【映画レビュー】「ゾンビの怒り」(1973年 スペイン)〜まだ『ゾンビ』というキャラクターが確立していない時期に作られたプリミティブゾンビ映画〜

【タイトル】
「ゾンビの怒り」(1973年 スペイン 96分)
監督 レオン・クリモフスキー
脚本 ポール・ナッシー
出演 ポール・ナッシー、ミルタ・ミラー、マリア・コスティ

【あらすじ】
 1973年に公開されたゾンビ映画。
 あるインドの術師が、死者を蘇らせて奇妙な殺人事件を起こしていく。


【感想】
 ゾンビの歴史は長い。

 偉大なるゾンビ映画界の巨匠、ジョージ・A・ロメロ(1940年2月4日 - 2017年7月16日)が生み出した「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968)がゾンビ映画の原点となり、その10年後に公開された「ゾンビ」(1978)によって、ホラー映画界に『ゾンビ物』というジャンルが確立。
 この二本の映画が、ゾンビ映画のエポックメイキングとなり『ゾンビ』というモンスターの基本要素が固められた。

・ゾンビとは死んだ人間や動物などが、なんらかの原因で再び動き出したモンスターである。生前の記憶や知識、理性はなくなっており、血肉を求めて彷徨うか、生前の習慣を行うかの単純な行動しかしない。言葉を話すことはなく、呻くだけ。

・食人衝動があり、生きた人間の血肉を喰らう。

・生きた人間がゾンビに噛まれたり、爪でひっかかれたりすると、傷口からゾンビ成分(ウイルス的な物)が入り、生きた人間であってもゾンビになってしまう(実質、死んだことになる)

・手足などがちぎれても動き続けるが、頭部(脳)を破壊されるか、首を斬られると行動不能になる。

 以上が、大まかなゾンビの基本要素です。
 なお、首を斬られても動き続けたり、知性があって道具を使用するなど、作品によっては上記のゾンビルール(?)が当てはまらないイレギュラーなゾンビも存在するので、その辺は作品に合わせて柔軟にゾンビをお楽しみください。


 今回、紹介する「ゾンビの怒り」は貴重なゾンビ映画です。
 術師が蘇らせた死人が『ゾンビ』と呼ばれ、ただ術師の命令に従って人を襲うという、我々の知るゾンビとは根本から違うゾンビが登場。
 フラフラと歩く、人に噛みつく、血肉を喰らうという行動はしません。

 何故、この映画のゾンビは、他のゾンビ映画のゾンビと違っているのか?

 それは、まだ『ゾンビ』そのものが世界中に浸透していなかった時期に制作されたため、ジョージ・A・ロメロが生み出した『ゾンビ』とは違ったタイプの『ゾンビ』になっているのです。

 更に言うと、本来のゾンビとはこの映画のように術師によって蘇り、操られているのが正しいゾンビだそうで。
 世界初のゾンビ映画と言われている『ホワイト・ゾンビ』(1932)に出てくるゾンビは蘇った死者ではなく、仮死状態にさせられた人間だったそうです。
 つまり、本来のゾンビとは術師によって操られている死者(あるいは仮死状態の人間)が本来のゾンビなのだ。

 しかし、天才ジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」によってゾンビのイメージが一新。
 更に「ゾンビ(1978)」の大ヒットにより、現在のフラフラと歩き、人に噛みついたりするゾンビのイメージが定着した……ということです。


 この『ゾンビの怒り』は、本来のゾンビのイメージで作られた貴重なゾンビ映画。
 肝心の映画の内容についてですが、まあ、それはどうでもいいでしょう。
 興味があったらで、ご覧ください。


 ゾンビの歴史は長い(二回目)。
 近年、ゾンビは多種多様化。ゾンビがテーマの様々な映画、ドラマ、アニメが制作され、今この瞬間も新たなゾンビが生まれ続けています。
 本作は、原典に忠実なゾンビ……つまりはプリミティブゾンビ映画である


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