シェアリングエコノミーのブッキング業務はAI化と高度対応化に二極化する

シェアリングエコノミーの会社でポジションペーパーを作った時に、「ついで」で作ったAI化への一般的ロードマップ提言を、ここに公開します。守秘義務要素を除いてみたので、ほぼすべてのシェアリングエコノミー業界でも使えるネタになったかな、というものです。

タイトルのとおり、シェアリングエコノミーのブッキング業務は、AIによる管理が可能だと思います。ただし、ブッキングの大部分が高度にAI化されるのと同時に、その対応ができないもの(たとえば、直前に弁当の数が減ってしまったから弁当屋さんに交渉して調節してもらう、みたいなものがいっぱい起こるような案件)は「超高度な対応」として人間がやらなければならなくなる、という二極化を想定しています。

前提の理解:ブッキング業務の流れ

貸し会議室のブッキングのワークフローは、以下の通り。これは、ほぼすべての貸し会議室がウエブで公開している「登録までの流れ」と同じです(ちなみにここではコンシェルジュが顧客の細かい会議ニーズに対応する高級型貸し会議室を想定しています)。

「顧客レベル」では、この流れに沿って会議室を借りる手続きを進めます。問い合わせをしただけで音信不通になるケースや(ほかでいいのが見つかったり、中断になったり)、仮押さえまで行ったけど料金や条件で折り合いがつかなくてキャンセルになったり、本予約(本契約)を結んだにも関わらず突発事態でキャンセルになり、キャンセル料支払いが発生した、というような「キャンセル」も、ステップごとに発生していきます。

実施する、しないにかかわらず、貸し会議室の営業サイドでは、仮押さえから本予約までの間に見積書などのやりとりがあり、本予約後は当日の設営内容の詰めがあり、実施後は請求書発行などの処理があります。ほとんどが定型的ですが、顧客の要望は十人十色なので、似て非なるやりとりばかりになります。

受け手である貸し会議室の会社(=シェアリングエコノミーの会社)から見ると、上記の手続きを顧客データベースで管理・シェアしながら見積書や契約書フォーマットにもとづき作業をしていくフローになり、まとめると以下のようなステップ構造になっていきます。

これを案件ごとに担当者が割り振られていますが(私が所属していた会社では)、ひとりあたり営業ベースで40~80件、設営担当ベースで50~90件をひとりで動かしています。1日あたり対応しなければならない件数は、0のときもあれば10以上のときもありますが、クレームが発生しないレベルではひとりあたり1日7,8件がいいところです。

ワークフローは、200前後のステップにより構成されている

ワークフローは、見積書発行、レイアウトのタイプを選ぶ、会場内でどんな備品を使うか、請求処理はどうするか、というおおまかな4つのフローがありますが、顧客ごとの要望に沿うようにすると200前後のチェックポイントができてしまいます。

まず、このチェックリストを自動処理化できるだろう、と思うし、実際多くのシェアリングエコノミー会社が自動化を導入しています。多くはオンライン上で決済までできる、というシステムを導入しているものでしょうか。ネット通販のしくみに近い感じですね。

自動化はできるが、それ以上の要望に応えるとなるとけっこうタイヘン

ただ、コンベンションや学会などは要望が多岐にわたり、この自動システムではカバーしきれないのが現実で、その場合は担当営業マンが問合せ段階からブッキングと見積もりづくり、当日手配などを人力で行い対処しています。

要望に沿えないケースもありますし、そえるケースもあります。当然その認識をすり合わせる必要がありますが、それが足らないとクレームになります。

クレームの根本原因は、

1.会議室側でできること、できないことをあらかじめはっきりさせておらず、それが顧客側とコンセンサスを取れていなかった
2.単純な報告、連絡、相談が顧客に対してなされていなかったので、期限が過ぎたり、ぎりぎりのところで対応を強いられてキレられる

というものが圧倒的多数でした。

これをなんとかできないか、というと、

対処1:熟練したコンシェルジュを多数つくる
対処2:さらに細かい自動化を行う

のどちらかを模索するのですが、、、それぞれに問題が発生しています。


担当者が育たずに辞めていく

私の所属していたシェアリングエコノミーの会社は、パートタイムがこの現場に大量投入されていました。契約上シンプルなものをパートタイムが担い、高度なものを社員が担う、というざっくりとした分担がありました。

程度の差こそあれ、同じワークフローの仕事を年収差最大2.5倍の環境で担うわけで、責任が同じなのに報酬にこれだけの差があると。。パートタイムの離職率は非常に高くなります。ある程度仕事のやり方と、この「事情」がわかってくると、辞めてしまいます。社員にしても同じで、受注業務である性格上、インセンティブも小さく、同じ仕事をえんえんとエンドレスにこなすことになるわけで、面白さに欠ける仕事であるのです。社員も1年に数人が辞めてしまいます。

また、人間の発展性、成長性という意味では、この仕事を退職まで続けることの意味が見いだせないというのが正直なところです。要望が多岐にわたるとはいえ、ブッキング業務のほとんどは受け身のルーチン作業です。「何年かは携わってもいい」と私は思ってしまったし、そう思ってしまった人たちが毎年何人も退職しているわけで、働く意義や魅力がこれ以上のばせるか、というと、そうでもない、と私は思ってしまった。

つまりは人が今後不足する残念な産業である、と思ってしまったのです。

自動化でできる範囲は限られている

同じワークフローとはいえ、人間がそれを処理する場合200前後のチェックポイントが発生しています。これを自動化対応するとなると、プログラミング開発で膨大な、もしかするとエンドレスの工数がかかります。新しい要望のケースが出てきたらその都度更新しないといけません。なんのための自動化であるのか、ということになりかねない。

実際に本予約までをお客さんサイドですべて行うことでの自動化をおしすすめていますが、問合せやクレーム発生率は業種中ピカイチで、(きめ細かい対応を標榜しているところにこんなシステムをいれるからというのもありますが)かえって担当者は疲弊している状況になっています。

対応ノウハウとナレッジを自動化するといったらAI化なのではないか

で、ふとおもったわけです。「これってAIじゃね?」と。これを営業仲間や、同じようなブッキング業務をしている別の産業の人に話してみたところ、「AIじゃないだろ」と反論されました。

まあ、考えてみれば当然です。自分がかかわっている産業にAIが乗り込んで来たら、「仕事なくなる!」って無意識に抵抗するわけでw聞いてみた相手を間違えました。

AIは、たしか、まずものごとの傾向を「学ばせる」ことからはじまり、それが終わるとケーススタディをこなして精度を高めていく、という開発フローだったはず。。。となると、この業務で足りていないのは、各担当者がケースごとに対応した事例集を中心としたコミュニケーション例だよな、ナレッジデータベースだよな、と思ったわけです。

ナレッジデータベース構築を提案

200のチェックリストをパスしていくには、単に設定された項目をクリアするだけではなく、「パスのしかた」にどのくらいのフレキシビリティが備わるかが、精度に影響してきます。

たとえば、チェックリストの項目で「条件を事前に伝える」という項目があったとして、50㎡の会議室と400㎡の会議室とでは、伝えなければいけない会議室の条件は違ってきます。この対応を人間が行うのとAIが行うのがほぼ同じ、あるいは人間以上にもってこなければならないわけで、そのためには人間がフレックスに対応した過去事例をどれだけ積み上げてAIに学習させるか、になるのではないか、と。

私はAIの専門家ではないので、このアマウントがどのくらいまでないといけないのかはわかりませんが、過去事例を共有することは人間のみの運営でもデータベース上重要であることは確かだと思うので、どちらにしても蓄積を行う必要が組織の中であることは確かだよね、ということです。

なぜAIを導入するといいのか?

ルーチン作業が多すぎる。これを人間がやりつづけることが、はたして生きる幸せとリンクしているんだろうか、と私は思ったから。AIとかロボットとか近未来の技術にかわってもらえるなら、こういうことなのではないか、と思ったから。

また、シェアリングエコノミーの会社は人材不足であることは当然です。相当の大企業でないかぎり人が集まる構図はうまくはできていません。加えて、ブッキング業務の過酷さから、せっかく対応スキルが身についても疲弊して辞めてしまうのです。大変さのわりに賃金が低い、とくにパートタイムは割を食ってる感は強く、私の職場でも2年半の在籍で軽く2桁の退職者がありました。同一労働同一賃金で給与面が改善されても、仕事内容は、要は同じことの無限ループなので、人間の成長が限定的で「つまんない」となる可能性があります。

作業を人間にずっと任せていていいのか。

それで人はほんとうに幸せになるのか。働き方改革は賃金の面をあわせるだけではなく、生き方そのものを改めて考え、進歩させていくものではないのか、と思ってしまったわけです。

ということで、自分の仕事がなくなるにもかかわらず、AI化を提言してみたわけで。今振り返ると何をやっていたんだろー、と思ってしまいます。

AIでこの人たちの仕事はなくなるのか?

YESでありNOだと思っています。

YESの人は、まず今の作業に居心地の良さを感じている人たちです。その仕事がなくなるので、シンプルになくなります。

NOの人は、AIでカバーしきれない超高度案件の専業担当者にアップデートする、というものです。

AIは、その開発構造上業務のほとんどをカバーできるだろう、という予測を立てていますが、たとえば複数の部屋を確保する学会や展示会などの大規模でかつ個別対応がことなるような案件は、AIでカバーしきれない要素がたくさん出てきます。その場で対応しなければならないことも多いものです。この担当グループを構成するメンバーに入るというものです。これは、社員1人あるいは2人の監督者をのぞいてパートタイムで対応可能だと思っています(ただし1案件あたり5から7人が分担して対応する)。

この仕事はルーチン作業をこなすものではなく、フレキシブルでクリエイティブな対応がここに求められるので、現状の報酬ではあまりにも低すぎます。責任も重大になるので現状の倍は出してもらわないと、と思います。

もともと高度な対応をしていた社員はどこに行くのか。この人たちは会議室を有効活用する企画提案営業の主担当として活躍してもらうほうがフィットしていると思っています。

たとえば、学会利用でも小規模開催をしているところなどが多数あります。その理由は発信力が足らない、立地が悪くて集客がままならない、というような外部要因によるものです。高級貸し会議室は駅から数分の立地を活用しているので、立地の良さなどで告知支援をPR代理店などとしながら、会議運営をプロデュースする役目を引き受ける一括受注のスタイルを開拓するのです。

まとめというかあとがき

とまあ、いろいろ書いてみましたが、ナレッジデータベースの構築という前段階の提言で社内で却下されました(笑)。わたしも営業生活に疲れていいたいことを言ってしまおう、というところで事前のコンセンサスなど根回しをしなかったし、そもそも対象者のほとんどがAI導入して別のことをしなければならなくなる人たちだったので、反対されたり、無視されたりするのは当然でしたw

まあ、せっかくまとめたので、どこかに公開しよう、となって熟考の末ここに出してみようかな、と(笑)。



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