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中級管理職が読む本

はじめに

この本は前作の『一般社員から初級管理職になるための本』の続編として、初級管理職から中級管理職を目指している人に向けて執筆しています。

中級管理職というと一般的に課長クラスとされていますが、小売店や店舗などでは主任・副主任なども中級管理職として扱われている企業もあるでしょう。

初級管理職とは業務の内容や責任もワンランクアップし、課やチームの責任者というポジションに就いている人は多いのではないでしょうか。

こういったポジションに就くとこれまでのように自分を指導してくれる人も少なくなり、時には上司の代わりに決断を迫られる際に自分の考えや言動が正しいのかどうか迷ってしまう場面も出てくるのではないでしょうか。

そこで今回、主任・副主任から課長クラスといった中級管理職に求められる心構えとスキルを盛り込んだ内容で執筆することとしました。

中級管理職・中間管理職というと幅広すぎますのでここでは役職名に限らず、「部下にも管理職がいて上司にも管理職がいる」といったポジションにいる方に向けて書いていくことにします。

初級管理職に就いている人はこの本を読むことで管理職というものをより深く知ることができるでしょう。ぜひ最後までお読みいただき自身のマネジメントスキルを高める一助になれば幸いです。

心構え編

中間管理職の役割

それではまず中級管理職の役割を確認していくことにしましょう。

中級管理職に何を求めているかは企業によって様々だとは思いますが、一般的には自分の担当している業務の責任者というポジションにあると思います。

初級管理職に求められたことがチームで仕事をするという意識ということに対して、中級管理職はチームで進める仕事を作り出すことが求められるのではないでしょうか。

もちろん部長や店長といった所属長の指示によって仕事は生まれるものだと思いますが、1から10まで指示を待っていては所属長本来の業務に時間を割くことができません。

所属長の業務とは業績に直結する戦略の策定や競合と戦うためのリサーチやマーケティングなどです。この業務は文字通り会社の命運を分けるような最重要項目であるため、時間も労力も膨大になります。

そんなときにチーム内の問題や課題に時間を割いていては競合相手に先を越されてしまいます。そこで中級管理職がチーム内のマネジメントを担い、所属長のサポートをしつつチームの戦力を高めるというのが本来の役割といえるでしょう。

特に業務を進めていく上で見えてくる問題に対して、積極的に改善提案をし業務の効率化を進めていくことも重要な役割のひとつです。そうすることでチーム全体で仕事を進めていくスピードも高まり、競合を出し抜くことにつながります。

上級管理職の補佐

上級管理職のサポートというのは具体的には業務の管理と部下の管理です。業務の管理とはスケジュールやプロジェクトが予定通りに進んでいるか、進んでいなければネックとなっている問題の解決などです。部下の管理とは初級管理職の担っている部下の育成や業務改善などがスムーズに回っているか、また正しい方向に向かっているかなどをコントロールすることです。

こうしたサポート業務を通じチーム全体の生産性を高めることで、チーム目標を達成できる確率やスピードが高まっていくのです。

 業務管理

業務管理のポイントは目的と重要性の理解からです。よく「PDCA」と言われる業務管理における手法の解説を見ることがありますが、その前の段階でそもそもの目的や重要性を正確に把握しているかという点を見直すことも重要です。

なぜその業務が行われているのか?そしてそれはどの程度重要なのかを知ることで改善へのヒントが見つかります。目的は状況に合わせて変化する場合もありますので、今もその目的を果たすことが必要なのかを整理してみると意外に惰性で行っているだけというケースも珍しくありません。

また目的を果たすことに集中しており、他にも効率のいい手法があるのにずっと非効率なやり方で行っているというケースもあります。今は無料で使えるツールやサービスが充実していますので場合によってはそういったものに切り替えてより効率よく目的を果たす手法を検討してみるということも中級管理職の役割です。

そうやって一つひとつの業務を見直し改善していけば目標達成に割ける時間と労力も増やすことができます。したがって業務管理というのは常に問題意識や生産性向上を念頭に置き、日々の業務に向き合うことから始まるといってもいいでしょう。

また社員や初級管理職からの提案の中には業務フローの見直しに関連するものが多い傾向があります。多忙を極める中級管理職にとって、取るに足らない提案と感じてしまうような些細なこともありますが、よりよい業務プロセスやフローによって業務の効率や生産性が高まれば自ずと社員の満足度も上昇し個々のパフォーマンスもアップします。

そうした提案を無下にせず改善のヒントとして耳を傾けてみてください。

ただし注意しなければならない点があります。それは業務管理を進めていく上で優先順位をしっかりつけるということです。

いくら前から言われている提案であっても、今優先する課題なのかをしっかりと見定めて判断することが重要です。例えば今はコロナ禍で業績が下がっているにも関わらず、業績アップに関係のない過去の資料の整理などに時間や労力などのコストを割いていいのでしょうか。

当然資料の整理も大切な仕事には変わりありませんが、今すべきことなのかを考えるともっと優先するべき仕事はあるはずです。中級管理職はいくつもの課題に対して正しく優先順位をつけて一つひとつを解決していかなければなりません。

そういったケースで忘れてはならないのは提案者に対してしっかりケアをするということです。

あなたにもせっかく提案したのに取り合ってもらえなかったという経験はありませんか?そんな経験をしてしまうと次からは提案をするのが嫌になってしまいますよね。

だからこそ提案者に対しては、今は他に優先しなければならないことがあり、それが済んだら改めて取り掛かる旨を伝えるといったケアをするべきです。そうすれば提案者も納得の上、今やらなければならない業務に積極的に協力してくれるでしょう。

✔ 社員管理

社員管理というのは大きく区分すると

1. 採用・労務
2. 育成
3. 評価

と分けることができます。

このうち採用・労務は多くの場合は人事部の仕事になるかと思いますが職場単位で採用・労務を行うケースもあります。

まず採用・労務についてはご存知の通り採用面接から入社の手続きまでのことです。

採用・労務における重要な点はまず採用面接の際にどういった人材を採用するべきかという点です。

結論からいうと「会社の経営理念に共感している」人です。

よくあるケースとしては以下のようなものがあります。

・フルタイムで働けるから
・土日祝日もOK
・経験者

こうした方は採用されやすい傾向にありますが、これだけで採用してしまうと後々苦労してしまうというケースはよくあります。

日本の企業は簡単に社員を解雇することはできませんので、採用の段階で自社にマッチした人材かどうかをよく見極めるということは非常に重要なことです。

新卒面接などでは当然会社のことを下調べしてくる面接者が多いと思いますが、そういった場合には経営理念に対してどういった形をイメージして自分の仕事に置き換えるのかという点を確認するといいでしょう。

次に育成については、重要なポイントは2つです。

指導とは「人間教育」と「技術面への助言」から構成される

これは元プロ野球監督の野村克也氏の言葉です。

掘り下げるとまず「人間教育」を通して自立から自律へと態度が変化していきます。

自律とは自らがどうあるべきかを考えコントロールできる状態のことです。

そうした状態になることで初めて相手の立場に立って物事を考えることができ、周囲と協調・協力していくことができるようになります。

これによって技術面への助言をしたときに、自分自身で多くに気づくことができるようになるので成長速度も飛躍的に高まるはずです。

つまり指導育成においてもっとも重要なことは人間教育であるということです。

管理職として部下の育成については業務的なアドバイスよりも人間教育を強く意識するべきでしょう。

最後の評価においては企業ごとに評価制度や人事考課などがあるものと思います。

多くの場合は外部コンサル監修のものや外注のものを導入していると思われますのである程度内容はしっかりしたものが多いでしょう。

しかしそれを使って最後に評価するのは人間です。

個人の好き嫌いや自分の考えに共感しているかどうかという視点がどうしても入ってしまうことがありますが、その点に注意して評価しなければなりません。

また一言に評価と言っても大きく2つの評価方法があります。

「絶対評価」と「相対評価」です。

絶対評価とは目標に対してどうであったかを評価するもので相対評価は他者と比較してどうであったかという評価基準です。

もう少し掘り下げて例を出してみます。

評価期間中の目標が設定されていてその達成率によって評価されるのが絶対評価。

全体の上位○%までがS評価、上位○%までがA評価というのが相対評価です。

もちろん双方にメリットとデメリットがあります。

絶対評価のメリット・デメリット
○ メリット
・周囲の成績に左右されず本人の達成度合いで評価されるため納得感が強い
・明確な評価がしやすい
✖️ デメリット
・数値化できない目標の場合、評価が難しい
・過程を評価しにくい

また経営層としても昇給資源をどの程度確保すれば良いのかを予測しにくいという側面があります。

仮に全員が個人の目標を達成した場合には予定以上の資源が必要が必要になる場合もあります。

また過程の評価が難しいため市場環境が厳しい中では結果が出にくく、その過程でどれだけの努力や工夫があったのかという点が見えにくく、将来的な期待を測りにくいという側面があります。

相対評価のメリット・デメリット
○ メリット
・評価者によって評価が左右されにくい
・競争原理が働きやすい
✖️ デメリット
・適正な評価がしにくい
・チームの不和につながりやすい

経営層としては昇給資源の予算を確保した上で枠に当てはめればいいのでそうした点ではメリットになります。

しかし業績が厳しくとも上位に入れば高評価を得られるため個人の成長を適正に見極められないというデメリットは長期的には決して小さくない課題とも言えます。

重要なことはどちらがよいかではなく、どちらも理解した上でバランスの良い評価を評価者である管理職が行うことだと思います。

今ある人事評価制度に合わせてバランスのいい評価を意識して部下の方の納得を得られるように取り組んでください。

会社組織とは

次に当たり前すぎる前提を改めて理解しておきたいと思います。これは初級管理職向けの本に入れるかどうか迷った項目ですが、初級管理職が指導する相手は一般社員です。一般社員に対して甘えは許されないという態度で指導に臨むとうまくことが進まないケースも増えています。

したがって初級管理職に指導、またさらに初級管理職が一般社員へ指導する際の前提として理解しつつ、うまくバランスをとって指導に反映させていくということが重要になるので、あえてこの中級管理職向けの本に入れることにしました。

それは「会社組織は営利団体である」ということです。

もう少し掘り下げていうとボランティアや学校ではないので甘えは許されませんよということです。企業は顧客から利益をいただきながらまた新たな売上(顧客満足)を追求しつつ成長していきます。その過程で顧客満足の追求に関係のない取り組みやミスは本来は許されないということを理解しておくべきです。

こう書くと厳しすぎるかもしれませんが、社員指導や営業活動に於いてあまりにも簡単に妥協を許している場面を目にすることが多くなってきました。中には遅刻してもお咎めなしというケースもあるようですが、そうしたケースは真面目に取り組んでいる人の士気を下げますので、ミス自体は小さくとも、それをどう対処するかという管理職の対応次第で社内のストレスが左右されます。

当然パワハラや暴力などは論外ですが、社会人として相応しい教養を身に着けてもらうのは指導の一環と言えるでしょう。

また営業活動でも同じようなことが言えます。営業活動にはある程度ノルマや目標が設定されていることと思いますが、色々な状況から未達成が当たり前の状態になっているケースも少なくありません。経営層としても達成はもちろんして欲しいけど、今の状況では無理と分かっているから温情で何も言わないという人も多いのではないでしょうか?

現場を預かるリーダーとしてそれでいいのでしょうか。

温情に甘えているだけでいいのでしょうか。

否、せめて自分の責任において達成するべきラインをしっかりと決めて少しでも業績改善に向けて取り組むべきことを推し進めていくべきです。

「できることを全力で」というようなスローガンを聞いたことありませんか?それは一見すると正しいことを言っているようにも聞こえますが、本来は「すべきことを全力で」推し進めるべきです。できることだけやっていて業績が上がるならそれでいいかもしれませんが、そうでないのならやっていることが間違っているのです。

こうした意識はむしろ上級管理職が持つべき姿勢ですが、上級管理職を目指すあなたにも今の内からそうした戦う姿勢を持ってほしいと願っています。

責任とは

次に責任について解説することにします。責任という言葉は非常によく聞く言葉ですが、では責任とはなんでしょうか?正しく説明できる人はいますか?

ニュースなどでよく見る責任を取って辞任しますと頭を下げる場面がりますが、ミスをしたら職を辞することだけが責任でしょうか。これは引責辞任と言われる処分ですが、もちろん相応しい人をそのポジションに就けるためにという意味では正しい処分とも言えますが、本来責任は取るものではなく果たすものであると私は思います。

あなたに与えられた職責を果たすためにもここで責任というものの理解を深めてください。

ここでは3つの責任について解説していきます。それぞれ「遂行責任」「説明責任」「賠償責任」についてです。日本では責任という言葉が複数の意味を持っているようなニュアンスですが、英語では明確に異なる3つの責任があります。

それぞれ簡単に説明すると

Responsibility(遂行責任):役割を担う上で必要なスキルを習得する義務
Accountability(説明責任):事実を正確に報告する義務
Liability(賠償責任):自分の権限の範囲で問題が起きた際に解決する義務

と言い表すことができます。

遂行責任では与えられた職責を果たしていくために必要な能力を身につけて業務を進めていくことがあなたの責任であるといっています。そしてその職責を果たす中で必要な報告を正確にする義務も職責を預かる上で重要な責任です。その報告を基に次の一手を決めていくのが上級管理職の役割となるわけですからあなたの報告次第で業績は大きく左右される可能性も十分に秘めています。

また、賠償責任は車の事故などでよく使われる責任の在り方ですが、仕事に於いて会社へ与えた金銭的な損害をあなた一人が賠償するケースは不正をしたなどのことでなければほぼありません。したがってここでは預かる権限の範囲で起きた問題を改善・解決することが責任の在り方としては正しいと考えられます。

もちろんそうしたミスが度重なれば職責に対する能力不足と評価され他の人と交代させられるというケースはあります。だからこそ遂行責任にあるように、自分の職責に必要なスキルを磨いていくことが重要といえるでしょう。

この3つの責任を正しく理解し、自分の職責と照らし合わせて業務を遂行すると責任というものの理解をより深めることができると思います。

経営理念は単なるお題目ではない

次に企業には大なり小なり経営理念や社是と言われるものがあります。

朝礼などで皆で唱和する企業も多いのではないでしょうか。ただ多くの場合、この経営理念や社是と言われる目標が単なるスローガン的なニュアンスで認識されていることも珍しくありません。

経営理念とは一言でいえば「その会社の考え方」です。

どんな仕事であっても常にその経営理念に沿っているかを照らし合わせて考えなければなりません。

創業者はどんな思いで会社を興し今日まできたのか。

キレイゴトに聞こえるかもしれませんが実際にお客様や取引先に満足していただくことができなければ次第に業績は悪化していきます。企業は利益を得ることが存在意義となっていますが、その利益はあくまでもお客様や取引先の満足によってもたらされるものであるということを忘れてはなりません。

その為の考え方となる原理原則こそが経営理念であるといっていいでしょう。

もちろんこの経営理念だけで顧客満足が実現できるわけではありません。しっかりとしたマーケティングなどを行い、綿密な戦略を通して業績は作られていきます。その過程で顧客満足が置き去りにならないように、常に意識の真ん中に経営理念を置いて取り組むことが重要です。

一つひとつの業務が経営理念に沿って行われているかを確認する意識づけの場が朝礼やミーティングなのです。

将たる者の心得

中級管理職は所属組織の中でも上位になっていることは多いと思います。実際に上司は対外的な業務に追われ、部内での実質的なリーダーを担っていることもあるでしょう。

また今はそうでなくとも、いずれはそうしたポジションになることを目標としているのであれば知っておいた方が良いものがあります。

それは「孫子の兵法」です。

孫子の兵法とは多くの人が知っている通り中国・春秋時代の戦略書です。しかしながら現代でもビジネスに置き換えて学ぶことが多く記されており、有名な経営者もこの孫子の兵法を大事にしている人は多いのです。

例えばソフトバンクグループの孫正義氏もこの孫子のファンのひとりであるというのはあまりにも有名な話で、孫子の兵法と自身の経営哲学を掛け合わせた孫の二乗の兵法というオリジナルの経営戦略を考え出したほどです。

私もこの孫の二乗の兵法で学んだことは多く、今も何かと助けられていることが多いです。

本当はこの孫の二乗の兵法を解説したいところではありますが、ここでは紹介にとどめ孫子の兵法の中から中級管理職として知っておいて欲しい項目を抜粋して解説することとします。

 智 信 仁 勇 厳

将とは、智・信・仁・勇・厳なり

まずはリーダーとして備えておきたい5つの要素を教えているこの一節です。

・ 智

智とは「知力」のことを表しており、その職責に必要な知識といってもいいでしょう。ここがなければ部下の信頼は得られませんので、日頃から自分の職責に必要な知識を身につける習慣をもっておきたいものです。

また単純に頭がいいというだけではなく、先見性を養っておかなければなりません。先見性とは読んで字のごとく先を見る力のことです。このポジションであれば当然先のことを決めなければならない場面が多くなるでしょう。

そうした場面になったときに、優柔不断で決められないリーダーを部下をどう見るでしょうか。尊敬は得られず陰で見下されることもあるでしょう。そんなリーダーでは組織をまとめることなどできずチームの不和を招くことになるでしょう。

したがってこの智の項目はリーダーにとって部下からの尊敬を得るための重要な項目であるといえるでしょう。

・ 信

信とは「信頼」のことです。信頼とは初級管理職の本で書いている通りあなたに対する期待のことです。

また部下に言ったことをしっかりと守ることも信頼関係を構築する上では重要なことです。間違っても嘘をついたりしてはいけません。気を付けなければならないのは直接嘘をつくことだけが嘘ではないということです。

・ 言うことが毎回違う
・ 口だけで行動が伴っていない
・ 人によっていうことが違う

なども部下から見れば嘘と同じです。これらのことは意識せずともやってしまっていることも少なくありませんので充分注意しなければなりません。

また逆に自分が部下を信じることも非常に重要です。

士は己を知る者のために死す

という言葉があります。これも中国・戦国時代の武将が残した言葉ですが、まともな男子であれば自分のことを評価してくれている人のためであれば死んでもよいという例えです。

現代で表現するのであれば部下は自分を評価してくれている上司のためなら、個人の損得を超えて協力するという意味です。部下を信じるということは場合によっては簡単ではないこともあります。いくら注意しても同じミスをしてしまう者もいれば、言わなくてもこちらの意図を汲んでくれる者もいます。

いかなる部下もあなたとチームの大切なメンバーである以上、可能性を信じて育成していくことで信頼関係につながり、いつしか期待に応えてくれるようになるでしょう。

・ 仁

仁とは「仁愛」です。

思い遣りと言い換えてもいいでしょう。他にも優しさや愛情などの要素を含む人への慈愛を表現されることもありますが、いずれにせよ相手の立場になって考えるということです。特に上司と部下に必要な仁の要素は相手を尊重しているかどうかが非常に重要なポイントとなります。

また本人だけでなく、本人が大切にしている考えや親しい人、趣向や趣味などもしっかり認めて同じように大切にすることも仁を体現するためには重要なことです。

しかしながらただ優しくしたり甘やかすのではなくそれが本人のためになっているかを考えていかなければなりません。尊重するといっても非常識な言動や考え方は社会人として正さなければ後々本人が困ることになります。

そういったときは相手を思えばこそ厳しい態度で正すことも必要になります。部下のためになるかどうかを常に考えながら相手の思想や言動を見守ることこそ仁の大切さではないでしょうか。

・ 勇

勇とは「勇気」です。

勇気は多くの場面で必要になる困難に立ち向かう気概のことですが、ここで言う勇気は「退く勇気」を指しています。戦略が正しければ結果は出ますが、間違った戦略でも一度決めたことだからといって無理に推し進めるといった匹夫の勇では自分だけでなくチーム全体を危険に晒してしまいます。

匹夫とは思慮が浅く軽率な人を表す言葉ですが、リーダーたるもの深い見識と先見性をもって正しいことを見極める冷静さを持たなければなりません。

一度決まったことや今のルールなどに対して、常に問題意識を持ちつつ間違っているものに対してはたとえ相手が上司でも勇気をもって進言することはあなたの後ろにいる部下のためでもあるのです。

ぜひこの勇をもって正しい方向にチームを導くことを忘れないでください。

・ 厳

厳とは「厳しさ」です。

先に挙げた仁とは真逆の要素ではありますが、仁だけではチームの士気を保つことは出来ません。優しいだけでなく厳しい態度で部下を正さなければならないこともあるのです。

「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」

という故事をご存じでしょうか。

中国・三国時代、蜀の諸葛亮(孔明)の部下、馬謖が命令に背き魏に負けてしまったことがあります。馬謖は諸葛亮にとって腹心の部下であり、常に傍に置いて信頼していました。

しかし諸葛亮はその馬謖を命令違反の罪で処刑しました。

周囲からは馬謖ほどの有能な部下をと惜しむ声もあったどうですが、諸葛亮は涙を流しながら規律を保つためだと答えたといいます。

このことからたとえ大切な部下でも罰するべきは罰する厳しさを持たなければならないという意味で使われる故事です。

また同時に自分に対する厳しさも持ち合わせなければなりません。部下にばかり厳しく、自分に甘い上司をどう思うでしょうか。常に周囲の規範であるべき管理職として自分を厳しく律することを忘れないでください。

 将に五危あり

故に将に五危あり。必死は殺され、必生は虜にされ、忿速は侮られ、廉潔は辱められ、愛民は煩さる。

凡そ此の五つの者は将の過ちなり、用兵の災いなり。
軍を覆し将を殺すは必らず五危を以てす。察せざるべからざるなり。

これも先ほどの智信仁勇厳と合わせて将たる者が心得ておきたい要素です。

必死、必生、忿速、廉潔、愛民というのはそれぞれ性格を表しています。

必死になる者は勢いだけで思慮に欠け失敗し、必生(臆病)になる者は生き延びることだけを考えて捕虜になり、忿速(短気)な者は敵に利用され、廉潔(プライドが高い)な者は罠にはまり、愛民なる者は必要な犠牲を払えずより多くの兵を死なせるという意味です。

これも現代に置き換えると次の様に言い換えることができます。

必死なリーダーは勢いだけで考えが浅く部下はついていけない、必生(臆病)なリーダーは失敗を恐れていつまで経っても行動できない、忿速(短気)なリーダーは部下は上っ面だけで接し、廉潔(プライドが高い)なリーダーは部下から本音を引き出せず、愛民なリーダーは部下が育たない。

いかがですか。

これらの性格は管理職としてはチームを危険に晒してしまいます。危険と言っても実際に戦をするわけではありませんが、競合とのシェア争いにおいてはチームの戦略アップは不可欠であり、健全にチーム運営をしていくためには気を付けなければなりません。

ぜひこれらのことを念頭に置き、自分の性格を常に見直す機会を作ってください。

 和して同ぜず

君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず

「和」とは自分の強い意志をしっかりと持って、そのうえで周りの人達と協力・協調するということです。「同」とは自分にしっかりした意思がなく、他人の意見に同調してしまう。つまり付和雷同するということです。

様々な道で成功を納めている人達は、「和」ではありますが「同」ではありません。

昔から日本人は「和」を重視して生きてきました。しかし日本特有の「和」は、「同」になりがちで人に合わせるということが正しいとされてしまいがちではないでしょうか。

協調性は確かに大切な要素ですが、ビジネスの上では芯となる考え方を持ったうえで周囲と協調していくということが非常に重要であり、管理職ともなれば自分の考えをしっかりと持ち合わせていなければ通用しません。

したがって厳しい情勢を乗り切っていくためにも、意思を強く持ち「和して同ぜず」を実践していただきたいと思います。

 三現主義

心構え編の最後です。

三現主義の三現とは「現場」「現物」「現実」のことです。管理職として経験を積んでいくと上司に報告をする機会よりも部下から報告を受ける機会の方が多くなってきます。

そうなってくると問題が起きているときに実際に自分の目で確認することも減って、事実を正しく把握できずに対策を練り始めてしまうことも珍しくありません。

そうならないように自分で確認する必要がある問題については現場に出向き、現物を見てから現実を知るように心がけてください。問題の原因も対策のヒントも現場にあるという意識を忘れないようにしてほしいと思います。

またこの三現主義に「原理」と「原則」を加えて五ゲン主義と言ったりもします。原理とはなぜそうなっているのか、原則とは本来どうあるべきかと言い換えることができます。

三現主義で正しく把握した問題を原理原則に当てはめて改善につなげていくことが管理職の仕事です。

スキルアップ編

中級管理職のスキルアップ編では主にリーダーとしてチームの戦力アップに直結する人材育成に必要な知識をみにつけることを意識して解説していきます。

管理スキルというよりも人材育成理論に近いニュアンスですが、人に関して深く知っていくことは管理職としてチームをマネジメントする上では非常に重要なことです。

心構え編で書いた通り中級管理職の役割は上司のサポートしつつチームの戦力を高めていくことです。そのためにここで今一度人材育成への理解を深めてチームの戦力アップに貢献できるようにしましょう。

PM理論

PM 理論とは管理職やリーダーに必要な能力をバランスよく身につけていくために考えられえた理論で、PMとはそれぞれPerformanceとMaintenanceを表しています。

Performanceは目標達成能力、Maintenanceは集団維持能力とされ、それぞれ管理職・リーダーに必要不可欠な能力です。

Performance(目標達成能力)ではチームリーダーとして目標を設定し、課題を解決しながら目標達成に導く能力であり、知識や具体的な計画立案、メンバーへの的確な指示指導など、管理職としての結果を出すための能力と言っていいでしょう。

Maintenance(集団維持能力)ではチームメンバーのメンタルやモチベーションのコントロール、また人間関係を良好に保つための行動とされ、リーダーとしてチームを長期的に成長させるためのコミュニケーション能力と言えます。

この「P」と「M」をバランスよく磨いていくのが理想的であるというものがPM理論です。

評価段階は4つあり、「PM型」・「Pm型」・「pM型」・「pm型」です。下図はPM理論の状態を分かりやすくしたものです。

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このように自分自身の振り返りや部下の育成において活用することでそれぞれの課題が明確になり、成長に向けたストロークを正しく出せるようになります。

特に改善が必要なPm型・pM型・pm型に対してはそれぞれの弱点となっている能力に対して学習・指導する必要がありますので、まずは自分自身の状態や育成対象となっている部下の状態をPM理論に当てはめて改善につなげていきましょう。

ロバート・カッツの理論

PM理論ともうひとつ、リーダーやマネージャーといった管理職が知っておくべき理論がこのロバート・カッツの理論です。

この理論はビジネスマンに必要なスキルを3つに分けて、それぞれどういったバランスで意識するべきかを説いたものです。

3つのスキルとは

・ テクニカルスキル(業務遂行能力)
・ ヒューマンスキル(対人能力関係・人間理解能力)
・ コンセプチュアルスキル(概念化能力)

です。

下図はそれぞれの立場における各スキルの重要度を表したものです。

ロバート・カッツの理論

 テクニカルスキル(業務遂行能力)

まず初級管理職においてはテクニカルスキルが重要といえ、プレイングマネージャーとして部下の手本となるべきポジションという意味合いもあるため、専門知識や業務遂行能力の比率が高くなります。

例としては以下の様なものがあります。

・ 汎用スキル(PC操作、言語、文章力など)
・ 専門スキル(会計・経理、営業・マーケティング、医療・介護など)
・ 特化スキル(属人化した専門スキル、職人さんなど)

これらのスキルはその区別が曖昧で立場によって変わる可能性はありますが、社会人として必要な常識的なスキルが汎用スキルとイメージするとわかりやすいかと思います。

また専門スキルとはその職業に応じたスキルのことで営業マンなら商品知識やセールス力、IT関係ならWebマーケティングやプログラミングなどのことです。

特化スキルというのはその道のプロと言われるようなもので、「この仕事なら○○さん」と言われるようなスキルとイメージすれば分かりやすいかと思います。

 ヒューマンスキル(対人能力関係・人間理解能力)

すべての立場に共通して重要なスキルがこのヒューマンスキルです。

ヒューマンスキルはチームの人間関係を良好に保ち、様々な意見や提案を導き出すために必要な能力です。これはどの立場に於いても重要とされ、リーダーやマネージャーといった管理職に限らず社会人として重要なスキルと考えられています。

例としては以下のようなものがあります。

・ コミュニケーション力
・ ヒアリングスキル
・ 交渉力
・ 調整力

このうちコミュニケーション力はムードメーカー的なものと勘違いされますが、個々の性格に合わせて考えを引き出せるように働きかけたり、正しく指導することをさしています。

こうした対人関係におけるスキルを磨いて人格者になることで周囲の協力や尊敬を得られるリーダーになっていくことでしょう。

 コンセプチュアルスキル(概念化能力)

立場が上がれば上がるほど、テクニカルスキルとコンセプチュアルスキルの比率が入れ替わっていきます。

コンセプチュアルスキルとは概念化能力と言われ、簡単に表現すると考える力のことです。

例としては下記のとおりです。

・ ロジカルシンキング(論理的思考)
・ クリティカルシンキング(批判的思考)
・ ラテラルシンキング(水平思考)
・ 分析力
・ 広い視野など

これらの要素を使いこなし問題を構造的に理解しつつ正しい解決方法を考えることで業績向上に向けた計画や戦略を立案することができます。上級管理職として会社や店舗・チームの大局的な戦略を立案し、業績向上を担うために必要なスキルです。

コンセプチュアルスキルは中級管理職や上級管理職にとっては非常に重要なスキルです。

次の章ではこのロジカル・クリティカル・ラテラルシンキングといった3つの考え方を深掘り解説することにします。

トリプルシンキング~3つ思考法~

昨今、色々な思考法が提唱されビジネスシーンでも多くの方が各思考法の書籍などを読み仕事に生かしていることと思います。

ここでは代表的な以下の3つの思考法について解説していきます。

・ クリティカルシンキング(批判的思考)
・ ラテラルシンキング(水平思考)
・ ロジカルシンキング(論理的思考)

いずれも有名なものばかりなので一つひとつを詳細に知りたい場合はそれぞれの関連書籍を探してみるとより深く理解することができると思います。

ここではこの3つをうまく活用して管理職としてどう生かせばいいのかを目的としています。

 クリティカルシンキング(批判的思考)

まずはクリティカルシンキングです。批判的思考とも言われ物事の前提を疑うことから始める思考法です。

批判と聞くと勘違いしてしまいがちですが、否定することとはまったく異なり前提となっている慣例や思い込み、記憶などを「本当に正しいのか」確認するという意味です。

したがって批判とは感情や思い込みを捨てて事実のみを判定するということです。

なぜこのプロセスがあるかというと、人には強弱はありますが誰しも少なからず思考に偏りがあります。

これを心理学用語ではバイアスといいますが、ビジネスの中でも色々なバイアスがあり意見が食い違うこともあると思います。

そんなときにこのクリティカルシンキングを思い出してまず自分や他者の中の前提がそもそも正しいのかという視点で物事を考え始めるということが重要です。

間違った前提のまま次の段階に進んでしまうと導き出した答えそのものが間違ってしまったり、戦略立案の場面では取り返しのつかないミスをしてしまう恐れもあるでしょう。

クリティカルシンキングでは次の3つのことを意識して考えるようにします。

1.  目的を明確にする
2.  バイアスをなくす
3.  問い続ける

書籍などではほかの表現もありますがすべて同じことです。

目的を明確にするというのはそもそもなぜこの件について考えているのかという点をしっかり意識するということです。

いつの間にか問題に対して手法を変えるということが目的になりがちなので、そうではなく問題の根本になっているのはなにかという点に視点を集中することで正しい改善策が導き出されます。

間違った前提では間違った対策しか考えられませんので目的はなにかを常に意識しておきましょう。

またバイアスをなくすというのは前述した通り個々の考え方の偏りや癖のことで、上司が言っているからというようなものも含めて前提となっている考え方を一度フラットにするということです。

クリティカルシンキングでは客観的に批判することが重要になるため個人のこだわりは捨てて「誰が正しいのかではなく何が正しいのか?」を追求する姿勢を意識しましょう。

問い続けるというのはトヨタのなぜの追求にもあるとおり、一度出た答えすらも疑い、本当に正しい答えを追求する姿勢です。

正しい考え方はそんなに簡単には出ないという認識をもって常に問い続ける姿勢をもって難題にチャレンジしましょう。

 ラテラルシンキング

ラテラルシンキングは水平思考と言われ、一つの問題に対して色々ば視点で考えを展開していくし思考法です。

ラテラルシンキングで使えるチェックリストがあるので紹介します。

「オズボーンのチェックリスト」と言われるもので、ブレインストーミングの考案者であるアレックス・オズボーンが考案したチェックリストです。

オズボーンのチェックリスト

オズボーンのチェックリスト (1)

このチェックリストを使って、一つの問題から多角的に改善策を探していきます。

成功例をいくつか挙げてみます。

①転用ではソフトバンクグループの孫正義氏が日本でブームの去ったインベーダーゲームをアメリカに持ち出して販売したという事例があります。また他の例としては「訳あり商品」として一度売れ残った商品を安価にして売り、在庫を減らすといった手法もいくつもあります。

②応用では広告業界で行っていた成果報酬型の支払い方法を求人誌に応用したジョブセンスなどがあります。

③変更では書籍のカバーデザインを変更して売上UPという例がいくつもあります。

このようにオズボーンのチェックリストを用いた例はいくつもあります。

インターネットで「オズボーンのチェックリスト 成功例」などの検索するといくつもヒントが出てきますのでぜひ探してみてください。

✔ ロジカルシンキング

ロジカルシンキングは論理的思考と言われ先に挙げた2つの思考法よりも一般的なものと言えます。

論理的と聞くと小難しく感じるかもしれませんが、問題などをシンプルに筋道を立てて考えるというものです。

この思考法は物事を考えるときだけでなく、例えばプレゼン資料をつくときや上司に提案をするなどの際に非常に有効なテクニックで、説得力のある内容に仕上げることができます。

難しい話をシンプルにして説明できるというスキルは必ず重宝されると思います。

ロジカルシンキングは大きく3つの手法があります。

1. 演繹法(えんえきほう)
2. 帰納法(きのうほう)
3. 弁証法(べんしょうほう)

聞きなれない言葉かもしれませんがおそらく多くの方が知らず知らずのうちに使っているものです。

・ 演繹法

演繹法は一言で表すと前提を使って考えていく思考法で別名三段論法とも言われています。

前提を使うというのは以下のとおりです。

大前提:人はみないつか死ぬ
小前提:私は人だ
結 論:だから私もいつか死ぬ

これは古代ギリシャ・アリストテレスという哲学者が用いた非常にわかりやすい例えです。

他にも

大前提:管理職とはリーダーでもありマネージャーでもある
小前提:私は管理職だ
結 論:だから私はリーダーでもありマネージャーでもある

というようなイメージです。

一見すると便利な手法ですが弱点も存在しています。

それは前提を疑っていないという点で、前提が間違っている場合は結論も間違っているということです。

・ 帰納法

帰納法は一言で表すと統計です。

演繹法とは逆の考え方でもあり、演繹法が前提から結論を出す流れに対して、帰納法ではまず関連するデータや事柄を集めて、共通する部分を前提として結論付けるという流れです。

例としては

事象①:競合Aの売上が落ちている
事象②:競合Bの売上も落ちている
事象③:競合Cの売上も落ちている
結 論:周辺エリア全体の売上が下がっている

というようなイメージです。

これは比較的仕事で用いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。

データを集めて共通点を探して結論に用いるという手法で私としては一番精度の高い思考法だと思います。

プレゼン資料などもこの手法を用いて作成されたものが多いと思いますので注意してみてみるとより理解が深まると思います。

・ 弁証法

弁証法は一言で表すと考えを組み合わせてより良い考えを導き出す手法です。

一般的に「テーゼ(正)」「アンチテーゼ(反)」「ジンテーゼ(合)」

というような表し方をします。

一人で考える場合はいいのですが、複数人で議論する場合などどちらの意見が正しいのかという目的が置き去りにされてしまうことが良くありますが、そこでこの正・反・合を思い出して双方の意見を組み合わせてより良い意見を見つけ出すということを意識すると建設的な議論を持つことができると思います。

①:次の施策はAにしよう
②:いやBの方が結果が出やすい。
③:ではA・B両方を組み合わせてCという施策を検討してみよう。

といったイメージです。

これまで出してきた例はあくまで理想の形なので当たり前ですが現実にはそう簡単にはいきません。

色々な考えのもと仕事をしている者同士が簡単に自分の意見を捨てることなどできませんからね。

そんなときに管理職であるあなたがこれらの手法を用いて場をコントロールするのです。

またこの3つの思考法は次の様なイメージで用いると効果的かつ効率的に使うことができます。

1. クリティカルシンキングで問題の根本を追求
2. ラテラルシンキングで他の事例をヒントにする
3. ロジカルシンキングで考えをまとめ提案する

例えば売上低下に対する改善策を考えるには

1. 売上低下の根本的な原因は商品Aの売上であった。
 さらにその原因は競合店の大幅値下げによる顧客流出である。
2. 自社も商品Aの売り方を変えてみる。
 価格設定の見直しとキャンペーンを打つ。
3. 他者の成功事例にも同施策による成功例が複数あった。
 よってこの施策は成功する可能性が高い。(提案)

分かりやすい例とするため極端すぎる内容になりましたが、考える順序さえ分かっていればより迅速に対策を練ることができます。

お金や人員は目に見えるためコスト意識が向きやすいですが目に見えない時間は無駄にしていても気づきにくい資源です。

自分なりに問題解決の手法をしっかり持っておくことで問題が小さいうちに手を打つことができるようになります。

アイゼンハワーマトリクス

次に管理職として業務を進めていく上でひとつの仕事だけに集中できるというケースは少ないと思います。

常に複数の仕事が発生し、正しい優先順位をつけて進めていかなければなりません。

そうしたときに優先順位を正しくつけるための考え方のひとつに「アイゼンハワーマトリクス」というものがあります。

これは物事の優先順位を「緊急度」と「重要度」の2軸から考えるもので、一度は見たことや聞いたことがあるかと思います。

アイゼンハワーマトリクス (1)

この図のように重要度と緊急度の組み合わせによって優先順位を決めていくというものです。

優先度①:重要かつ緊急の仕事

言うまでもなくこの領域の仕事は最優先で取り掛かるものです。

お客様や取引先、上司からの指示などがここの領域に当てはまりますがおそらく多くの場合はあなたの主たる業務とされる仕事がここになると思います。

業績や結果に直接的に関係する仕事が多く、ここが止まってしまうとお客様や取引先に迷惑がかかる場合が多く、顧客をなくしてしまう恐れがある仕事です。

優先度②:重要ではないが緊急の仕事

次に取り組むべき仕事はこの領域です。

ここは重要ではないためつい後回しにしてしまいがちな領域ですが、この領域に入ってくる仕事はその場で終わらせることができる仕事が多く、スケジューリングすることすら無駄と言えますので、発生したらすぐに処理することを心がけましょう。

中には取引に関係するメールや郵便物もありますので、届いたらすぐに処理してしまいましょう。

優先度③:重要だが緊急ではない仕事

次に取り組むべき領域はこの仕事ですが、ここは緊急性がないためいつまで経っても進まないことが多くあります。

しかし重要度の高い仕事であるため時間が経つほど大きな問題になりやすいという特徴があります。

例えば計画の立案や人材育成などは競合他社との市場競争の際に後れをとってしまう場合が多く、時間のかかる仕事であることから取り返しがつかないというケースも少なくありません。

この領域の仕事こそ常に見直しつつ積み上げていくイメージをもって進めていきましょう。

優先度④:重要でも緊急でもない仕事

この領域にあるものは出来ればやめる・捨てることが理想です。

しかしながら組織に属している以上はゼロにすることも難しいものがあると思います。

例えば意味も分からずやっている決まったルーティン作業、中身のない定例ミーティングなどがこれに当たります。場合によっては愚痴大会となっている飲み会などもそうかもしれません。

そういったものが自分の作業として回ってきた場合は見直しを提案したり他の者に任せたりすることで極力回避しましょう。

時間は有限です。

あとがき

中級管理職が読む本の中には新人研修などで聞いたこともあったかと思います。

しかし新人のときにこういった勉強をしても自分の責任において実践するという機会はあまりないのではないでしょうか。

よく経験が大事と言いますが、経験とは自分で判断・決断した数のことだと私は思います。

上司から言われたことや指示されたことを行っただけでは経験とは言えないと思っています。

自分の責任において決めるという経験こそが本当の意味での経験と呼べます。

初級管理職にいる方、または現在進行形で中級管理職にいる方へ向けて少々偉そうなことを書いてしまいましたが、半分は自分への戒めという意味合いもありますので、どうかご容赦いただければと思います。

 組織はナンバー2で決まる 

という言葉があります。

劉備には諸葛亮孔明、秀吉には秀長と歴史に名を残すリーダーの隣には常に有能なナンバー2の存在があります。

トップは組織の未来を描き、ナンバー2がそれを実現するというような関係です。

役回りとしては一番大変かもしれません。

かといってトップも同じように大変なもので先見性に富んだ見識で先のことを決定して戦略を立てなければなりません。

その陰で組織を強化しつつ戦略を進めていくのがナンバー2です。

命に従いて君を利する、之を順と為す
命に従いて君を病ましむる、之を諛(ゆ)と為す
命に逆らいて君を利する、之を忠と謂う
命に逆らいて君を病ましむる、之を乱と謂う

これは中国の前漢に書かれた「説苑(ぜいえん)」という本から、君主に対する臣下のあり方として4通りの状態を説いたものです。

上から順に「従命利君」「従命病君」「逆命利君」「逆命病君」です。

従命利君は君主の命令に従い君主に利する。

従命病君は君主の命令が間違っているとわかっていながらも忖度し従うことで君主や組織が病んでいく。

逆命利君は君主の命令に背いてでも君主の利を考える。

逆命病君は君主の命令に背き君主や組織を病ませるという意味です。

このうち逆命利君こそが真の忠義であるといいます。

中級管理職は組織のナンバー2としてトップを支え、時にはトップの間違いを正し進言しなければなりません。

そのせいで理不尽な目に合うかもしれませんがそれはナンバー2の宿命といっていいでしょう。

しかしそういった困難を乗り越えてこそ次のトップになるために必要な胆力が身につくと信じて逆命利君を実践してください。

本当に有能なトップであればあなたの逆命利君を理解し、全幅の信頼を寄せてくれることでしょう。

もし逆命利君を受け入れてくれないような上司や会社ならともに歩む価値はありませんのでさっさと見捨ててしまいましょう(笑)

最後になりましたがこの本を読んだあなたが最強のナンバー2となり、いずれ有能なトップリーダーになることを陰ながら応援しています。

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