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(7) サンドイッチ、ミルフィーユ、パイ生地、etc・・といった重層文化の創造と熟成


 イタリア南部を担当していた通信衛星が、地中海対岸のエジプト沖に移動してゆく。衛星の移動は2機のモビルスーツが担っていた。移動するまでの間、別のモビルスーツが稼働していない壊れた人工衛星を回収して、ノア型輸送船に格納してゆく。「デブリ」と呼ばれる宇宙ゴミの回収作業をしている模様が、国連総会の会議場のモニターに投影されていた。

「エジプト紛争後、イタリア向けに使っていた通信衛星を、エジプトの沿岸都市で利用できるように設置いたしました。道中で宇宙のゴミ拾いを行っておりました。この、壊れた人工衛星の所有権が一体誰にあるのか、我々はルール作りが必要と考えています。取り敢えず、月面に運んで、倉庫に格納しておきます。回収した国に所有権を認めていただけると、月面で金属分別して、鉄の再生が出来ます。ルール制定 ご検討の程、お願い申し上げます。 
尚、エジプトのオリンピックスタジアムには開閉式の屋根が取り付けられました。スタジアム壁面での太陽光発電が可能となり、観客席などの整備を行いまして、今月中には完成する運びとなります。エジプトがまだ暫定政権なので、本総会に出席できず、代わりに私共が申し上げます。自主五輪開催まで、あと1年後となりましたので、プレ五輪的なイベントを、エジプト暫定政府が検討しています。リビア、アルジェリア、チュニジアのスタジアムを利用して、各会場をプロペラ機で人員輸送できる体制を整えて行う検討をされています。既に1報は各国あてに届いているかと思いますので、ご参加検討の程、宜しくお願い致します」

ベネズエラの越山大統領が演題で、そう 報告する。
五輪施設だけでなく、エジプト湾岸地域での開発が進んでいる。イタリアに支社があるベネズエラのGray Equipment社、Pleiades社、日本のプルシアンブルー社、レッドスター社がカイロ市に進出して、エジプトのイタリア、ギリシャ、東欧化を進めていた。
海水浄水システムとアンモニア工場が、リビアも含めて5箇所で建設中で来年の4月の稼働を目指していた。ベネズエラからは金塊が暫定政府に持ち運ばれ、金を売って日本円やベネズエラペソに換金して、建設資金に当てている。さり気なく金が市場に流通するようになり、金の価格がやや下がり始めていた。
このベネズエラからの金塊が各国としては羨ましくて仕方が無い。エジプト暫定政府は潤沢な資金を手に入れて、矢継ぎ早にインフラ整備と五輪の準備を進めていた。

カイロの空港に月面基地からやってきた白地に赤い字体で「2」と所々に書かれたサンダーバードが着陸し、ロボット警備団に護衛されながら、金塊がエジプト中央銀行まで運ばれていった。この金塊が換金されて、ベネズエラと日本企業への支払いに用いられる。
相手の経済をプラスに転じさせながら、日本連合も儲かる仕組みになっている図式が出来上がっている。主な原動力は北朝鮮・ベネズエラの資源から、火星で発掘した資源に転じて、さらに加速したと誰もが思っているのだが、エジプト紛争の戦勝国でもあり、エジプトでの五輪開催目的なので、文句も言えない。そもそも、他の国に多額の資金の工面など、出来なかった。
火星の金や銅、レアメタルだけではない。月に何故か潤沢にあるチタンやヘリウムも大量に地上に運ばれるようになる。船舶、航空機、ロボットの外装に強度が高く、軽いチタンを存分に使い、モビルスーツ用の核熱モジュール用のヘリウムを使う。月が人工的に運ばれてきた衛星説の所以が、チタンとヘリウム資源の存在だ。偶然だと思いたいが、月で大量に採掘出来るのは、人類にとっては僥倖となる。潤沢な量の資源を得て、造船と航空機が増産され、製鉄生産量が加速してゆく。核熱エンジン、核熱モジュールの民生活用として、プレアデス社が100人乗りの民間用ホバークラフトの製造を始める。中南米軍の海兵隊が上陸作戦で利用しているものを一部改良して、諸島国家の移動用船舶として開発された。

ビルマ、北朝鮮、ペルー、ベネズエラの各工場で生産が始まると、台湾・基隆市のプレアデス運輸が親会社に大量発注を行い、先行してフィリピンの諸島部間のフェリーの補完船の位置づけで、就航してゆく。フェリー本来の車両搭載能力や大量の物資を運ぶ機能性をそのまま残し、人がより短時間で移動できる手段として、新たに加えられた。
プレアデス社のホバークラフトは核熱モジュールの高出力により、海面2m近い高さまで浮上したまま、280キロを超える速度で移動する。船舶が用いる「ノット」ではなく、「キロ」表示の速度メーターが操舵ブース内に備えられている。今後、核熱モジュールが大型化し、より大きな出力が得られると、100人乗りホバークラフト以上の船舶の浮遊が、可能になるだろうと、誰もが想像する。
モリは、この新型ホバークラフトを「海上新幹線」に準えた。初代新幹線の速度での海上移動を実現して、諸島国家の人的移動を加速させる。先行してフィリピンで行い、インドネシア、ミクロネシア諸島そして最終的にはカリブ海諸国に拡げようと考えた。諸島国家の運輸は新幹線や高速鉄道ではなく、海運に委ねていこうと。
物資の空輸、海運事業だけだったプレアデス運輸が、海上高速移動事業に業態を拡げてゆく。フィリピンでの事業から始めるので、料金もそれなりの設定にしなければならない。価格まで、新幹線並みにする必要はなかった。 核熱モジュールを利用する浮遊輸送船なので、日本近海では残念ながら利用出来ない。

その他の重要な懸念点として、船目当のシージャックの可能性が考えられる。ホバークラフトの核熱モジュールを「兵器」として活用を考えるテロ組織が出てくる可能性がある。フィリピン南部は、嘗てはモロ民族戦線といったイスラム系の反体制組織が存在し、インドネシアにはISの支援を受けた、ジェミーイスラムなどの反社会的勢力が巣食った過去がある。組織として形骸化したとは言え、麻薬栽培と密輸で儲けている者達が残る。南沙諸島や西沙諸島の基地、サンボアンガ基地に駐留する中南米軍にとっては中国だけでなく、掃討中・交渉中のこれらの組織の動向も監視し続けている。
海上警備体制を万全なものを備える必要が有る。中南米軍との連携が必要となるので、プレアデス運輸以外の海運会社への提供は、当面は考えていなかった。
船内警備と操舵はロボットが担当するが、航空機のように無機質感が先行するのもどうかと、元フライトアテンダントの方々が考えて、客室乗務員の大量採用を始めていた。フィリピンは英語を話せる人々が多いので、何の問題も無かった。社長の志木さん達、経営陣が考案した乗務員のユニフォームが話題となる。アニメの乗務員服を模倣したものだったからだ。マニラ、スービック、セブ、サンボアンガ、ダバオの各市の応募に人々が殺到していた。

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日本連合の止まらぬ成長を新しい潮流と捉えて、「ネオ産業革命」と称する学者が現れていた。これらの学者を「場当たり的で一貫性が無い人達」と日本政府は捉えて、無視していたが、名称が過去を彷彿させるキャッチーなものだったので、一人歩きを始めていた。
嘗てパックス・ブリタニカの象徴となった産業革命を准えて、日本連合の経済成長との対比を行い評論する。嘗ての産業革命と現在の状況に相関関係があると半ば断定して強引に比較する御仁まで現れた。
日本政府はファシズムが台頭した過去を徹底分析した中で、八紘一宇を表に掲げた植民地、資源収奪体制を明確に否定した。当時の列強国が、植民地からの富を吸い上げて拡大した経緯を、身勝手な収奪行為と断じた。イギリスの産業革命自体にも奴隷制や非人道的な賃金体系が存在したので、比較されるのを嫌った。それでもイギリスの富の収奪と、宇宙資源活用が、方法と手段は異なれども、「大量の資源」「労働力の確保」という点では確かに共通している。   

「火星や月の資源を無尽蔵に使い、ロボットが製造・生産する」このコンセプトが、現時点では大きな問題には繋がらない。嘗ての南北問題の元凶となった産業革命とは絶対的に異なる。
地球圏外で得た資源を原資として、ASEAN各国、北欧3カ国、スペイン、ポルトガルの中南米の旧宗主国でも行うのではないか、と専ら噂されていた。既に中南米諸国とアフリカ諸国でも使われているのだが、もう1箇所で粛々と進んでいたのがフィリピンである。ルソン島の開発は日本政府、ベネズエラ政府によって行われていたが、ミンダナオ、ネグロス、パラワンの3島には、ベネズエラの企業が投資をしていた。
ドール、チキータ社等の米国資本のバナナ、パイナップル農園を中米での買収のスキームの一環として進めていった。日本の流通業Indigo blue社も投資企業に加わる。フィリピン産の果物を恒常的に扱おうとしていた。Pleiades Grocery社が栽培ロボットを使って育て、収穫した果物を、Indeigo Blue系列のスーパーに供給する。まさに中南米の事業、そのものだった。

ーーー
スービック港を出た大型ホバークラフトは、一路ミンダナオ島サンボアンガ市を目指して疾走していた。風切音は新幹線に似ていた。同じような速度で「飛んでいる」からだが、レールの上を走ってる訳ではないので、レール音と振動が無い。カリブ海の島々を繋ぐ連絡船は、高速船となっているが波揺れがあるので、船酔いする人もゼロではない。しかし、これは飛んでいるので、子供達も飛行機気分だ。海洋ロボットが隣で波を立てて並走しているのを見て、しきりに手を振っている。上空にはフライングユニット、戦闘機型ドローン2機がゆったりと周囲を旋回しながら、警備に当たっている。

「パパ、何にする?ビールでいい?」キャビンアテンダントの制服を纏った、長男の嫁のヴェロニカが覗き込んでくる。

「膝の上に座ってくれないか・・」と言いたいのを堪えて、「マンゴージュース下さい」と弱々しく言う。隣の列では あゆみと彩乃が同じ制服を着て、家族に飲み物を配っている。・・この制服、いいかも・・邪な思惑が脳裏を掠める。

「シノは、何にする?」ヴェロニカがマンゴージュースをモリのトレーに置いてから、聞く。2人分、まとめて聞かないのはエグゼクティブクラスを気取っているのだろうか・・
「紅茶をお願い」ヴェロニカと同じ歳の志乃が笑顔を浮かべる。しまった、紅茶にするんだったと後悔する。志乃が持ち込んだ茶葉だ、きっと最高級品だろう・・

「後悔したって、もう遅いですよ〜」人の顔色を見て察したのだろうか。
「いいよ、これで。でも、この船、昨日見たアニメのシャトルの船内にそっくり・・。ハウンゼンって、言ってたかな・・」

昨夜、あゆみと彩乃に「明日の船は室内のグレードを上げたの。このアニメの雰囲気を真似したからね」とアニメの一部分を見せられた。搭乗時に、随分ゆったりしたシートだなと思った。通常の船は乗客100人だが、この船は50名と、空間に余裕を持たせている。また、キャビンアテンダントの女性の髪型を、ヴェロニカが真似しているのだと、初めて知った。どれだけアニメに被れているのかと、思わず聞いてしまう。自分の子にフラウ、ハサウェイ、セイラ、キャスバルと名付ける母親だ・・太朗は命名権を放棄したとか言っていた。そのアニメオタクのヴェロニカに輪を掛けるかのように、船内レイアウトをアニメを模倣して設計してしまう、浮かれた2人の娘がこの場にスッチーとして居るのだが・・

「アニメのシャトルの方が外観はカッコ良かったな・・。流石にこの室内の高級感は宇宙では必要ないと思うけど、その内、あんな形のシャトルが必要になるのかな・・」

「1年戦争前に、エドワウ・マスと本当のシャア・アズナブルが、テキサスコロニーからサイド3に向かう際の宇宙船の場面は、見たことあります?」

「えっと・・シャアが手荷物検査で引っかかって、キャスバルと服を交換して、シャアが搭乗して船ごと爆破されちゃう。確か、 クジラみたいな寸胴型の船だったよね・・」 

「そう、それです。あんな感じの宇宙船でいいんじゃないですか?シンプルな形状で飽きが来ないと思います」
「なるほど・・」

「ハウンゼン社のシャトルもお願いね、パパ。 女はね、こういう格好に憧れるの。フライトアテンダントはいつの時代も、憧れの職の一つだからね。こんなサービスもあったっていいでしょ?」
ヴェロニカが、スライスしたカラマンシーと共に、ティーポットとヴェロニカ好みのティーカップを志乃のトレーに置きながら、自分の胸を人に押し付けるように体を寄せてくる。昨夜は三人で同室だった。志乃が笑いだす。

「あなたがフィリピン行きを待ち焦がれていたのが、今のでよくわかったよ。とっても似合ってるよ、ヴィー」
この2人が初めてタッグを組んだ。そもそもヴェロニカはソロの経験しかない。モリにとってはまさかの組み合わせだったが、志乃がヴィーとモリとの関係を察していたのか、それとも、女性陣にヴィーが証しているのか・・真偽は定かではないが、相乗りして、誰よりもはっちゃけていたのは自分だ。

「サンキュ、シノ。後でね」ウィンクして前席の子供達の方へカートを押してゆく。ヴェロニカの後ろ姿を知らず知らずの内に目で追っていると、志乃が腕をトントンと叩いて、軽く警告してきた。ハッとして、ジュースの入った紙コップを手に取って、口へ運ぶ。

「フィリピン諸島の次は、カリブ海諸島国間移動に就航ですかね?」   志乃を見ると、心なしかニヤ付いている。

「いや、政治的な配慮から、後廻しにするかもしれない・・」

「政治的配慮?」

「アメリカがね、ちょいと厄介なんだ。海洋モビルアーマーとフライングユニットの護衛の必要なのも、この船の動力源が核熱モジュールだからだ。 海賊さん達にシージャックされて、モジュールに起爆装置をつければ、それで原爆並みの破壊力の爆弾が完成してしまうからね・・」

「海賊って、この辺りで言うと、イスラム系組織ですか?」

「うん、東南アジアではね。アメリカでは、 中南米や地中海にいたマフィアが挙って北米を目指している。アメリカ経済が荒れ始めて、銃は相変わらず野放図に販売しているし、麻薬を捌きやすい環境が整ってしまっている。マフィアが国境を越えて集まりだすと、中には上部組織が本格的に絡んでくる。アフガンやパキスタン北部の麻薬を栽培しているアル・カイダ系やIS系の組織が、北米マーケットに進出し始めている。
アメリカは国内でのテロ対策や暴動に追われるようになるかもしれない。もし、カリブ海諸国に海洋高速網を構築すると言うと、アメリカの南部、メキシコ湾側の都市へ乗り入れたいって言い出すだろう。腐っても、まだアメリカ合衆国だからね・・」

「そうか。キューバにしたって、アメリカの港との往来便を求めてくるでしょうしね・・」

「アメリカの港に、護衛の中南米軍が気楽に入っていけないしね・・そう考えると、北米は後回しで、南太平洋が先かな・・」

「それもあって、フィリピンなんですか?」志乃が身を乗り出してくる。・・決して間違いではないのだが・・

「志乃ちゃん、違うよ。ニューカレドニアと仏領ポリネシアなんだよ、先生の次の狙いは」
後席のサチが立ち上がって、叔母を諭している。頭を動かして後方を見る。母の幸乃より、その妹の志乃の方に、サチは似てきたなとマジマジと比較していた・・

「えっ、どういうこと?」

「えっとね、21世紀に入って、フランスから独立する機運がニューカレドニアで高まっているでしょ、独立派とフランス植民地継続派と、完全に2派に分かれて。
2030年代まではニッケルや石油などの中国向け資源取引に順じて、中国の政治介入の懸念があったけど、誰かさんの思惑で、中国の経済的な失速が始まると、ニューカレドニア独立を後押しする国が、今は居ない状態になっている。独立推進派は、核実験の過去や原発を増やすエネルギー策を許容しない姿勢を見せて、どこかの島国連合に後ろ盾になって欲しいと動き出している・・彼らから見て、東の南米の覇者と西の島国に挟まれたがってる。まるで、コンビやトリオを相手にするのが得意な誰かさんみたいに・・」   サチが人の顔を見ながら発言するので、顔を逸らす。

「ふーん、誰かさんかぁ・・」姪っ子の視線の先の主を、隣席から見て 笑っている。

「義理の娘のイタリア人デザイナーに、リゾートホテルをデザインさせて、パンパシフィックホテルをハワイ各島、ニューカレドニアとそのお隣のボツワナ共和国、そして仏領ポリネシアのタヒチ、ボラボラ島にも建設して、利益を上げているのは、一体誰でしょうか?」 サチの隣席の玲子も参戦してきて、席を立ち上がった。我が家の女性陣は、国際社会をよく分析なさっておいでのようだ・・

「誰かさ〜ん、そんな前から南太平洋を狙っていたんですか? 5年前くらいかな?」志乃が後半で玲子を見ながら聞くと、玲子が頷く。

「ホテルの収益はヴェロニカのものだよ。パンパシのオーナーなんだから」

「あら、羨ましい。義理の娘には破格の待遇なのね・・ねぇ、御義父さま」
志乃が含みのある笑いをする。玲子とサチの表情を見ると、2人ともヴェロニカとの仲を察しているのかもしれないと思った。アチラに関しては、隠し事など存在しないのではないか、この家は・・

「何の話?」キャビンアテンダントの格好をした彩乃が、人の膝の上に勝手に座り込んでくる。・・何故、そこへ座るのだろう・・

「サマになってるよ、アヤ」姉のサチに言われ、後輩位好きの彩乃が、いつものように顔を右へ動かす。流石にキスの強要はしないが、人の目を見ながら「似合う?」と流し目で聞いてくる。半ば強要された状態で、似合わないとは言えない。仕方無く、頷く。

「台湾の志木さんに頼めば、そのユニフォーム譲って貰えるのかな?」玲子が言うのでピクッと思わず反応してしまう・・

「今、後方のレバーの動きを、私めの臀部が察知致しました。先生は、  玲ちゃんのセーラー服、メイド服に続いて、スッチー姿をご所望です」

彩乃が余計な事を口にすると、玲子がしたり顔で煽ってくる。この子はダバオまで行かずに、サンボアンガにも付いて来るかもしれない・・

ーーーー

月も出ていない闇の中を、足早に移動する一群が居た。彼らは背中に重そうな荷物を背負い港まで辿り着いた。軍の検問所の監視カメラも動作せず、警備担当者は机に突っ伏して寝ていた。軍内部の賛同者は、しっかりと仕事をしてくれた。ここまで来れば成功したも同然だった。あと少しだ。重い荷物からも直に解放されるだろう。気力が湧いて出てくるのを感じながら、巡洋艦とフリゲート艦が停泊している埠頭に到着する。          「Remenber, Noumea Harbar」 と、フランスが後世まで語り継ぐかもしれない・・。

いよいよ大一番だと一群が2つのチームに分かれて、それぞれの艦へ向かう。艦の留守役のはずの協力者達と合流し、握手もせずに頷きあう。
「さぁ、始めよう」タラップに足を掛けて、艦内へ入ろうとしたその時だった。空が明るみを帯びた。「チッ、バレたか!」サーチライトに照らされるのだろうか?と思ったその時、轟音が鳴り響いた。続けて、離れて停船しているフリゲート艦からも爆音が聞こえ、艦が大破して炎上を初めている。

「何だ・・一体、何が起きた・・」協力者たちも、プラスチック爆弾を背負った男達も、燃え盛り誘爆をしている戦艦から一斉に離れた。搭載している兵器が爆発を始めて、危険を感じたからだ。誰がやったんだと思いながら、「とにかく、予定通り連絡を!」と爆破係の指揮官が叫んだ。「分かった!」協力者が走りながら、携帯で連絡を始める。
「何者かの攻撃を受けて、艦が大破して炎上中!至急、消火航空隊をよこしてくれ!」と。 

ニューカレドニア島の住民たちが、闇の中を2つの隕石が落下していくのを見た、という目撃証言と、繁華街で撮られていた結婚式の2次会の映像、新郎新婦の背後に偶々映り込んでいた落下してゆく隕石の映像が出てきた。 本国フランスは騒然となる。ベネズエラの隕石攻撃なのではないかと言うものも現れる。しかし、証拠もなければ、ベネズエラが戦艦を、しかもニューカレドニアの軍港施設を攻撃する理由が皆目検討もつかなかった。    消火活動など意味はなかった。巡洋艦はその場で大破して沈没し、フリゲート艦は真っ二つになって船首と艦尾が青い火を上げて燃えていた。    奇跡的に、両艦の留守役の乗組員達は埠頭で運動中で難を逃れ、負傷者も居なかった。 

独立派の頭目と言われる男の元に、見知らぬアドレスでメールが届き、震撼する。
「行動を慎んでほしい。頼むから、おとなしくしているんだ」と。

フランス軍は軍事衛星を失った状態なので、観測衛星を持つドイツや韓国に、隕石落下に関してデータは残っていないか確認依頼をする。しかし、どの国も南太平洋への落下物までは監視対象としていなかったので、分からないと即答が返ってくる。
ベネズエラを糾弾する材料が、何時まで経っても見当たらない。その一方で、軍の技術部隊は、「隕石を落下させて戦艦を直撃するのは、技術的に不可能」と判断した。海上に着水させている大気圏突入ポッドも、そこまでの精度があるようには見られないと断定した。

隕石が落下していく映像と、戦艦が爆発炎上している映像が立て続けに各番組で流れていた。NASAの元研究者や、米軍のOB達がコメントを求められ、同じように回答していた。「これは偶然生じた現象です。発生した確率で言えば、限りなくゼロに近い。不運だったと申し上げるしかない」と。

フランスはハワイの米軍に、合同調査の要請を出した。

(つづく)

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