LGBT理解増進法について考える⑴

 昨日、ベルサール虎ノ門イベントホールにおいて一般社団法人グローバルチャレンジ主催の公開シンポジウム「岸田政権1000日を検証する」のパネリストとして登壇し、「LGBT理解増進法」と埼玉県LGBT条例について、諸井真英埼玉県議会議員らと討論した。
 1年4カ月前から毎朝明治神宮参拝前に投稿しているnote拙稿で最も反響が大きかったのは、私のウェルビーイング論で、2番目に注目されたテーマがLGBT問題であった。私のnote拙稿に注目しているLGBT法連合会理事・事務局長(早稲田大学ジェンダー研究所招聘研究員、内閣府「ジェンダー統計の観点からの性別欄検討ワーキンググルプ」メンバー、一橋大学大学院客員准教授などを歴任)の神谷悠一著『検証「LGBT理解増進法』(かもがわ出版)によれば、私の主張が「維新、国民の(LGBT理解増進法修正)案に結果として反映」されたとして、次のように述べている。

<20年前にジェンダーバックラッシュを主導したとされる、髙橋史朗氏の5月17日のnote記事…の中で、自民党が理解増進法の修正案を総務会等で了承したしたことに疑義を呈し、「玉木代表が指摘したように『G7に合わせる議論は雑』であり、今回の拙速審議・強行突破によって自民離れが加速することは避けられない。」と、なぜか国民民主党代表の玉木雄一郎氏の発言を引いて、自民党批判を展開していた。そして、「『ジェンダーフリー』『過激な性教育・ジェンダーフリー教育』への強い懸念が一体なぜ継承されないのか?」と述べた上で、「LGBT教育をめぐる学校と親の対立が深刻化し、大混乱が起きている米英と同様の分断・対立が我が国にも生じることは不可避といえる。」「LGBT問題に関する学術研究に基づく科学的知見・根拠を踏まえた『正しい理解』を増進するガイドラインを作成する必要がある」と述べる。さらに、「『ジェンダー平等』に関する本質的論議を踏まえたLGBT問題の『正しい理解』を増進するガイドライン作成に向けた議論を自民党ができなければ、自民党からの大量離反を避けることはできないであろう。性規範・性道徳を真っ向から否定する『研修』や『相談』が全国に広がることは断固阻止しなければならない。」と「性規範・性道徳」なるものを振りかざしながら、自民党への圧力とも取れる記述を並べていた。
 このnoteの投稿があった5月17日の段階から、筆者は、与党にも、野党にも、「髙橋史朗氏の方向性だけは相容れることができない。絶対にこのような方向性が入らないようにお願いしたい」とこのnoteを紹介し、警鐘を鳴らした。
 そもそも、20年前に「ジェンダー」という言葉を使うと、男女別施設が混乱するなどと主張し、男女平等、ジェンダー平等を阻む言説を展開した高橋氏や八木秀次氏が、「女性の安全」、あるいは不安や心配などといって、トランスジェンダーを攻撃する様は、奇異としか言いようがなかった。
 しかし、この高橋氏の主張は、維新。国民の案に結果としては反映されることとなる。>

 5月23日にLGBT法連合会は記者会見を行い、国民民主党にも強く働きかけ、5月25日に神谷氏も招かれた連合の緊急院内集会で玉木代表は多数派配慮というのはそぐわないのでやめるという旨の発言を行ったにもかかわらず、その数時間後、日本維新の会と国民民主党は、LGBT当事者らの批判を踏まえて与党案の性同一性をジェンダーアイデンティティという片仮名にする一方で、「この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。」と規定した第12条の新設と、教育関係の条項に「保護者の理解と協力を得て行う心身の発達に応じた教育又は啓発」との文言を明記した修正案を衆議院に提出した。
 そこで、神谷氏は同書で次のように述べている。

<教育関係の規定については、なぜこれが差し込まれたのか、当初はよく背景がわからなかった。両党の関係者に聞くと「アメリカで保護者が混乱している」「アメリカで保護者の対立や反発を招いている」などの理由が聞かれた。…この点は、女性の不安、心配といった事柄とともに、前述の髙橋氏が並べていたいたことであった。前述のnoteには「LGBT教育をめぐる学校と親の対立が深刻化し、大混乱が起きている米英と同様の分断・対立が我が国にも生じることは不可避と言える。」との記述があったのである。>

 6月8日の夜から翌日の午前1時まで続いた自民党と日本維新の会との修正協議が行われ、与党案の「性同一性」は「ジェンダーアイデンティティ」に修正され、6条と10条の学校設置者の条項に、日本維新の会・国民民主党案から文言を修正した「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」が追加された。さらに、維新・国民案にあった「すべての国民が安心して生活することがができるよう留意する」に、「この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定する」という文言を加えて修正することが合意され、同法案は衆参両院で可決、成立されるに至った次第である。

 最後に、昨年の3月8日に英スナク首相が「性教育の緊急見直し方針」を発表し、教育長官も「学校で不適切な性教育の授業が行われている」と表明した背景事情を列記しておこう。

⑴  Miriam Cates議員が書簡を取りまとめ、LGBT+の慈善団体「ストーンウォール」と英教育省が協議して作成された最新のガイダンスが、活動家団体による教材への過度の影響をもたらしていると警告。教育省から独立した外部によるレビューを要求
⑵  テレグラフ紙によれば、「13歳の子供が性別は100あると教え、12歳の子供にオーラルセックスとアナルセックスを教えた」
⑶  スウィンドン自治区議会作成の学校向けプログラムでは、「自分自身を性的に表現する」方法として”自慰行為“を促している
⑷  9歳以上の教材で「LGBT+」の意味を解説。11年生(15~16歳)の討論のケース・スタディで、男の子がパートナーとの性行為のビデオを作ることで関係のレベルを引き上げようとする状況を提示
⑸  LGBT外部団体が送り込むワークショップのファシリテーターには不適切な人物が含まれる。例えば、自分の過激なWebサイト(異性愛規範を批判する記事や「肛門の楽しみと戯れ」と題する記事を掲載)を宣伝する等。
⑹  同団体が作成した教師用指導書では、「良いセックス」について、「愛と愛情だけではないと強調。ある人にとっては迅速、乱暴、匿名なセックスが良いセックスであり、行為中に痛みを感じる事を楽しむ人もいる」と記載
⑺  今年の3月30日に発表された保守系のシンクタンク「政策転換」報告書によれば、イギリスの中学校の72%で、人間は生物学的な性別と異なる可能性のある性自認を持つと教えており、25%の中学校で、一部の人や子供たちが「間違った体で生まれるかもしれない」と教えており、30%の中学校で、性自認が生物学的性別と一致しない場合、いかなる状況でも性自認に沿って行われるべきと教えている。
⑻  また、33%の中学校が、子供の性的苦痛を打ち明けられても保護者や医療従事者に報告すると回答しなかった。
⑼  中学校の28%は男女別トイレを維持しておらず、19%は男女別更衣室を維持していない。
⑽  60%の中学校が異なる性別のスポーツに参加することを許可している。
⑾  69%の中学校は性別違和の子供の新しいアイデンティティを肯定するよう他の子供たちに要求している。
⑿  過去10年間にわたり、党派的・政治的な目的を持った外部機関が政府から多額の資金提供を受けており、それに応じて教育セクター内で影響力を獲得してきた。
⒀  彼らはこの影響力を利用して、論争のある性同一性に関する信念を学校内に埋め込んできた。

 我が国でも安倍元首相が中心になって「過激な性教育」の全国実態調査が行われ、中央教育審議会が3年間議論を重ねて、学校全体・保護者の共通理解を得る、発達段階を踏まえる等の性教育の「歯止め規定」がつくられた。
 全国62の地方自治体に広がったLGBT条例を推進している人々は、こうした歯止め規定の撤廃を目指している。歯止め規定が撤廃されれば、米英と同様の混乱と弊害が起きることは不可避であり、「こども基本法」の基本理念である子供の権利、とりわけ「性的自己決定権」と親の養育権の対立が深刻化し、全米に広がった親と学校の対立・分断が日本でも広がることは火を見るより明らかだ。その責任は一体誰が取るのか⁈
 


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