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歴史の荒波にもまれたモノは色褪せない:「フランク・ロイド・ライト展」を事例として

2023年10月24日(火)、筆者は豊田市美術館で開催されていた「フランク・ロイド・ライト  世界を結ぶ建築」展を観に行った。

2023年は、フランク・ロイド・ライトが設計に携わった、帝国ホテルの二代目本館が完成して100年の節目の年であるという。


筆者はあまり建築に詳しくはないのだが、愛知県犬山市にある「博物館明治村」に、帝国ホテル二台目本館が一部ではあるが移築されている、ということは知っていた。

筆者は、愛知県豊田市に住んでおり、豊田市美術館の年間パスポートも所持している。

地元で、明治以降の日本に多大なる影響を与えた建築家の展覧会が開催されるのは、筆者としてはひじょうに嬉しい(期間中、何度も見に行くことができるため)。


館内は、ほとんど撮影禁止だったのだが、ミニマリズムとの関連で、筆者に強く訴えかける展示があった。

それは、「帝国ホテル二代目本館 客室のサイド・テーブル」(作品番号:4-30)である。

キャプション自体はほとんどなく、ライトがデザインし、実際に客室に設置されていたものだ、ということくらいしか読み取ることはできない。

けれども筆者は、このテーブルの前でしばし立ち止まり、じっくりと眺めずにはいられなかった。
100年か、それ以上前にデザインされたものとは思えないほど、魅力的なモノであると感じたためである。

天板だけを見ると重厚な雰囲気なのだが、それを支える4本の脚が非常に細く、全体としては軽やかな印象を受ける。

天板側面にのみ施された装飾は、正方形を基本のかたちとし、その中に幾何学的な文様が彫り込まれている。

なお、観覧した際にメモを取るのを忘れていたので、あくまで記憶をたどりながらの記述であることを付言しておく。
会期中に改めて観に行き、造形について加筆したい。

しかしながら、現代のホテルで使用されていても、全く違和感のないデザインであったことは間違いない。

洗練され、バランスの取れた形状と、厳選された装飾。
さらに、サイドテーブルとして十分な機能を果たす、天板のサイズ感。

機能性と審美性を同時に兼ね備えた、まさにミニマルなモノである。

このサイドテーブルに限らず、過去に作られたさまざまなモノは、今日に至るまでさまざまな時代の、さまざまな人々の目に触れてきただろう。

そのような、いわば「歴史の荒波」にもまれるなかで、機能性や美しさのバランスが取れていないモノは「定番品」とはならず、次第に表舞台から姿を消していく。

定番品になれなかったモノたちは、過去に留め置かれる。
そして、ある特定の時代を映し出す「資料」「史料」として、博物館や資料館などに「収集」される。

ときには、これらに対し、ノスタルジアを感じさせるモノという、新たな価値が付与されることもあろうが、「現代にそぐわないモノ」というおおまかな意味づけは、史料・資料であっても、ノスタルジックなモノであっても、変わることはないだろう。


こうした「審査」を経て、それでもなお現代に受け継がれているモノたちを、私たちは「定番アイテム」と呼ぶのではないだろうか。

いっときの流行や価値観に左右されることのないモノ。
平凡に見えるかもしれないが、間違いのないモノ。
機能的でありながらも、美しい。

こうした特徴をもつ「定番品」を選び、それを所有するということは、ミニマリストを志向する人に向けた情報では、必ずといっていいほど取り上げられているはずだ。

ライトがデザインした、帝国ホテルのサイドテーブルも、(すくなくとも筆者には)現代でもその価値やデザインの素晴らしさが失われていない、定番アイテムに見える。

衣服を始め、歴史のなかで作り出されてきた「定番アイテム」については、ミニマリズム関連書籍などにおいてすでに多数の言及があるため、ここではこれ以上踏み込まない。


以上、「定番だからこそ美しい」「歴史が選別してきたモノは、間違いのない
モノである」といった言説を、筆者の実体験から補強してみた。

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