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わび寂びライカ EU

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わがカメラ事始めは、30年ほどまえのイタリアの旅。出発まぎわに「写真の撮り方入門」を手にした泥縄そのものであった。 そんな初心者が、プロ仕様のピントも露出も手動のニコンF3で撮っ…
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2023年2月の記事一覧

読書する女

分厚い本を読んでいた金髪女が 顔を上げたとたん、視線が合った。 飾り窓の中から秋波を送られたか。 ドイツの思索家ベンヤミンの至言が、 頭に浮かんだ… 「本と娼婦は、ベッドに連れこむことができる」 ハンブルクのレーパーバーンは 「世界で最も罪深き1マイル」といわれ、 昔からの大歓楽街。 すぐに「飾り窓」を連想する向きもあろうが、 健全なバー、ライブハウスやストリップ劇場が 軒をつらね、ナイトクラブめぐりの観光バスまである。 だが、しつこい客引きが表通りにたむろし、 鼻の

パンツの洗濯

ミラノのホテル。 ホテルのクリーニングが 間に合わなかった。 洗ったパンツを 振りまわして水を切り、 ドライヤーで乾かすこと3、4分。 まだ生乾きのパンツをつけ タクシーで空港に急いだ。   綿パンの尻にうっすらと 地図模様が浮かんでいる。 バッグで尻をかくし蟹の横歩きで、 ファッションの街から 水の都ヴェネツィアへ 機上の人となった。 旅の準備は、 パンツの枚数を先ず決める。 こまめに洗濯すれば、 数は少なくていい。 浴槽にぶちこみ足でふみ洗いする。 バスルームは、

カフカの墓

晩秋のプラハ。 旧ユダヤ人ゲットーのあたりを歩きまわって フランツ・カフカの『変身』が浮かんだ。   若いセールスマンのザムザが、 朝、目覚めると毒虫に変わっている自分に 気づく不気味な小説。 「これが僕の高等学校、むこうの、 こっち側をむいた建物の中に僕の大学、 そのちょっと先の左側が僕の勤め先」と カフカは、小さな輪を二つ三つ描き 「この中に僕の一生が閉じこめられている」 と旧市街広場を見下ろしながら語っている。 結核のため世を去るが、 41年の生涯、 ほとんどプラ

プラハの若いふたり

古都の香りただよう プラハのビヤホール。 口あたりが良く且つ重たい本場もの ピルスナーを ごくごくと喉に流しこんだ。 そこへ栗毛の若い女性が 声をかけてきて 「日本からいらっしゃった方ですか」 今の日本人が忘れたかのような 整った日本語、しかも美人で 聡明な雰囲気の持ち主だ。 カレル大学哲学部で 日本学専攻の三年生、名はユリエ。 日本人みたいな名前でしょ と笑った。 彼女は、 なんと三島由紀夫の ファンだという。 『金閣寺』など二〜三冊、 むかし読んだきりで、