティアートだらけの地区で、現役アーティストのグラフィティアートの描き方講座を受けてきた(airbnbを利用)。スプレーは1.壁との距離と2.動かすスピードで描き方をコントロールするので思い通りの線を描くのが難しかった。そして握力を使うので筋肉痛がやばい。 pic.twitter.com/wcN3bu21nG
— takahiro / MNTSQ (@takahiroanno) January 3, 2020
現役でグラフィティアートを描いているアーティストから描き方を教わることができる。どんな人なんだろうと思いながら若干びくびくして行ったのだが、すごく典型的に予想されるような黒いフードに身を包んだダウナーな感じの兄ちゃんが出てきて感動した。その風貌とは裏腹にめっちゃ優しくグラフィティアートについて教えてくれた。
Airbnb Experienceはこういう「観光地化しにくいが観光地的価値があるもの」をうまく経済的な文脈に突っ込むことに成功していて、素晴らしいなと思った。例えばブルックリンと言えばグラフィティアートなわけだが、ゲートを置いて入場料をとるわけにもいかない。しかしAirbnbならそれに近いことができている。
***
以上である。ぜひニューヨークに行く際には参考にしてみていただきたい。
他にも、こういう都市、場所、イベント、体験が面白かったよという情報があったらぜひ教えてほしい。行ってみたい。
また、本記事とは全然関係ないのだが、弊社、リーガルテックカンパニーのMNTSQでは採用をしているので是非興味がある方がいたらDMをください。
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