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蝉しぐれ

 病状が悪化。発作に悩まされ先月の半ばから丸一ヶ月以上も外に出ていなかった。闘病の身になってから10年目にもかかわらず、病に「慣れ」は無い。常に死を意識しながら全身全霊で生きている。
 さて、一昨日は梅雨明けしてお天気も良い週末だったので、どうしても外気を吸ってみたくなった。思い切って川の岸辺にあるオープンテラスのカフェに足を運ぼう。友人に頼んで車を出してもらい、なんとか念願は叶った。
 ゆっくりとテラスの椅子に腰をおろす。吹き渡る風。生きていることを実感しながら深呼吸。気づけば、辺り一面の蝉時雨の中。
 なぜかふと幼い頃の夏休みを思い出した。幼少のあの頃、まさか自分が将来は幾つもの病に襲われて苦しむことになろうとは想像もしてはいなかった。いや、想像できなくてよかったのだ。もしも少女期に「40代半ばからは死と隣り合わせの病身になる」とわかっていたならば、絶望していたに違いないから。
 「ここの店のアイスティー、味が薄くなったなァ」と友人が言う。
その言葉で私はハッと我に返り”今”という現実に引き戻された。
とりあえずまだ私は生きている。この地上での時間を無駄にはしたくない。
 私がこうして、何かしらを書き綴っている理由は、自分の半生を振り返ると同時に「書く」ということで苦悩や悲しみと不条理に立ち向かうためである。「人生というものと向き合いたい」と思ったからだ。
 蝉時雨…蝉は羽化してから一週間から二週間しか生きられないと聞いたことがあった。そのわずかな時間の中で蝉たちは何を思い死んでゆくのだろう?
そして私はこの世で何を残すことが出来るのだろうか。

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