健康保険格差はパート主婦の問題ではない!

皆さま、こんにちは。年金界の野次馬こと、公的年金保険のミカタです。3か月ぶりの投稿となりました。最近は、いろいろ忙しくなり、こちらでの投稿がなかなかできずに申し訳ありません。

そのかわり、ツイッターで、ちょこちょこ情報発信していますので、公的年金回りの間違い探しにご興味のある方は、そちらも見ていただければと思います。

たかはしFP相談所(公的年金保険とおカネのミカタ)(@fp_yoshinori)さん / Twitter

「健康保険格差」による就業の壁?

さて、今回取り上げるのは、日経が「健康保険格差」を「パート主婦の就業の壁」と結び付けた下の記事です。

夫が健康保険組合に加入している場合、扶養に入っている妻が扶養から外れると、夫の健康保険組合の付加給付のメリットがなくなるので、それを避けるために就業調整しているという内容です。

しかし、記事で書かれている事例は、新たな「壁」を作りたいがための浅はかなもので、またもや誤解による就業調整を招きかねないものです。

例えば、ある電機メーカーの場合、高額の医療費がかかっても患者の自己負担は月2万5000円が上限になっている。法定ルールの負担限度額は月収83万円以上の場合で月25万円超なので、高所得者でも1割以下の負担で済む。法定ルールの出産育児一時金(50万円)とは別に出産時に10万円の上乗せ給付を行っている健保組合もある。

記事より抜粋

電機メーカ―の事例では、高額療養費が付加給付によって月2.5万円ということですが、これと比較している法定給付の例が、なぜ「月収83万円以上」の高所得者となるのでしょうか?

扶養に入っているパート主婦の問題を論じているのに、こんな高収入のケースを取り上げるのはナンセンスではないのでしょうか。高額療養費の法定給付は以下のように定められています。

パート主婦であれば、標準報酬月額は26万円以下の「④区分エ」を見るべきで、これだと自己負担の上限額は57,600円で、健保組合の2.5万円と比較して3万円程度の違いです。

それでも3万円違えば大きいと思うかもしれませんが、パート主婦が扶養から外れて被用者保険に加入すれば、病気やケガで休職中は傷病手当金が支給されます。傷病手当金は標準報酬月額の3分の2ですから、月収10万円だと月6.5万円程になります。

高額療養費の対象となるようなケースでは、長期に入院することが想定されるので、休職中の所得保障である傷病手当金がある方が良いのではないでしょうか。

そして、出産育児一時金の上乗せについても、自ら被用者保険に加入していれば、産休中の出産手当金が支給され、これも傷病手当金と同じく標準報酬月額の3分の2ですから、こちらの方のメリットが大きくなる可能性もあります。

このように、扶養から外れて被用者保険に加入することによって、傷病手当金や出産手当金といった保障が手厚くなることの説明せずに、付加給付が無くなるデメリットだけを強調しているこの記事は、誤解を与えて不要な就業調整を招く恐れがあるものです。

被用者保険に加入することを、保険料負担による手取りの減少だけを捉えて、「年収の壁」とか「働き損」と誤解を与え、保障が手厚くなることのメリットを十分に伝えてこなかった日経が、同じ過ちを繰り返しているのはとても残念です。

日経は自らの健康保険組合の内容を開示するべき

記事では「健康保険格差」について、「格差」というくらいですから、それをいかに解消するかということに、一応、触れていますが、これがまたポジショントークのようなもので、興味深いところです。

この給付格差を解消するのは容易ではない。健保組合の上乗せ給付は企業が福利厚生の一環として労使交渉などを経て形成してきたもので、労働条件の一部にもなっているからだ。

記事より抜粋

まず、健保組合の付加給付を企業の福利厚生と位置付けて、その既得権益を容認しているようなところに違和感を感じます。

これまで、健保組合について書いた私のnoteでも再三述べていますが、健康保険組合は、元々は企業の福利厚生制度として始まったものですが、高齢化が進むことによって、医療ニーズが高まる高齢期の医療をいかに持続可能なものにしていくか、企業の枠を越えて支えていくことが求められているものだと思います。

しかし、日経が上のような既得権益を容認しているのは、これまた繰り返し伝えているところですが、日経自身が既得権益を享受している立場にあるからです。

先に、電機メーカーの事例が挙げられていましたが、日経の健保組合にも同じような付加給付があるはずです。なぜ、日経は自らの健保組合の付加給付を事例として挙げないのでしょう。

しかも、日経の健保組合の保険料率は、従業員負担分が2.08%と非常に低く抑えられています。

日経は、「保険料負担は少なく、給付が手厚い」ことを批判されないように、このような事実を隠しているのではないでしょうか。

それでも、保険料負担が低いのは、給付を抑制しているためというならば、まだマシなのですが、日経の場合はそういう事ではなさそうです。

下のグラフは、1400近くある健保組合の各指標の平均を100として、日経の健保組合と比較したものです。

日経の加入者1人当たりの給付は、健保組合の平均を上回っていて、保険料率を低く抑えることができるのは、平均報酬が高いためだけのようです。

公的医療保険制度については、最近、高齢者に対して「能力に応じた負担」を求める論説をよく目にしますが、高齢者に限らず、現役世代にも「能力に応じた負担」の徹底が必要ではないでしょうか。

「健康保険格差」を解消するためには

記事の最後には、「健康保険格差」を解消する策として、以下のようなことが書かれています。

一つの案としてこんな仕組みが考えられる。専業主婦がいる世帯には夫に保険料の追加負担を求める。主婦が就労した場合は、たとえ少額でも収入に応じた保険料(労使で折半)を納めて勤め先の健保に移ることを原則とするが、夫の健保組合に残ることを希望する主婦には、協会けんぽの本人負担分よりも割高な保険料を納めることを条件に継続加入を認める。
年収の壁ができる根本原因は「負担なき給付」を認めた第3号被保険者制度にある。政府が検討している助成金制度はこの優遇を一段と拡大することで当座をしのごうという策なので、当然、健保格差という壁も消えない。政府が就業調整を本当になくしたいと考えるなら、第3号被保険者制度の改革が避けて通れないはずだ。

記事より抜粋

健康保険格差は、扶養されているパート主婦だけの問題ではなく、本質的には、健保組合、共済組合、そして協会けんぽに加入している被用者間の負担と給付の格差の問題です。

これを解消するには、年金と同様に「被用者医療保険の一元化」という抜本的な改革が必要なのに、それに一切触れずに、この問題を国民年金の第3号被保険者の問題として記事を結んでいるところに、日経が自らを含む大企業の既得権益を維持しようとしている意図が見られ、何とも残念な気持ちになってしまうのです。

ということで、次回の投稿はいつになるか分かりませんが、その時まで、皆さまごきげんよう!


#日経COMEMO #NIKKEI


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