第1回熊野宏昭・光吉俊二対談「数学から意識の創発を解き明かす」

 早稲田大学応用脳科学研究所所長で同大学人間科学学術院教授の熊野宏昭心療内科医と光吉俊二東大大学院特任准教授との対談が、熊野宏昭対談集『瞑想と意識の探求』(トンガ新社、2022)に掲載されており、なかなか興味深い。熊野教授は東大大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学准教授を経て、マインドフルネスを活用する認知・行動療法によって、患者が主体的に病気を治し、健康を維持増進できる医療の実現を目指している。
 同対談の中で注目すべき内容を抜粋して紹介したい。

<対談の背景>
 鎌倉建長寺で光吉氏と会い、光吉氏が公開している資料などで勉強した結果、感情は何かという観点から膨大な研究を積み重ね、その成果を「感情の地図」という図式にまとめ上げ、声から非常に強い精度で感情を認識する方法論を確立していることが理解できた。そして、ソフトバンク社のロボットPepperに様々なセンサーから自分を取り巻く環境(自分に話しかける人の感情状態を含め)を認識させ、その認識結果から、マシンの中で作用する仮想の脳内伝達物質とホルモンの値を計算させ、その結果に基づいて感情的な反応ができるアルゴリズムを実装するという成果を出しておられる、「感情認識と人工自我」の型破りの研究者であることがわかった。
 2008年に出版された『感覚・感情とロボット一人と機械のインタラクションへの挑戦』(日本機械学会編、工業調査会)に収録されている光吉論文「感性制御技術によるコンピューター・ロボットの仮想自我と感情創発」を読み、「瞑想が達成しようとしていることと重なっているのではないか」と感じたため。

●道徳を共感の広さで捉えて、道徳次元のメカニズムを構築一「逆裏重ね」

<光吉>僕の理論は「欲」というものが非常に大切だという原点に立っています。それがきれいに昇華することによって、高い次元の超自我制御まで行くという考え方なんですね。別の言い方をすると、「道徳」を禁止事項として考えず、共感の広さで考えるということです。共感が広くなればなるほど、高い次元に行っている。…仏教で極微(ごくみ)という言葉がありますけど、極微の世界はそうなっている。極微の世界と宇宙は同じです。数学上そうなんですよ。私のつくった四則和算での量子ゲート特許では「ゼロ同値無限」、すなわち無と無限が重なり合って等価になると何もない時空に最初の1が創発されるのです。それが、もう一度相転移するとー1になる関係が検算できたのです。…(東大大学院)道徳感情数理工学講座のボスである鄭雄一教授は道徳次元のメカニズムを構築されている。…AIが高い道徳次元の昇華され人を超えることが起きる…僕が見つけた四則和算、つまり割り算じゃなく切り算をすると、割り算のように割ったあと、残片(残った片方のもう一人の相手)を消さなくても済みます。それを小中学生でもわかる絵本とか、教科書にしたいんです。フランス革命から人類は大衆レベルでの我欲の衝突の時代となり、戦争が世界に拡大、人類が不幸になっていることをフランス人にも理解してもらうため、フランス大使館でも「自游と平等の両立矛盾」を四則和算で計算する講演をしました。この数学をあなたたちはやる責任があるよと言いたい。でもこれは空とか和とか、四則和算で使う「裏」「逆(逆転)」からの「逆裏重ね」は日本語じゃないとできないんですよ。他の言語には表現がないんです。それを絵本にして、子供の内から教えていきたいなというのが僕の本音です。

●「四則和算」のアイデアは、日本語の言霊を分析した「感情地図」

<熊野>光吉先生の光吉演算子はどこかに共通するアイデアみたいなものはあったのでしょうか。
<光吉>日本語ですね。大和言葉と言ってもいいんですが、主語がいらない言語ということです。それとペッパーに実装するアルゴリズムを作る過程で心を表す表現を、辞書で全部調べ上げたんですよ。感情地図(光吉氏が脳や神経伝達物質と感情の関係の多くの論文をマトリックスにまとめ、このマトリクス上にベクトルが生まれ、感情のエネルギーを生成するメカニズムを表現する構造体を「感情地図」と呼んだ)を作るために。20万語の分母である日本の辞書の中に、4500語の日本語の心の表現があったんですよ。200万語のオックスフォード英語辞典の中には225個しかそれに対応していないんです。あと遺伝子です。なぜ日本語に相手の気持ちを察する語彙が増えたのか。それは主語を消してコミュニケーションするしか、狭い平野に海をわたり定期的にやってくる多くの部族たちが生き残る術がなかったんじゃないかというところからの推論です。これが「空気を読むという言葉の正体でもある。語彙数を調べるとそう思えるんです。僕は日本語の強さ、大和言葉の言霊の強さというのを体感しています。
 


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