クビー『グローバル性革命』⑸一第8章「言語に対する政治的蹂躙」

●イデオロギーは堕落した言語体系

 すべての政治体制は、自分たちの言語を開発し、人々を服従させるために言語 が現実に反するように創造されるが、このように偽りであり堕落した言語体系 をイデオロギーと呼ぶ。 それは少数の利益に奉仕する思想体系で、大衆の受 容性を得るために、時代の価値という霧の後ろに隠れるのである。

イデオロギーの影響を受けた主要な用語

 いつからか、とても長い間、哲学者たちが議論してきた重要な言葉は、それが どのように使用されるかに応じて、一つの社会の人間性の尺度となる用語が イデオロギーに基づいた社会変化を振興させるための偽りの表示に変わってい る。

⑴  自 由
 性主流化とそれに応じて創造された新しい「ジェンダー人間」は、自由という 概念がなければ理解することができない。 今日、わたしたちは自由を、通常、 次のように理解する。 「私は私がしたいことをすることができる。」しかし、 自由は、個人の気分に応じたものになるとき、それは真理と分離されてしまう。 真理を認識することは善を選択するために必要である。 また、自由の概念が主 観的な気分に過ぎないことになれば、一人の意思決定と行動の結果及びそこか ら派生する責任から彼を解放させることになる。  しかし、真理と責任から自由 に分離させることは、より多くの自由を保障してくれるのではなく、より多くの 自由を段々と失うことになる。 なぜなら、このような自由は、他者の自由を対 価として支払わなければ得られないからである。 トーマス・ホッブスの表現を 借りれば、人間が人間に対して狼となるものである。この言葉は、共同体のみに 適用されるものではなく、個人の内面の自由にも該当する。 もし人が自分の自 由を理解することができる本性、すなわち、真理に向かって行かなければ、その 人は欲望の支配を受けるものである。 人が男、或いは女に生まれるという厳然 たる事実を受け入れないことは自由ではなく、人間に関する明白な真理を否定 するものである。

⑵ 寛 容
 寛容に対する訴えを強く促す優れた文章は、ヴォルテールが書いた「寛容につ いて」という論文がある。 ヴォルテールはデカルトに次のような文を書 いて送った。「私はあなたの言葉に同意しません。しかし、私は、死ぬまでそれ を言うことができるあなたの権利を擁護します。」寛容は自分が同意しないにも かかわらず、相手の何かを我慢することをいう。
 しかし、寛容であることがす べてのものを善であり、善と悪を区別しないことを意味するものではない。 啓蒙主義哲学者たちは寛容という言葉を絶対主義支配者に対抗して、宗教と 良心の自由を守るために使用した。 しかし、同じ単語が今日には宗教と良心の 自由を埋めてしまうために使用されている。今は、真理が存在するという単純な 主張でさえも無寛容と見なされているが、これらの主張が無寛容にすぎないと いう確信を認められるために、愛や暴力、どんな方法を使用しても関係がない。
 イエス・キリストは、寛容の最も急進的な教えを弟子たちに与えられた。「あ なたの敵を愛しなさい」しかし寛容の現在の概念は、イエスの教えとはほど遠い。 それは、真実や確信を強要してはならないという次元ではなく、偽りを容認して 我慢しなければならないことを意味するが、これは 真理を根こそぎ抜き取って しまうことである。 ヴォルテール以降、200 年が過ぎた今、寛容という言葉 は相対主義の最も有用な標語になってしまった。

⑶ 正 義
 正義と公平性のある国家の議論はプラトンとアリストテレス以降の哲学者と 神学者たちの主な関心事であった。正義は、4 つの基本徳目の一つである。いつ の時代を問わず、権利を剥奪された人々の叫びは存在し続けた。それは、常に個 人や機関という社会的背景の中で、権利と義務、与える事と受ける事を通じた利 益のバランスに関するものであった。ここに対して普遍的に認められている法 則は 「同じのようなものは同じ方法で、別のものは別の方法で、すべてのもの を、それぞれに相応しく扱うこと」である。
 この法則は、自ら法律に従わせるよ り、法律を自分たちが思い通りに屈服させようとする権力者たちによって継続 的な脅威である。 急進的フェミニストと LGBTI 運動家たちは、「ジェンダーの平等」を要求する。 彼らにとって正義とは「女性を理事会に、男性を台所に、子どもたちを部屋に」 という理想に基づいて国家が男女の間の実質的平等へと強制的に移行すること を意味する。
 また、彼らにとって正義とは、それぞれの人が自分のジェンダー と性的同一性を自由に選択できることを意味するが、これは同性愛者、トランス スジェンダーが結婚をして、生命工学を利用して子どもたちを生産する権利を 有することをいう。 これは、単純に利益のバランスのではなく、一般大衆の犠牲を対価として少数 者の望みをかなえようする国家権力に圧力をかけることを目的とする特殊な政 治的利害関係に関する問題である。今、客観的に異なるもの、すなわち、平等で はないものを必ず平等に扱わなければならない。 そうしないことは、「不平等」 と呼ばれるものである。 これは、法律システムが土台にしている正義の原則に 逆行することを意味する。

⑷ 多様性
 人々が絶滅危機の生物への関心を持つようになり、多様性という単語は肯定 的な意味を持つようになった。 生態系の多様性を維持することは追加すべき価 値がある目的である。 ところが近年、この言葉は、LGBTI によって、まるで彼 ら彼女らの多様性が望ましいものであり、社会の公共の福祉のために必須なも のであるかのように言うことに使用されており、すべての類型の性行為に正当 性を付与するための目的で乱用されている。 一つの肯定の言葉が逸脱的な性行 為に対する否定的な見方を変えて強制的な異性愛を解体させようする目的で使 用されている。 多様性という言葉は、また、「逸脱的」という言葉をなくしてしまうことにも 利用されている。 お互い献身した関係内の異性愛は正常的な規範であり、その 他のすべての性的指向と性同一性は、お互い異なる種類ではなく、「逸脱」とで あるとするために、LGBTI 活動家の観点かはこれらの規範は、必ず崩壊すべきも のであるのである。

⑸ 性差別主義
 ジェンダーが男性、或いは女性という性同一性とは関係がないという確信を 人々に植え付けることは容易ではない。そのために、ジェンダー活動家たちは、 両性の同一性を否定的な言葉と関連させて不快にさせてしまうのである。 一度 多数の感覚の中に、このような不快なイメージが定着すると、その次に議論を変 える。 「性差別主義」は、フェミニストの標語であり、多くの場合、「人種差別主義」 という言葉とほぼ同様に使用される。「性差別主義者」(sexist)という言葉に使 われた接尾辞「〜主義者 ist)は人種差別主義者(racist)、イスラム教主義者 (1slamist)、共産主義者(Communist)、階級主義者(Classist)、根本主義者 (Fundamentalist)を通して分かるように、暴力を通しても強制的に実行する必 要がある以上の絶対化を暗示させる。 元来、性差別主義という言葉は、男性が女性を性的対象としてのみ扱うシステ ムを非難するために使用された。 しかしお互い異なるジェンダーの特性やジェ ンダーの相互間に肯定的な補完性については若干の躊躇いをもつが、性差別主 義の烙印を押すことができるようになれば、性主流化の勢力は大きな勝利を収 めたと言えるだろう。 男女間の異なる任務と役割は、政治権力によって必ず除 去されるべき固定観念として貶められ、社会的に構成されたジェンダーの相違 というイデオロギーは、生物学、薬学、社会学、心理学、脳科学など男女間の差 異とその原因をより正確に描写する研究結果を抑圧していることが確認されて いる。

⑹ ホモフォビア
 「ホモフォビア」という言葉は、1960 年代の精神分析学者で同性愛活動家で あったジョージ・ウェインバーグが同性愛を拒否する人々を精神的に問題があ るかのように見えるようにするために作られた造語である。 「フォビア」とい う言葉は、治療する必要がある神経症的恐怖を言うが、蟻に対する恐怖、群衆に 対する恐怖、閉鎖された空間に対する恐怖、数字の 13 に対する恐怖などがある。 精神分析学者として鋭い洞察力を持っていたウェインバーグは、同性愛に対し て抵抗感をもっている人は、実際に自分の中にある同性愛的傾向を恐れること を実証するために苦労したのである。 彼は人類学的・心理学的・医学的・社会 的・宗教的な理由として同性愛的な生活方式を検討し拒否することを「ホモフォ ビア」という一言で非難しながら神経症的恐怖に分類した。 言うまでもなく、 同性愛者を排斥したり、侮辱したり、さらには暴力的な形で同性愛を拒否するこ とは、日常的な対人関係で烙印が押されるような精神疾患であると考えている。 同性愛者たちに反対して、自分の信仰を守る場合は、カトリック教会は、必ず、 キリスト教人類学の解体とこれに基づく性道徳の解体に反対しなければならな い。
 今日では、王子が王子と結婚する幼稚園の絵本から色々な人が入って いる姿の家族、ひとり親家族、そして「虹の家族」までを含む広範囲の家族を すべて同等であると言う。 しかし、これらの家族は本来あるべき家族の姿から かけ離れてしまった家族の姿である。 殆どの場合、このような家族のために、 人々が受ける大きな苦しみと、長期的に現れる否定的な影響、特に子どもたちに 与える影響は、幸せな外見の裏に隠されている。

⑺ 親 1 と親 2
 今日、性差別主義的固定観念を根絶しようとする熱望のために、 2010 年 6 月、スイスの社会主義者で、欧州閣僚理事 会のメンバーであるドリス・スタンプは、メディアの前で、これ以上の女性を「受 動的で劣等な存在である母親や性的対象」に描写してはならないことを要求す る請願書を提出した。 このような考え方を持っている人は、彼女だけではない。 スコットランドの国家保健サービスは、幼稚園で「お母さん、お父さん」とい う呼称を禁止すべきだと主張した。 理由は、このような言葉が「同性の両親」 を差別するものだからだという。
 スイスの連邦事務局の「ドイツの中性単語使 用法ガイドライン」13192 頁には、「父」と「母」という言葉を「性別が曖昧」 である「親」という言葉で置き換えるように勧告している。 2009 年から 2013 年まで、米国の国務長官であったヒラリー・クリントンもパスポートやその他の 文書に「母、父の代わりに「親 1、親 2」を使用するようにしようとした。 米国 国務省のウェブサイトによると、そのようにすれば、「子どもの親に対する性別 中立表現方法を提供し、多様な類型の家族を認識することにおける改善が行わ れるからである」。
 しかし、このことで途方もない批判を受けたクリントンは、 文書の形式に「母または親 1、父または親 2」と記載するほど、自分の立場を維持 することに満足しなければならなかった。 なぜ赤ちゃんの口から最初に自然に出てくる言葉が日常の言語で削除する必 要があるのか? どんな人も、さらにフェミニストでさえも母の子どもではな かった場合は、母という名称をなくすための戦いをしていなかっただろう。親 1 であった同性愛者のエルトン・ジョンと彼のパートナーの親 2 も子どもを持と うとしていた自分たちの願いを叶えるため、代理母を見つける必要があった。す べての人は自分に命を与えたその人を尊重するのが当然ではないか? それにもかかわらず父や母と話すことが 同性愛者たちの親たちに差別を感 じさせるという理由で、政治的支配者たちが民族浄化をするように言葉を掃除 しようとしている。

●「ポリティカルコレクト」という規定

 国内外の多くの機関は、フェミニストたちが自分たちに対して考えるように してあげ、何かを言おうとする人々を「ポリティカルコレクト」という規定を、 違反することはないかという恐れをもたせる拘束力のあるマニュアルを発刊し たのである。 そのようなマニュアルは、簡単なチラシから前述した 192 頁に及ぶ厚い冊子まで様々である。 性差別的でない言語の使用のための、ドイ ツのユネスコの勧告は、学校、大学、議会、メディア、公共部門のエージェンシ ー、そのどこからでもドイツを専門的に使用するすべての人に適用されるので ある。
 この勧告は、教授する学習教材、 ノンフィクション、ラジオやテレビの シナリオ、辞典、百科事典、スピーチや講義、広告、すべての種類の新聞や雑誌 の記事を作成する女性クリエーターと男性創作者に訴える。 もうこれ以上、私たちの口に慣れているように言うことは許されない。 すべ ての人は、フェミニストのドイツ語を第 2 の言語で学ばなければならない。 そ うしてこそ、彼/彼女は、彼女/彼は、その人たちは継続的に彼/彼女は、彼女/彼 は、彼ら自身は常に正しい側、犠牲者の側、抑圧される者の側は、そして他の言 葉で女性の側であることを示すことができるからである。
 この過程で、多くの言語学的なニュアンスが消えてしまった。 このように不 思議で人為的に強要された言語は、その言語の裏面で動いている精神を裏切る ものなってしまった。 その結果、言語に対するフェミニストたちの誇張された 戦争ごっこに対して笑いを我慢できないようにする。 しかし、それはこの攻撃 の深刻さを無視するだろう。
 今日、制度圏内で成し遂げたフェミニズムの勝利によってフェミニスト活動 家たちが作り出した指針を、公共機関、大学、マスコミを含め、すべての領域に ある人たちがぺこぺこしながら従っている。 学生は試験を見ると、性中立的な 言語を使わなければならないし(これらの価値を支持していない女子でさえも)、 プロテスタントは偽造的な「公正な言語」で聖書を作り、言葉を毀損させるため に数百万ドルを費やしている。 日常の言語は、どれも、その出口を見つけるこ とができない「ポリティカルコレクト」というお化け屋敷になっている。 少し積極的に言えば、誰も家で彼/彼女の、或はその人たちの出口を見つける ことができないだろう。 そして、これはまさにこの戦略が追求している目的で ある。 フェミニストの世界観が透明人間のすばらしい新世界に人々を導くため に言語を通して、すべての人に強制的に注入されている。 


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