人混みの一人
札幌市の大通公園を歩けば、そこはビアガーデンを楽しむ人たちでひしめき合う。
西12丁目から東に向かって歩いていても、人混みは途切れることなく、祭りの雰囲気がひたすらに続く。
夕焼けが沈んでいく。
淡い雲がまばらにかかって、橙の空は悲しい色をしている。
夏の夕暮れは切なくなる。
ビアガーデンのわいわいした雰囲気に馴染めないことが浮き彫りになる。
大通公園の、遊具のある10丁目あたりでは、相変わらず子供たちがはしゃいでいる。いつもの平和な光景。
自分が子供のころにこの辺りで住んでいたならば、間違いなく毎日この公園に通っていた頃だろう。
ビールを飲む大人たち。遊具で遊ぶ子供たち。
憩いの場が広がっている。
札幌市はイベントが多い。
特に夏場はコンスタントにあちこちで祭りをしている。
花火大会に商店街の夏祭り、ビアガーデン。
人混みをただ眺めて歩き続けると、いよいよ暗くなっていく。
電波塔は夜が近づくにつれてその存在感を増していく。
太陽はどんどん沈む。
いい加減に人混みが嫌になってくるので、大通公園を出て南に下る。
狸小路商店街にあるドラッグストアで日用品を買うことにする。
狸小路は狸小路でこれまた人が多い。
よくよく考えれば今日は三連休のど真ん中だ。
通りで人が多いわけだ。
そして子供は夏休みで、だから遊具で遊び放題か。
昼間、札幌情報館で読書でもしようかと、大通公園を寄り道しながら歩いていた。その時は2丁目あたりにいたのだが、ここの付近にある噴水の周りでたくさんの人がいた。
気温は32度と決して涼しくはない。直射日光はかなりのものだった。
しかし水辺の近くということで、みんなが納涼していた。
家族連れや、スーツケースを引いている観光客の団体、昼休憩に来ていたOLとか。
日差しがつよいにもかかわらずみんなが外にいた。
これが関西や東京だと暑すぎて、直射日光の下で休憩することは難しいだろう。
冬になれば、札幌はきっと外で戯れるのも難しくなる。
そうなる前になるべく外の空気を楽しんでいるように見えた。
昼も夜も人手で溢れかえる8月の札幌。
毎日のようにごったがえす、すすきの町。
いつまでこの風景が見られることか。
少なくとも8月いっぱいはこんな具合だろうか。
狸小路のサツドラに行き、サランラップや明日の職場に持って行く弁当のおかずなんかを買う。
どれだけ外が賑わいを見せても、こちらは相変わらずの日常を繰り広げる。
ビアガーデンを楽しもうと一瞬考えたが、やめた。
そんな気分でもなかったことに気づいた。
金もないし、イベントに費やすものは何もなかった。
あしたからまた忙しくなる。
それまでに体力を蓄えておきたくもなる。
それもまるで言い訳に聞こえる。
最近、本音に気づいてしまいそうな自分を、なんとか自制して、いつも通りの日常を続けようとしている。
それに気づいてしまったらぶっ壊れてしまいそうで怖くなる。
寂しさに気づいてやれるほどプライドを低くできない。
叫びかたなんて知らないから、ずっと押し黙っている。
そしたら、楽しそうな人たちがまるで敵に見えてくる。
ただすれ違っただけで苛立ちが募る。
嫌な自分だ。
今の自分が、嫌いだ。
吐き捨てるような独り言が増えた。
以前よりも、性格が悪くなった気がした。
魅力も減っていった気がした。
覇気がなくなった。
でも仕方ないと割り切ったりもした。
なんだろうなこの日常は。
今の日常を愛せるかどうかが、今の幸福度に影響していると思う。
今の日常は、いわずもがなだ。
ひねくれている自分がたくさんいて、面白みも湧いてこない。
それでも光を信じている。
まごうことなき矛盾だ。
捻くれて独りよがりに向かっているのに、希望を待っている。
掴みに行く勇気もないくせに。
どうしたら報われるのかを考えている。
今の日常に、どこに苦しみを覚える。
一人で生きているという実感。
でも一人でいたくなる感受性の鬱陶しさ。
もっと適当に、人の気持ちに鈍感な生き物でよかった。
自分の気持ちなんて気づいていないやつでよかった。
それなのに、やたらと人に気を遣って、空気を読んで、自分中にある、マイナスの渦巻く心をなかったことにした。
なんて自殺行為だろう。
でもそれがある種、自分の処世術だったのだ。
みんながどれくらい内面に抱え込んでいるのかがわからないから、自分の抱え込んでいるものがやたらにデカくて、とても人に見せられない有様になっている。
このまま突っ走ろうとしている。
なんで寂しいと言わない。なんで苦しいと、なんで助けてと言わない。
それは自分が合理的だからだ。
一人でできることは一人でやるべきと凝り固まった理性が叫ぶのだ。
この上なくくだらないプライドが羽交い締めにしてくるのだ。
くだらない。
なんてくだらないのだろうか。
生きているのだから、報われる方に向かってほしい。
でもできない。
理由はわからない。
多分怖いから、自分なんてそんな価値がないと思っているから。
その考えもまたくだらない。
もう全部くだらないと吐き捨てて終わらせてしまいたいものだ。
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