「ジェンダー・フリー」の正体は何か一LGBT理解増進の根本的視座を探る

ジェンダー・フリーの3つの捉え方 
 フェミニズムには大別して、自由主義的、マルクス主義的、疑似マルクス主義的フェミニズムの3種があり、ジェンダー・フリーの捉え方にも次の3つの立場がある。

⑴ 教育事象に関して生起するジェンダーの差を抹消することによって、ジェンダーの存在を無視しようとする立場
⑵ ジェンダーを無視できる、気を配る必要のないものとみなす立場
⑶ 「ジェンダー・バイアス(ジェンダーに根差した偏見や固定観念)からの自由」を意味する立場(バーバラ・ヒューストン”Should public education be gender-free?"参照)

 ジェンダー・フリー論者は女子差別撤廃条約を根拠に、男女の「区別」が「差別」につながると主張するが、男女を「区別」することによってアイデンティティが形成されることも事実であり、「区別」と「差別」を「区別」する必要がある。
 男女の脳には性差が歴然としてあり、その生物学的性差に基づいて社会的文化的性差としての男女の特性があることは脳科学研究によって明らかだ。
男女平等は男女の「同等」化を目指し、ジェンダー・フリーは男女の「同質」化を目指している。

●中川八洋著『これがジェンダー・フリーの正体だ』
 筑波大学名誉教授の中川八洋著『これがジェンダー・フリーの正体だ一日本解体の『革命』が始まっている』(日本政策研究センター)によれば、第1期フェミニズムはイギリスのJ・S・ミルの『女性解放』などが思想的な根拠となり、19世紀から20世紀前半にかけて広がった男女平等思想に基づく婦人参政権運動である。
 この運動は日本でも戦前に起こったが、今日の日本のフェミニストたちは、「リベラル・フェミニズム」と名付けて評価していない。
 第2期フェミニズムには「マルクス主義フェミニズム」と「ラディカル・フェミニズム」の2つの流れがあり、日本では上野千鶴子氏に代表される前者の方が強力で、マルクス主義の階級闘争史観を男女関係に当てはめ、男性をブルジョアジー、女性をプロレタリアートに置き換える「男女間永久闘争イデオロギー」である。
 上野千鶴子著『ジェンダーがわかる』(アエラ・ムック)によれば、ジェンダーという概念は「社会的に作られたものだから、社会的に変更できる」ことを主張するために生まれ、もともと男性詞・女性詞を指す文法用語に過ぎなかったジェンダーに新しい意味を与え、再定義して使用したものであるという。

意図的に作られた「セクシュアリティ」という概念

 上野によれば、「セクシュアリティという概念もまた、セックスと区別するために意図的につくられた概念です。最初『性的欲望』と訳されたこの言葉は、現在では…『性現象』と訳され…本能と自然にではなく、文化と歴史に属しています」。
 中川は「これは、性的欲望が本能や自然にではなく、文化と歴史に属するように見せかけるために『性現象(セクシュアリティ)』という言葉を意図的に作ったと白状しているものです」と解説している。
 『セクシュアリティ』という季刊誌を発行している過激な性教育団体関係者が作成した教師用指導書には、エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』が引用され、近代的家族は夫が妻を抑圧する「家内奴隷制」であり、男女の関係は「支配」「被支配」の抑圧関係にあり、「女性解放」とは、この家族の「属性の除去」にあるという。
 第3期フェミニズムはジェンダーという科学的根拠のない虚構の概念を「科学」と称して、「社会が男と女を作り上げた」と主張し男女の特性を否定する運動である。

「生殖否定の性的欲望こそが正しい」一フーコ『性の歴史Ⅰ』
 この第3期フェミニズムには、フーコーの絶対的な真理や科学的な知見すらも「権力」によって作られた「知」の一形態に過ぎない、と捉える「ポスト・モダン思想」が含まれている。
 フーコーは今日のジェンダー・フリー運動のバイブルになっている『性の歴史Ⅰ一知への意思』において、男女間の自然な性的欲望は一つの「知」に従った行動に過ぎないというレトリックを展開し、国家が人口を必要としたから家族と生殖に直結する男女間性愛を正常とみる考え方が「権力」によって「知」とされたにすぎず、生殖否定の性的欲望こそが正しいとしてLGBTこそ正常と捉えたという。
 母子衛生研究会が作った『思春期のためのラブ&ボディBOOK』の「ラブ&ボディ」は、フーコの「快楽と身体」を訳したもので、山谷えり子議員が国会で問題にし中学生への全国配布が中止された。
 脳科学の専門家である新井康充順天堂大学名誉教授は『脳の性差』(共立出版)において、性行動の男女差は、胎児期の脳がアンドロゲンに晒されるか否かで決定される」ことを明らかにした。
 科学的根拠に基づかない虚構の上に立脚した「性革命」イデオロギー用語として戦略的に展開されている「ジェンダー論」「セクシュアリティ論」を、この先天的に脳の性差があるという生物学的・医学的知見から根本的に見直す必要がある。JGBT理解増進法案についてもこの本質的・科学的視点から根本的議論を尽くすべきだ。


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