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フード販売と観客動線 ~Bリーグ決算考察⑥ 琉球ゴールデンキングス営業収入その他(飲食販売)編~

どうも。プロスポーツがどうやって稼いでいるのか、おはようからおやすみまで四六時中考えているTaiyoです。

前回のnoteは、2016-17シーズンより2018-19シーズンまで3シーズンの琉球ゴールデンキングスの決算報告からリーグ配分金について掘り下げました。Bリーグの「スマホファースト」戦略から配分金の分配率向上のカギは公式SNSをどう運用するか。そしてキングスは現在SNS運用に積極的ではないものの、新アリーナ移転後はSNS戦略は重要になる事を述べました。

では、今回のnoteはキングスの営業収入(その他)について掘り下げます。

営業収入(その他)
2016-17 ¥  75,770,000 (4位)
2017-18 ¥  72,326,000 (7位)
2018-19 ¥100,313,000 (6位)
 ※カッコ内は(B1クラブ内順位)

Bリーグが発表する決算報告「その他」には以下が含まれると考えられます。

飲食売上
肖像(イベント出演・広告出演)
ファンクラブ売上
施設管理運営売上
別事業売上

今回はその中でも、飲食売上について語ります。ただし、飲食売上については金額の公表がありませんので、キングスが実際のホームゲーム会場でどんな飲食販売計画を実行しているのかを掘り下げていきます。

まずは前提として「体育館で飲食を販売する」とはどういう事なのかを掘り下げます。

そもそも体育館は観客が「並ぶ」事を想定してない

現在多くのBリーグホームアリーナとして使われている公共体育館は、本来「するスポーツ」のための施設であり、そもそも「観戦する」ために建てられていません。そのことで最もネックになるのが観客動線です。

体育館は「興行の観客」を想定していないので、固定観客席があったとしても【出入口】→【観客席】の動線計画だけです。

観客が途中で席を立ってフードやドリンクを買って戻ってまた座って、という動作を想定していないのです。フードを購入するために並んでいる人達が通路を歩く人達の邪魔になるのは、「並ぶ」事を想定していないので当然の結果です

体育館の中では自由にフード販売できない

また体育館は、興行を開催する場合に必要な設備が無いことがほとんどです。その事で大きく影響を受けるのもまた飲食販売です。

飲食販売に関連する法令は数多く有り、体育館での飲食販売はそれら法令をクリアする事が必須ですが、体育館では設備面の問題から法令クリアはなかなか厳しいです。

試合日の飲食販売に関連する法令の一部
 火を利用する施設の設置:消防法
 飲食の提供:食品衛生法
 公園内の飲食店の設置:都市公園法

参照:
スポーツ施設に関する調査研究事業(平成27年度):スポーツ庁
第4章 スポーツ施設の関連法令 (PDF)

私は法律家でも飲食業経営者でもないので正しい情報とはいえませんが

ざっくり言ってしまうと、
【体育館の中】
臨時施設(出店)で火を使う調理は絶対NG、材料からその場で加工調理もNG、すでに調理されてパッケージされた飲食物は販売OK。
【体育館の外】
無許可に露店を出すのはNG、出店計画を事前に提出して認可を受けた店舗のみ営業OK
という縛りがあります。

特に消防法の縛りで火を使えない、これは大きいです。

どこのホームアリーナに行っても、屋内で買えるフードはお弁当やサンドイッチ、ピザ、焼き鳥やフランクフルトなどの調理済みフードしか販売できないのはこれが理由です。

鍋を火にかける麺類や煮込み、その場で焼いてくれる鉄板焼きは、どうしても屋外の露店販売になります。座席からの距離も遠く屋内ほど気軽には購入出来ません。会場の観客再入場コントロールする手間は想像以上に大変なはずです

飲食販売へ進化するキングスの動線コントロール

キングスはこの飲食販売のネックである「並ぶ事を想定していない」点と「飲食用設備が無い」点を、体育館の動線計画を根底から見直す事で改善しています。そしてその動線計画はシーズン途中でも常に進化していました。

まずホーム会場である沖縄市体育館の基本配置をおさらいです。

上記写真は沖縄市体育館の正面となる北面です。通常の1階出入口はこの北面に2か所あります。そしてこの体育館で唯一ブース設置が可能な屋内スペースである多目的ホール(ホワイエ)もここにあります。

1階平面図に基本的な動線、観客入場動線(赤)と販売ブース並び列(青)を書き足しました。単純に1階出入口から全ての観客を入場させて、多目的ホールに販売ブースを設置すると、(赤)の動線と(青)の並び列が交差している事が分かります。試合開始前やハーフタイムには人でごった返すのが容易に想像がつきます。事実、以前bjリーグ時代のキングスもこのような動線でしたので非常にごった返していました。

これこそが一般的な体育館の動線です。「アリーナと体育館は違う」と最近よく言われますが、このように人の動きを追ってみるとその言葉の意味が見えてくると思います。

しかし、Bリーグ初年度よりキングスは観客動線の大変革をします。全ての観客の入場口を1階から2階裏口へ変更しました。TBS「がっちりマンデー!!」でも「お客さんが会場に入った瞬間の目線を計算」している演出面での効果として紹介されました。

この東面にある2階裏口を入場口にする事には、もう一つの狙いがありました。それが観客入場動線と販売ブース並び列の分離です

試合会場で配布される会場レイアウトを加工した図です。全ての観客を2階裏口から入場させる事で、物販ブースを設置する1階多目的ホールを(1階客も含め)観客入場動線(赤)から分離させている事が分かります。つまり購入客の並び列スペースを動線計画により作り出したのです

フード販売スペースを屋外キッチンカーへ

飲食販売に必要なスペースを確保しましたが、まだ消防法などの問題が残っています。

2016-17シーズン まだ飲食ブースのほとんどは屋内にあり調理済みのフードばかりでした。それが2018-19シーズンにはブース配置がガラッと変わります。

飲食ブースのあった場所のほぼ全てが物販ブースになり商品を手に取りやすくなりました。そして飲食ブースはどこに行ったかというと

使わなくなった1階西側出入口付近にキッチンカーを集結させて、飲食ブースを建物の外に配置しました。会場レイアウト図でいうとココですね。

ここで秀逸なのは、ここには1階出入口の広いポーチとそれを覆う大きな庇があるので、建物外部にもかかわらず内部の拡張部分としてしている点です。つまりキッチンカー(屋外)に行っても再入場コントロールは必要無いのです

キッチンカー(屋外)なので消防法から離れて「火を使う温かい料理」が提供できる、そして観客動線からも切り離してるので購入並び列スペースも確保。良いこと尽くめです。いや素晴らしい。

キングスは建物の使い方がバツグンに上手い

琉球ゴールデンキングスの本当のスゴさは建物の使い方にあります。

裏口を入場口にする
屋外を屋内の続きにする

簡単そうに見えても「体育館」の常識に囚われた頭では思いつくのも困難です。そのアイデアを思いつくのは「アリーナ」という正解を知っているからです。「アリーナ」の使い方を知っているからこそ、裏口が入場口に見えたり、ゲームが始まってから屋外にフードを買いに行くのは変だと思い、常にホーム会場をアップデートさせてきたのでしょう。

いかがでしたでしょうか。体育館においては、観客が「並ぶ」事を想定してない事・必要な設備が整っていない事からフード販売は難しい。しかしキングスは観客動線を整備してキッチンカーを上手く活用する事で、飲食販売をよりスムーズに行えるように工夫している事を掘り下げてみました。

次回はキングスの営業収入(その他)の項目から、沖縄新アリーナ指定管理者としての動きを掘り下げてみたいと思います。

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