映画『NOPE』感想・小ネタ(ネタバレあり)
40分前に劇場で見てきて、興奮冷めやらぬ中書いています。ネットの情報を一切入れない状態で書いているので見当違いな解釈や思い込み多めかも。気づいた人はコメントください。必要に応じて修正・追記予定です。
ネタバレされたくない方は鑑賞後にお読みください。
現代人は視線の持つ力を軽んじすぎないか?
古来、視線とは重要な意味を持っていた。「邪視」という言葉に表されるように、視線にはなんらか呪術的な力がこもり、見られるだけで呪われることを恐れていた時代もあった。また、眼球の仕組みが解剖学的に理解されていなかった時代には「我々の視線に精神的な物質が乗っているから我々はものを見ることができるのだ」と考えられていた時代もあった。物語類型として「見るなのタブー」もある。現代を生きる我々も「目は心の窓」という言葉を素直に受け入れることができる。それくらい、視線というのは本当はおそろしい力を秘めている。
劇中で兄と妹の間で交わされる「I see you.」のジェスチャー。これは彼らの美しい思い出を象徴するジェスチャーとして描かれており、兄と妹の信頼関係を示す要素として用いられている。
一方で劇中でもたびたび登場するように、馬をはじめとする動物にとっては直接視線を合わせることは挑発であったり動揺させられる行為だ。「円盤が人を襲うのは、視線を合わせられて縄張り意識が刺激されているのではないか?」という仮説が劇中では提示され、実際主人公たちは視線を合わせないようにすることで危機を脱することができる。
このように、視線というのは本来的には良き方向にも悪しき方向にも働く、強力な力だ。しかし、現代において視線はどう扱われているだろうか。あらゆる人がもつスマートフォンにはかつてないほど高性能なカメラが搭載されており、そしてそれを知ってか知らずかスマートフォンメーカーは年々カメラをアップグレードしつづけている。
※完全に余談ですが、現在並行して復活上映中の『アバター』でも“I see you.”という言葉が互いの信頼関係を示すフレーズとして用いられていますね。
目の前で誰かに危険が迫っているにも関わらず、スマホで撮影せずにはいられない人たち。自らをさらすことなく、一方的に対象を観察し続ける人たち。こういったある意味視線の濫用的な構造が現代ではありふれている。現代ほど「視線・注目」を集めることが重視されると同時に軽んじられている時代はないんじゃないだろうか。
「視線」の観点で映画「NOPE」を見ると、いろいろな小ネタが発見できて面白かったので、メモ的に書いておきます。
気がついた小ネタ
エイリアンのいたずら
「すわ地球外生命体のお出ましか」と緊張が高まったシーンで、主人公がI’m geteting out of this.(俺は抜けるぜ)と言いながら、後ろ手から取り出すのは銃ではなくケータイのカメラ(僕はこのシーンでずっこけた笑)。
たぶんこれは意図的にやっていて、shoot(銃撃)ではなくshoot(撮影)でことをおさめようとすることをおもしろおかしく描いている気がする。もっというと、目の前に危険が迫っているのにカメラ撮影に走らずにはいられない現代人あるあるをわかりやすく皮肉っている気がする。
監視カメラ
一方的な視線の象徴であり、円盤は監視カメラには決して映らない(一方的な視線を拒否する)。
電気屋のエンジェル(円盤は「天使」である?)
エンジェルは電気屋のにいちゃん。円盤を撮影するための監視カメラの設置を手伝ってくれるものの、最初は勝手に監視カメラの映像を覗いたりして、視線を軽んじている。
ちなみに、別れた彼女の自慢をしてくるちょっと痛いやつ。その彼女のモデルで、「なんとか放送の番組か何かに出演するんだ」という自慢シーンが入るんですが、これもカメラっていう視点を通すと権威性が生まれてしまうことへの皮肉なのかも?と思った。
映画終盤では、円盤に捕食されるも吐き出される。表層的には「ビニールシートと有刺鉄線にくるまれていたから食べられなかった」という演出なんだけど、たぶん、これは 「円盤は天使である」 ことの示唆だと思っています。つまり、
円盤も所詮は動物だ(劇中のセリフ)
動物は原則、共食いをしない(普遍的事実)
円盤はエンジェルを吐き出した(劇中の事実)
円盤はすなわち天使ではないか?(推測)
あと見た目が、ちょっと前に流行った “Biblically accurate angel” に似過ぎているという点も「円盤は天使である」と考える理由。(気になる人は検索してみてね)
ホルスト(カリスマ・カメラマン)
端的に言うとイカロス。一度、円盤の姿をカメラにおさめたはいいものの、なんか変なスイッチが入ってしまい「空前絶後のショットを撮るんじゃあ」みたいなノリで自分をおとりにして撮影しながら捕食されてしまう。なおフィルムは消失した模様。
有名な曲「木星」が収められている、組曲『惑星』のグスターブ・ホルストにちなんで名付けられているんじゃないだろうか。
※円盤による捕食の再現劇を行うテーマパークの名前「Jupiter’s Claim」が作中でしつこいくらい登場する。円盤の正体が「木星からやってきた生命体でした」という裏設定があったりするのかな。ガス惑星である木星からやってきたのであれば、大気中を自由自在に動き回り、地球の雲を操って身を隠す習性も納得いく気がする。
銀ヘルメットの男
冒頭で馬をあわてふためかせた銀ボールを連想せずにはいられない造形。ダフトパンクみたいで好き。銀ボールが馬を動揺させたように、銀ヘルメットが円盤を動揺させた構造が相似。
バイクで事故ってもなお「その姿をカメラに収めろ」という姿はこっけいだし、登場人物の中でもっとも視線の力を軽んじている。
地面に突き刺さるレコード盤=眼球のメタファー?
円盤が吐き出したレコードが落ちてきて、主人公の妹が傷つけられそうになるシーンがあるんだけど、レコードの形状(同心円)が眼球を意識していたら面白いなと思った。CDでカラスを追い払おうとすることもあるし、同心円状のものが眼球のメタファーとして用いられてたらちょっとおもしろい。
アイススムージーマシンに書かれた“ICEE”
視線がテーマだからこそ、この表記にしたと思う。もちろん、icy(氷みたいに冷え冷え)ともかかっているけど、わざわざ「ICEE(≒ I SEE)」という表記を選び、さらに正面を向いたキャラクターの絵を添えているので確信犯では。
まだよくわかっていないこと
NOPEのタイトル。「目にしているのに見なかったことにしているんじゃねえ!」っていう監督のメッセージ? 。実際、主人公が頭の上に迫っている円盤を見て、絶望しながらドアをそっ閉じするシーンで“Nope.”って言ってるし。
日本版ポスター。盛大にネタバレじゃねえか
チンパンジーが大暴れするシーンで、直立している靴がすごく不気味だったんだけどあれはなに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?