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ああ、五稜郭公園

夕飯に遅れると母ちゃんに怒られる。
で、うす暗くなった公園のベンチの
人影に声をかけた。

「おじさん、今、何時? ねえ、教えてよ、おじさん」
返事がない。

そこで、おじさんの背後から正面にまわった。
僕は見た。初めて見たのだ。
 
男と女が接吻していた
今、考えても、かなりなディープキス。

まさしく五稜郭                           2021

小学生のころ、遊び場のひとつが、五稜郭公園
夕暮れまで洟たれ小僧は、あそびに遊ぶ。

いまでも表門の橋をわたる時、
そこから堀に飛びこんだ夏を思いだす。

あのころ、もっぱら犬かきか平泳ぎ、いまもクロールはにが手。
泳ぎ方なんかどうでもいい、
暑ければ近くの五稜郭のお堀にかよった。

桜満開  五稜郭公園                        2014


そのころの冬は、寒さがきびしく氷があつく張り、
お堀はスケート場に早変わり

用具も防寒服も貧弱。寒さにふるえ、
霜やけで手足が痛がゆくなりながらもスケートに熱中。

スケート場以外は、氷が割れるおそれで滑走禁止だった。
 
餓鬼どもは、駄目といわれれば、やったみたくなる。
薄い氷にこわごわしながらお堀を一周。
探検隊気取りで、エイエイオー!

お堀での泳ぎも滑りもご法度となってから久しい。

昔の我を見るかのよう                        1992


 
森鷗外の作品に、
発禁処分となった短編小説

『ヰタ・セクスアリス』がある。

タイトルは、ラテン語で「性生活」の意。
鷗外の6歳から25歳までの性的な自伝作品だ。

接吻シーンを描いた映画館の看板に
心をときめかす小学生には、
思いがけず出会った公園の接吻は、
まさに驚天動地であった。
 
興奮して眠られなかった夜を、いまでも覚えている。

五稜郭公園は、遊びの思い出とともに、
我の「ヰタ・セクスアリス」の
一ページを飾ったのだ。


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