見出し画像

「じいさんばあさん若返る」〜寿命を肯定する物語〜

りんご農家を営む、津軽のとある高齢夫婦。
齢80を過ぎ、かわいい孫にも恵まれ、あとはこのまま寿命を迎えていくだけの人生だった。

元々体の弱いおばあさんは、もう長くはなさそうだ。

妻のことは一図に愛し続けてきたが、若い頃から貧しい生活を強いていたため、新婚旅行にすら連れて行ってあげられなかった。
その唯一の心残りに涙するおじいさん…

だったが。

あれ?
ワシら、若返っでねが!?


若返りの力を得たことで、老い先短い夫婦が若い頃にできなかったことをやり遂げる物語。
新挑限・著「じいさんばあさん若返る」はこうして幕を開けた。

Twitterから始まった連載で、単行本の追加分エピソードを除けば今でもネット上で読むことができる。

舞台が弘前市近郊(場所は不明瞭)のため、弘前市に住んでいたことのある私にとっては当時を思い出させられる描写にも釘付けになった。
特に弘南鉄道についてはどうみても大鰐線だし、元西弘の民としては引っかからざるを得ないのであった(ノ∀`)

マンガの性質はドタバタ日常ギャグで非常に読みやすい。

でも、本筋には常に寿命の陰がちらつく。

若者化・老人化は、夢の中で寿命を示す砂時計をひっくり返すことで可能になる。でも、若者化すると砂時計そのものから砂(=命の残量)がこぼれ落ちる。どちらの向きでも同じだけ砂の残量が減ることになり、死ぬタイミングは変化しない。
そのため不老不死にはなれないが、二人はむしろこれに安堵する。彼らは、まもなく来る寿命そのものには覚悟が決まっているのだ。

じいさまの友達の葬式の回も、この年齢だと和やに友達を送れるような描写となっている。年賀状がほぼ生存確認に利用されることもお年寄りあるあるといえよう。

笑いの間に死の香りが漂い、そしてそれがお年寄りの日常としてあるのが、このマンガならではの良いところなのだ。

じいさま・ばあさまの美男美女ぶりだが、あれはマンガの表現だけじゃなく、リアルに津軽衆(ばあさまは青森ルーツの東京者だが)ならありそうなんだ。
津軽の人達、全体に線が細くて色白でしかも顔が良い。それでいて、お歳を召されるとちゃんとじさま・ばさまになっていくというw

方言はだいぶわかりやすく調整されていて、若者の標準語ナイズされた津軽弁に寄せているようにみえる。コテコテの津軽弁のばっちゃも出て来て、孫の未乃が狼狽えるシーンもあるが、あれは津軽の若者のリアルだったりするらしい。

最終回、夫婦についてはそうなるよな、と思いながらも、ああいう終わり方にするとは思わなかった。
最後まで見届けられて感無量だ。

「最終的にばあさまの方が1週間長く生きないのか?」というツッコミに関しては、さすがに神様も空気読んだんだと思う。

(トップ画像は5月に平川市役所で撮ったものだが、地元にお金を全く落とさないで終わってしまったので、そのうち改めて平川市に行く所存。弘前市の大学いもが売られる時期にもぶつけたい…)


アニメ版は、1クールで結末まで描き切る構成だった。

いくら1話1ツイート分しかない作品とはいえ、終盤を除き毎週更新されていた作品だ。4年以上のストックを消化するにはあまりに短かった。丁寧にやれば2クール分できるくらいの長さがある。

それで、特に寿命に関係する描写が足りてないというのが私には不満だった。
特に、将太の登場を巻いたからか、序盤に描かれるべき若返ることの重みの不足が不満だった。完全にそういうのを切ってドタバタに振り切ってしまっている印象がある。

映像と声の演技は最高だった。
映像に関しては、なんなら原作よりキラキラした絵柄で(笑)不満はまったくない。

アニメ化の前にボイスドラマが作られてはいるが、これは方言的な意味で出来が悪いため、ちゃんと指導が入って良かったと思う。あの津軽風方言に魂が入っていて、心地よく聴こえた。

指導は劇中ほとんど訛らない未乃役の方だというのは面白い(…と見せかけて、実はあのシーンへの布石もあったのだろう)。

声優陣も豪華(イニD回の本気度もおかしい)なだけではなく、かなり作品のイメージ通りといえるものだった。

これを1クールで終わらせるのは勿体無い。
というのはあるが、まあ、そういうアニメの方針であれば仕方がないといえる。

最も不満なのは仕切りの方だ。

アニメのプロモーションは頑張っていたのだが、田んぼアートを作る田舎館村を平川市と誤ってアナウンスするわ、平川市は「ねぷた」の地域なのにエンディングテーマが「ラッセーラー」になっている(ねぷたの掛け声は「ヤーヤドー」が正しい)といった、地元民にぶん殴られて欲しい問題が起きている

(ねぷたについては、穏やかな弘前市民ですらねぶたと一緒にされると激怒する程、雑に扱ってはいけない件なのだ。平川市や黒石市でも変わるまい。)

また、コラボりんご飴を青森県に店舗のない「ポムダムールトーキョー」で作るのもちょっとどうかしていると思った。

平川市役所の撮影スポットや弘南鉄道コラボのような力の入ったものはあるが、パネル展など目立ったものは都内に偏っているようにみえた。

プロモーションの数に対して質がイマイチなため、せっかく地上波で放送されている青森県内でも、どう捉えられているものか疑問はある。

現場ではせっかく良い作品を作っていても(映像や演技演出は☆5だし、脚本も粗はあるとはいえ☆3はつけられるだろう)、原作から外れた部分における津軽への解像度の低さと宣伝の仕方は☆1か2しかつけられないと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?