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-歩く速度で暮らす-〔閑話〕人

子供のころから乗り物が苦手だった。ガソリンや排気ガスのにおい、バスや電車に乗った途端に気持ち悪くなってしまうのだ。長時間バスに詰め込まれる社会科見学や遠足は本当に憂鬱だった。

育った家に自家用車はなかった。だから車に乗る機会もほとんどなかった。それでも夏休みの家族旅行は電車に乗らなければならない。必ず吐いてしまう。これがずっと嫌だった。自己嫌悪もあったが、乗り物の存在自体を嫌悪する気持ちのほうが強かったと思う。

中学生になるころには乗り物酔いはあまりしなくなった。それでも、やはり乗り物は好きではなかった。だから「歩く」しかない。というより、「歩く」ことが好きだった。

自転車に乗るのも好きだった。自分の力だけで、自分の好きな速度でこいで進んでよいのである。自転車に乗って自分の速度で風を感じるのが心地よかった。

そんな私が、53歳になって初めて普通自動車免許を取得した。理由は北海道への転勤であった。やはり北海道で暮らすには車の免許が必要と考えたからだ。

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