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「ひとり飲み」は「ひとと飲み」

東京の阿佐ヶ谷という街に住んで、長い月日が流れた。
飲み屋さんが何百軒もある、呑兵衛の街だ。
今年の春と秋は、残念ながら中止になってしまったが、
阿佐ヶ谷では「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」というイベントが開催されている。
参加者は参加料を払うと、100店近い参加店舗で一杯無料で飲めるイベント。
一杯ずつ巡って、お気に入りのお店を探すというわけだ。
参加しているお店の人たちは、一杯飲んで無料で出ていく客を
「いってらっしゃい」と言って、送り出す。こんな街、なかなかない。
このイベントには、ポスター制作で関わっている。

約束しない、待ち合わせ。

このキャッチフレーズは、阿佐ヶ谷を象徴した一文だと、我ながら思う。
ふと、飲み屋さんを訪れると、
店主や店員さんがいるし、顔なじみの常連さんがいることもある。
約束なんかしなくても、誰かに会える。
阿佐ヶ谷の「ひとり飲み」は「独り飲み」ではなく「ひとと飲み」なのだ。

阿佐ヶ谷飲み屋さんあるある

阿佐ヶ谷の飲み屋さんで飲んでいると「あるある」な出来事に出会う。
①隣に座っている常連さんらしき人に声をかけてみたら、その人も初来店だった
②たまたま席が隣になった仲の良い二人組に声をかけられて話していたら
 その二人も実はひとりずつ来ていて、さっき仲良くなったばかりだった
③大人になって友達ができると思わなかった、という言葉に共感できる
④飲み屋さんで知り合った長い付き合いの「友達」。でも、あだ名しか知らない
⑤ひとりで飲んでいたのに、いつのまにか誰かと飲んでいる

「あるある」を挙げはじめたらキリがないのだけど、何が言いたいかというと、
店主や店員さんはもちろん、飲んでいる人たちもみんな、
「ひとり飲み」の人に対し、ウェルカムモードな街なのだ。
街全体で「ひとり飲み」を大切にしている雰囲気がある。
だから、男性でも、女性でも安心してひとりで飲めるのだ。

少しの勇気が人生を変える。

はじめて入る店は、誰でも緊張する。それは、飲み慣れている人も同じだ。
でも、少しの勇気で人生が変わる。
そんなことをいうと、大げさかもしれないけれど、事実だ。
会社帰りにまっすぐ家に帰るのではなく、
ふと、飲み屋さんに立ち寄り、店主さんと話したり、
たまたま隣に座った人と意気投合したり、趣味があったり。
「買わなきゃ当たらない宝くじ」じゃないけれど、
入店してみないと新しい世界は広がらない。
実際、私も、飲み屋さんで知り合った人とテニスやフットサル、
野球などのスポーツを頻繁に行っているし、
BBQや花見などのイベントがあれば積極的に参加する。
テニスに至っては、一声でたくさんの人が集まるほどになった。
大人になって、仕事以外で、こんなに知り合いが増えるとは思っていなかった。

「ひとり飲み」は「ひとと飲み」

この街にいま「ひとり飲み」を文化にしようという動きがある。
繰り返しになるが、阿佐ヶ谷の「ひとり飲み」は「ひとと飲み」なのだ。
あくまでも「独り飲み」ではない。
その日、その時、その店にいた人と飲む。それが阿佐ヶ谷スタイル。
そうやって、じわりじわりと、知り合いが増えていく。
もちろん、誰とでも話さなきゃいけないわけではないし、
ムリする必要など全くない。
その辺は、それぞれの店主たちも目を光らせているのでご安心を。

阿佐ヶ谷の「ひとり飲み」は「ひとと飲み」。
こんな気持ちで、阿佐ヶ谷で飲む人が増えたらいいな、と思う。
きっと、あと少しで、前のように堂々と「乾杯」できるようになる。
そう信じたい。
この状況下においても、気をつけながら、
新しい出会いの「乾杯」があっていいと思う。
「乾杯」の一言は「ひとり飲み」を「ひとと飲み」に変える魔法の言葉。

阿佐ヶ谷の街では、
今夜もきっと、誰かが待っている。
ぜひ、こんど、
約束しない、待ち合わせをしましょう。
まだ出会っていない、誰かと。

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