先行シングル・タイアップソングが多い場合のアルバムへの組み込み方

 King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』はタイアップ作が多く収録されているにも関わらず、繋ぎトラックの存在により、一つの作品と評価する感想が多かった気がします。タイアップ作品は、それぞれの世界観に合わせて制作されていたりすることが多く、アルバムの世界観を構成するにあたってネックになることが少なくありません。

 そんな中でもシングル集にならない魅力的なアルバムを制作するのはもちろんですが、そもそもアルバムに配置すること自体困難を極めます。様々な音楽におけるアルバムとタイアップ作品の付き合いかた、タイアップ作品の配置の仕方についてみてみましょう。


1.後のアルバムに収録させるケース~Mr.Children『深海』『BOLERO』~

 1994年9月1日リリースの『Atomic Heart』。それから2年後にリリースする『深海』までの間の2年間、自身最大のヒットとなった「Tomorrow never knows」はじめ多くのシングルをリリースしています。

・「Tomorrow never knows」→シングル曲。テレビドラマ『若者のすべて』主題歌。
・「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」→シングル曲。ノンタイアップ。
・「【es】〜Theme of es〜」→シングル曲。ミスチルのドキュメンタリー映画主題歌。
・「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」→シングル曲。ノンタイアップ。
・「名もなき詩」→シングル曲。テレビドラマ『ピュア』主題歌。
・「また会えるかな」→「名もなき詩」カップリング。NISSAN「ブルーバード」CMソング。
・「花 -Mémento-Mori-」→シングル曲。ノンタイアップ。

 大ヒットを重ねていた時期にも関わらず、意外にもタイアップソングは少ない印象もありますが、いずれも大ヒットしている楽曲であり、それぞれの楽曲に多くの人が思い入れがあったのではないかと思います。

 ミスチルは『深海』において、「名もなき詩」「花 -Mémento-Mori-」を除くシングルを収録せず、『深海』のタイトル通り導入トラックの「Dive」から内省的な楽曲が並び、コンセプト性が高くミスチルの中でも名盤の評されることも多い作品です。

 『深海』にヒットシングル曲が多く並ぶのは違和感があり、続く1997年3月5日に『BOLERO』が発売された際に、未収録のヒットシングルが収録されました。(なお「また会えるかな」はタイアップとはいえ、カップリング曲ということもあり、どちらのアルバムにも収録されていません。)


2.二枚組の一つのアルバムを制作~嵐『僕の見ている風景』~

 2008年4月23日に『Dream "A" live』をリリースし、更には、2009年8月19日にベストアルバム『5×10 All the BEST!1999-2009』もリリースした嵐。

 ベストアルバムで松本潤が主演した映画『花より男子F』主題歌や、櫻井翔がキャスターを務める日本テレビのオリンピックソングらシングルだけでも7曲を収録。

 そこから1年後の2010年8月4日にリリースされたアルバム『僕の見ている風景』。わずか1年の間にもかかわらず、当時の嵐の勢いはすさまじく、多くのタイアップ作品が生み出されました。この時期、嵐はメンバーがひとりずつリレーするように、各クールにドラマ主演を果たしていました。(放送するテレビ局関係なく、最終回に次のクールで、ドラマ主演するメンバーがゲスト出演することも話題となりました。)

「Everything」→au CMソング。
「season」→au CMソング。
「マイガール」→テレビドラマ『マイガール』主題歌(相葉主演)。
「時計じかけのアンブレラ」→テレビドラマ『0号室の客』主題歌(大野出演)。
「Troublemaker」→テレビドラマ『特上カバチ!!』主題歌(櫻井主演)。
「揺らせ、今を」→日本テレビ系オリンピック他テーマソング(櫻井キャスター)。
「Monster」→テレビドラマ『怪物くん』主題歌(大野主演)。
「ユカイツーカイ怪物くん」(大野智が怪物くん《怪物太郎》名義で)→テレビドラマ『怪物くん』挿入歌。
「To be free」→アサヒ飲料「三ツ矢サイダー」CMソング(櫻井出演)。
「movin'on」→JAL CMソング。
「空高く」→テレビドラマ『最後の約束』主題歌(嵐主演)。
「Summer Splash!」→JAL CMソング。

 このうち、「season」、「時計じかけのアンブレラ」、「ユカイツーカイ怪物くん」は収録されず、「To be free」は次のアルバム『Beautiful World』に収録されましたが、6曲は収録され、また嵐は各メンバーのソロ曲もアルバムに収録します。結果的に2枚組20枚の大作となりました。嵐の当時の勢いとエンターティナーとしての充実感を象徴するアルバムです。



3.2枚の別のアルバムを同時発売する~ももいろクローバーZ『AMARANTHUS』『白金の夜明け』~

 2013年4月10日リリース『5TH DIMENSION』から3年。2016年2月17日にアルバムを発売したももクロ。タイアップ曲が充実しつつも、3年アルバムを出せなかったももクロもまた、シングル曲、タイアップ曲多数の状況でした。

「GOUNN」→シングル曲。ノンタイアップ。
「ももいろ太鼓どどんが節」→「GOUNN」カップリング。バンダイナムコスゲームス「太鼓の達人」タイアップソング。
「泣いてもいいんだよ」→シングル曲。映画「悪夢ちゃん The 夢ovie」主題歌。
「堂々平和宣言」→「泣いてもいいんだよ」カップリング。映画『偉大なる、しゅららぼん』。
「My Dear Fellow」→「泣いてもいいんだよ」カップリング。2014年ニューヨーク・ヤンキース(当時)田中将大登場曲。
「MOON PRIDE」→シングル曲。テレビアニメ「美少女戦士セーラームーンCrystal」主題歌。
「月虹」→「MOON PRIDE」カップリング。テレビアニメ「美少女戦士セーラームーンCrystal」エンディング主題歌。
「夢の浮世に咲いてみな」→シングル曲。KISSとのコラボ。
「青春賦」→シングル曲。映画『幕が上がる』主題歌(ももクロ主演)。
「走れ! -Z ver.-」→「青春賦」カップリング。映画『幕が上がる』挿入歌。
「行く春来る春」→「青春賦」カップリング。映画『幕が上がる』挿入歌。
「Link Link」→「青春賦」カップリング。映画『幕が上がる』挿入歌。
「『Z』の誓い」→シングル曲。アニメ映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』主題歌。
「勝手に君に」→2015年、田中将大登場曲。


 このうち、前作と今作をつなぐシングルであるという理由で外された「GOUNN」を除く5曲のシングルと1曲のタイアップ。いずれもタイアップの世界観に合わせており、また、KISS、中島みゆき提供作もある、あまりにも多ジャンルの楽曲たち。

 結果的に、人の一生をテーマにした『AMARANTHUS』。寝て見る夢・ファンタジーをテーマにした『白金の夜明け』と対比的なアルバムをリリースすることで、様々なタイアップ、多ジャンルの楽曲14曲ずつ計28曲を2つのアルバムにまとめました。

 『AMARANTHUS』には、中島みゆきの他に、C&K、ANCHANG(SEX MACHINGUNS)、さだまさし、やくしまるえつこらの提供作。「白金の夜明け」には、KISSの他にORANGE RANGE・NAOTO、revo、MURO、堂本剛ら。多ジャンルに磨きがかかっています。

 さらには両アルバムに提供するヒャダインと清竜人の存在もあり別のアルバムながら、関連性の高い2作のアルバムとなりました。アルバムを引っ提げたツアーでは、各地で1日は『AMARANTHUS』、もう1日は『白金の夜明け』をテーマにしたライブが開催されました。


4.全体のコンセプトにより一つの作品を築く~King Gnu『CEREMONY』~

 King Gnuが、地上波の音楽番組に当たり前のように出演するようになり、かつ「白日」の大ヒット等タイアップも充実した中で2020年1月15日にリリースのアルバム。前作『Sympa』をリリースした2019年1月16日から、わずか1年で多くのタイアップソングをリリースし、そのタイアップソングが充実しているアルバムとなりました。


「開会式」「幕間」「閉会式」の存在により、まさしく『CEREMONY』。同年開催予定であった東京五輪も意識したと思われます。

「白日」→配信シングル。テレビドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』。
「Overflow」→家入レオ提供曲セルフカバー。
「飛行艇」→配信シングル。ANACMソング。
「傘」→配信シングル。ブルボン「アルフォート」CMソング。
「Teenager Forever」→ソニー「完全ワイヤレス型ノイキャンイヤホン WF-1000XM3」、「ハイレゾウォークマン“NW-A100シリーズ」CMソング(King Gnu出演)。
「どろん」→映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』。
「ユーモア」→スマホ用アプリゲーム「ロマンシング サガ リ・ユニバース」。
「小さな惑星」→Honda「VEZEL」CMソング。

https://music.apple.com/jp/album/ceremony/1538116458

 タイアップソングが多い中でも、1つのアルバムとして楽しめるのは、「幕間」以前の曲が歌始まり、「幕間」以後が楽器の音から曲が始まる点にもあり、その点でも統一性を感じます。『THE GREATEST UNKNOWN』と共に注目したいアルバムです。


 個人的には、サブスクの時代だからこそ、アルバムに先行シングルやタイアップを無理に入れずに、コンセプトに合う楽曲をアルバムに入れた方が良いのではないか、と考えてはいますが、先行シングルやタイアップソングをいかにアルバムに組み込んだかという視点でアルバムを聴くのも、それはそれで楽しめますし、その中でもアルバムである必要性を感じ取れれば、アルバムとして聴きたいと思えますよね。



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